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第7話
永遠1
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「ああ、そうか」
俺は無意識に呟いた。すると、すとんと全部収まって、ふうっと満たされた笑みが体の底から浮かんできた。
「そうだな」
ニヤリとルシアンに笑いかける。
「おまえとなら」
俺たちは最強になれるだろう。
水、土、木、風、火。すべての属性を操り、世界の真理を知る俺たちなら。
「世界征服も夢じゃないな」
笑って冗談を言えば、ルシアンは首を傾げた。
「ブラッドは世界が欲しいの?」
「まさか。この手に収まりきらないものなんか、いらねーよ」
「なんだ。本当、ブラッドって欲がないよね」
なぜか溜息をつかれて、むっとする。
「なんだよ、おまえは欲しいのかよ。手に入れて何をしたいんだよ」
「別に、俺はいらないよ。でも、ブラッドって、ご飯以外、何にも欲しがらないじゃない。そんなブラッドが珍しいこと言うから、だったら頑張ろうかなって、思ったのに」
ルシアンがむくれた。
うん。文句なくかわいいけどな、言ってることは、桁外れに剣呑すぎるぞ。
「おまえな」
俺は呼びかけて、そこで言葉に詰まった。
守ってやりたいとか、手を汚させたくないとか、今までさんざん思って言ってきたことが、おこがましく、傲慢に感じて、口にできなかったのだ。
ルシアンが片割れだというのなら、共に戦う相手だというのなら、俺たちは同等だ。そうだと、俺はちゃんとルシアンを認めている。
それでも、ルシアンに誰かを傷つけてほしくないし、世界を簡単に切り捨ててほしくないという気持ちは消えない。
それは、ルシアンを庇護対象に見ているからじゃなくて。そうじゃなくて。
俺は、上手く言えないのを承知の上で、言葉にして伝えてみようと思った。
「……あのな、ルシアン。俺たちは誰も、世界を構成する欠片なんだ。おまえだって知ってるだろ? 魔法を使えば、感じられるはずだ。この体も、魂も、世界から生まれ出で、いずれ世界に還るものだ。……だから、誰かを傷つけるのは、自分自身を傷つけているのと変わらないんだ。俺は、……俺は、おまえに、自分を大事にしてほしいんだ」
「……うん」
ルシアンは神妙に頷いた。それから、ふにゃりと笑った。
「そっか。世界はブラッドか。じゃあ、大事にしなきゃね」
俺は息を呑んで、次の瞬間には赤面した。
なにこっ恥ずかしいこと、堂々と言ってやがんだ!!
俺はいたたまれずに目をそらして、ずりずりとベッドの上でにじり退いた。
うわー、あまりにも恥ずかしくて、冷や汗出てきた。
「ええー? どうして逃げるの?」
「逃げてねーよ」
「逃げてるよ」
ルシアンがベッドに手をつき、こちらに身をのりだしてくる。
「俺は疲れた。おまえ、あっち行ってろ」
しっしと手で追い払う。
「ブラッド、耳まで赤いよー。照れ屋だよねー」
俺は横目でルシアンを睨みつけて、額をべしりと叩いてやった。
「うっせー!! あっち行け!!!」
なんか、こいつ、この頃扱いづらくなった気がするっ。
その時、コンコンと扉がノックされた。ルシアンが体を起こして、扉へ向かって、はーい、と返事をする。
俺はルシアンが退いて、ほっとした。
「お食事ー、持ってきましたよー」
ロズニスがワゴンを押して入ってくる。彼女のタイミングのよさに、感謝の念がわいてしかたなかった。
それを見透かされたのだろう。ルシアンは生意気にも、俺にクスリと笑いかけてから、食事の用意を手伝うために離れていったのだった。
俺は無意識に呟いた。すると、すとんと全部収まって、ふうっと満たされた笑みが体の底から浮かんできた。
「そうだな」
ニヤリとルシアンに笑いかける。
「おまえとなら」
俺たちは最強になれるだろう。
水、土、木、風、火。すべての属性を操り、世界の真理を知る俺たちなら。
「世界征服も夢じゃないな」
笑って冗談を言えば、ルシアンは首を傾げた。
「ブラッドは世界が欲しいの?」
「まさか。この手に収まりきらないものなんか、いらねーよ」
「なんだ。本当、ブラッドって欲がないよね」
なぜか溜息をつかれて、むっとする。
「なんだよ、おまえは欲しいのかよ。手に入れて何をしたいんだよ」
「別に、俺はいらないよ。でも、ブラッドって、ご飯以外、何にも欲しがらないじゃない。そんなブラッドが珍しいこと言うから、だったら頑張ろうかなって、思ったのに」
ルシアンがむくれた。
うん。文句なくかわいいけどな、言ってることは、桁外れに剣呑すぎるぞ。
「おまえな」
俺は呼びかけて、そこで言葉に詰まった。
守ってやりたいとか、手を汚させたくないとか、今までさんざん思って言ってきたことが、おこがましく、傲慢に感じて、口にできなかったのだ。
ルシアンが片割れだというのなら、共に戦う相手だというのなら、俺たちは同等だ。そうだと、俺はちゃんとルシアンを認めている。
それでも、ルシアンに誰かを傷つけてほしくないし、世界を簡単に切り捨ててほしくないという気持ちは消えない。
それは、ルシアンを庇護対象に見ているからじゃなくて。そうじゃなくて。
俺は、上手く言えないのを承知の上で、言葉にして伝えてみようと思った。
「……あのな、ルシアン。俺たちは誰も、世界を構成する欠片なんだ。おまえだって知ってるだろ? 魔法を使えば、感じられるはずだ。この体も、魂も、世界から生まれ出で、いずれ世界に還るものだ。……だから、誰かを傷つけるのは、自分自身を傷つけているのと変わらないんだ。俺は、……俺は、おまえに、自分を大事にしてほしいんだ」
「……うん」
ルシアンは神妙に頷いた。それから、ふにゃりと笑った。
「そっか。世界はブラッドか。じゃあ、大事にしなきゃね」
俺は息を呑んで、次の瞬間には赤面した。
なにこっ恥ずかしいこと、堂々と言ってやがんだ!!
俺はいたたまれずに目をそらして、ずりずりとベッドの上でにじり退いた。
うわー、あまりにも恥ずかしくて、冷や汗出てきた。
「ええー? どうして逃げるの?」
「逃げてねーよ」
「逃げてるよ」
ルシアンがベッドに手をつき、こちらに身をのりだしてくる。
「俺は疲れた。おまえ、あっち行ってろ」
しっしと手で追い払う。
「ブラッド、耳まで赤いよー。照れ屋だよねー」
俺は横目でルシアンを睨みつけて、額をべしりと叩いてやった。
「うっせー!! あっち行け!!!」
なんか、こいつ、この頃扱いづらくなった気がするっ。
その時、コンコンと扉がノックされた。ルシアンが体を起こして、扉へ向かって、はーい、と返事をする。
俺はルシアンが退いて、ほっとした。
「お食事ー、持ってきましたよー」
ロズニスがワゴンを押して入ってくる。彼女のタイミングのよさに、感謝の念がわいてしかたなかった。
それを見透かされたのだろう。ルシアンは生意気にも、俺にクスリと笑いかけてから、食事の用意を手伝うために離れていったのだった。
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