82 / 104
第7話
ただいま3
しおりを挟む
ロズ二スは顔をそむけたまま、横目で俺を見た。唇が尖っている。目つきも鋭い。まだ怒っているらしい。
「そ、そーやってー、もので釣ろうとしても、駄目ですー。私はー、ひっかかりませんからー」
俺も少々むっとする。謝って、こっちから折れてるのに、ちっともなびく素振りが見られない。それに、もので釣ろうとは心外だ。
「約束したから、買ってきただけだ。行った町ごとに、おまえはどうしているかと心配しながら選んだものだ。そんなつもりで買ってきたんじゃない」
俺は溜息をついた。
「わかった。気がすむまでここにいればいいだろう」
そしてランジエに相談をもちかけた。
「すまないが、師匠の手があくまで、もうしばらく彼女を頼めるか」
「それはかまいませんが。……ロズニス、今日は朝からそわそわしていたじゃないか。何を意地を張っているんだい?」
「意地なんか、張ってないですー」
かたくなな態度は崩れない。
「もういい。好きにしろ」
俺は踵を返した。まったく、そこまで怒ることないだろう。
根に持った女をどうこうするのは無理だ。こうなったら、放っておくしかない。
「ブ、ブラッド様が、いけないんですからねっ」
背中に怒鳴りつけられて、何事かと振り返る。
涙目で足を踏ん張って、ロズニスは俺を睨みつけていた。
「こ、この、男ったらしー!!! 不潔ですーっ!!!!」
男ったらし!?
驚きのあまりかたまって声も出ない俺の横を、猛烈な勢いで駆け抜けていく。扉がドバーンと開け放たれ、バタバタと廊下を走る音が遠のいていった。
「な……、何、なんだ?」
呆然として周囲の人間に視線をめぐらせれば、なぜか、特に男が目を伏せてそっと後ろに下がっていった。ランジエさえも目を逸らしている。
こいつら、いったい、何を知っている?
「ランジエ?」
「あー、あの、ロズニスを叱らないでやってください。おかしな噂が流れてまして。たぶん、それを真に受けてしまったのかと」
嫌な予感に何も聞きたくなかったが、それでもこうなってしまえば、聞き出さないわけにもいかない。
「噂の内容は」
「は。あくまでも噂ですので」
言いにくそうに渋る様子に、悪い予感がますますふくらんだ。
「いいから、言え」
「……ルシアン様のご婚約に傷心なさったブラッド様が、お」
と言ったきり言い淀む。お、なんだ。
あれか。あれなんだな。
「男か」
「……はい。それを、その、あさり、に、出かけられた、と」
聞いたとたん、俺はその場でしゃがみこんだ。立っていられなかった。そのまま床にめり込んでしまいたかった。
どこまで恐ろしい話になってんだ、ちくしょうめ。
おう。なんか、目から汗が出てきやがったゼ。
俺は困惑するランジエたちのど真ん中で、脱力のあまり、どうしても立てなかったのだった。
「そ、そーやってー、もので釣ろうとしても、駄目ですー。私はー、ひっかかりませんからー」
俺も少々むっとする。謝って、こっちから折れてるのに、ちっともなびく素振りが見られない。それに、もので釣ろうとは心外だ。
「約束したから、買ってきただけだ。行った町ごとに、おまえはどうしているかと心配しながら選んだものだ。そんなつもりで買ってきたんじゃない」
俺は溜息をついた。
「わかった。気がすむまでここにいればいいだろう」
そしてランジエに相談をもちかけた。
「すまないが、師匠の手があくまで、もうしばらく彼女を頼めるか」
「それはかまいませんが。……ロズニス、今日は朝からそわそわしていたじゃないか。何を意地を張っているんだい?」
「意地なんか、張ってないですー」
かたくなな態度は崩れない。
「もういい。好きにしろ」
俺は踵を返した。まったく、そこまで怒ることないだろう。
根に持った女をどうこうするのは無理だ。こうなったら、放っておくしかない。
「ブ、ブラッド様が、いけないんですからねっ」
背中に怒鳴りつけられて、何事かと振り返る。
涙目で足を踏ん張って、ロズニスは俺を睨みつけていた。
「こ、この、男ったらしー!!! 不潔ですーっ!!!!」
男ったらし!?
驚きのあまりかたまって声も出ない俺の横を、猛烈な勢いで駆け抜けていく。扉がドバーンと開け放たれ、バタバタと廊下を走る音が遠のいていった。
「な……、何、なんだ?」
呆然として周囲の人間に視線をめぐらせれば、なぜか、特に男が目を伏せてそっと後ろに下がっていった。ランジエさえも目を逸らしている。
こいつら、いったい、何を知っている?
「ランジエ?」
「あー、あの、ロズニスを叱らないでやってください。おかしな噂が流れてまして。たぶん、それを真に受けてしまったのかと」
嫌な予感に何も聞きたくなかったが、それでもこうなってしまえば、聞き出さないわけにもいかない。
「噂の内容は」
「は。あくまでも噂ですので」
言いにくそうに渋る様子に、悪い予感がますますふくらんだ。
「いいから、言え」
「……ルシアン様のご婚約に傷心なさったブラッド様が、お」
と言ったきり言い淀む。お、なんだ。
あれか。あれなんだな。
「男か」
「……はい。それを、その、あさり、に、出かけられた、と」
聞いたとたん、俺はその場でしゃがみこんだ。立っていられなかった。そのまま床にめり込んでしまいたかった。
どこまで恐ろしい話になってんだ、ちくしょうめ。
おう。なんか、目から汗が出てきやがったゼ。
俺は困惑するランジエたちのど真ん中で、脱力のあまり、どうしても立てなかったのだった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる