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第6話

ただの本心

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「お帰り」
「おう」

 魔法陣は相変わらず光っていた。いやに効力が長い。どうなっているのか。
 魔力の圧縮貯蔵には技術がいる。ぺリウィンクルで画期的な技術が開発されたのだろうか。それがあれば、連絡玉の飛行速度を上げられるかもしれない。ぜひにも知りたい。
 気になったのがルシアンにわかったのだろう。

「ブラッドが出てってすぐ切れちゃったから、俺が再起動させた。これが動いているかぎり、普通の人間は外から入ってこれないからね。息できないし、ヘタに空気の流れに触れると切り裂かれるし」
「なんだ。そうか」

 残念だが、他国に先に新技術を確立されるより、よっぽどいい。圧縮貯蔵技術の進化は、大魔法の即時発動を可能にする。
 前世でルシアンが王都に仕掛けた魔法は、詠唱だったから防げたのだ。あれが防ぐ間もなく発動されたら、為すすべもない。
 そんな大量破壊目的の魔法陣を開発されたらと思うと、ぞっとする。

 俺は知識欲に触発されて、頭の中に次々とわいてきた魔法関連の事柄を脇へ追いやった。今はそれどころではないのだ。
 ジスカールの傍にしゃがみながら、ルシアンに情報を伝える。

「商隊は逃げたらしい。自前の護衛もついているから、今すぐどうこうってほど危機的状況じゃないと思う。後で探しにいく。それから、今回は俺の拉致が目的だったみたいだ。俺を人質にして、うちに何か要求があったみたいだな」
「へえ」

 ふっとルシアンが冷たく笑った。

「俺に用ってことかな」

 俺は答えなかった。正しい答えは、まだ得ていない。推論だけで断定することはできなかった。
 ただ、捕まえるのも、捕らえておくのも不向きな俺を人質にする必要があったことから考えると、要求相手はルシアンだった可能性が高かった。
 俺の最凶ぶりは有名だが、それとセットでルシアンの兄思いぶりも美談として広まっている。ルシアンに言うことをきかせるには、俺は一番良い駒だろう。
 さしずめ、国土に緑を戻してくれってところだろうか。

 推理はそこまでにして、俺はジスカールの状態をざっと診た。他の三人も確かめる。それほど大差ないが、あえて言えばジスカールが一番重体か。

「助けるの」

 質問ではない、確認としてルシアンに聞かれた。

「うん」

 間に合って良かった。
 商隊の情報をあいつらが簡単に教えてくれるとは思えず、聞き出さないことには身動きがとれなかったから。
 これからも、仕事先から得た信用を失わないためには、どうしても欠かせない情報だった。たとえ、ジスカールたちを犠牲にしても。

 それでも、彼らを死なせたいわけではない。死なせていいとも思っていない。決して、断じて、絶対に。
 それを誰かに弁解することは、こうすることを選んだ俺に許されることではないから、言わないけれど。

 ジスカールの上衣を肌蹴はだけ、包帯を切り裂いて、傷口に触れる。

「ルシアン、もう少し頼む」

 俺は気もそぞろで、ルシアンに守護を頼んだ。
 本来、植物に向けるはずの木の能力を、人間相手に使うのは無理がある。木の能力者でも、歴史上数名しか知られていないし、俺は彼らほどの使い手ではない。病を治せるわけではなく、損壊した部分を修復できるくらいでしかない。
 それにも、俺では前後不覚になるほどの集中力と、それなりの魔力がいることになる。

「駄目って言ったって、きかないくせに」

 拗ねた口調に、俺はちょっと振り返った。

「頼むよ。おまえだけなんだ、こんなこと頼めるの」
「俺だけ?」

 疑い深そうに聞き返される。

「ああ。おまえ以外、他の誰にも背中をあずけられなかった」

 ずっと、誰にもそんな気になれなかった。城を出て以来、いつも一人でどうにかしなければならず、ぎりぎりな状況に、心がささくれだっていた。

 だって、魔法を放つ前に、味方の安全確認からしなければならなかったんだぞ。だったら、一人でやった方が、どれくらい気楽だったか。
 まあ、いつ誰に寝首をかかれてもおかしくないような状況だったんだから、味方と言える味方もいなかったわけだけど。

 俺の心からの言葉に、ルシアンはなぜかもっと拗ねた表情になって、ずるいよね、と言った。

「なんでそういう殺し文句を、さらっと言うのかな」

 俺はルシアンの言いようがおかしくて笑った。

「殺し文句? ただの本心だろ。じゃあ、頼むな」

 笑ったことで、戦いの後でガチガチだった体も心もほぐれていた。
 俺はリラックスして、ジスカールへと視線を戻したのだった。
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