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第6話

連絡玉1

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 『連絡玉』は手下たちが言い出した名称で、まだ試作段階のものだ。
 起動すると、物理的に破壊されない限り、設定した場所に飛んでくるという単純な動作をするものだ。ただ、飛ばす、方向を選択する、魔力の使えない者が起動させる、等のハードルが……てな専門的な話はどうでもいいな。

 直系3cmの金属製の球の中には物が入れられるようになっていて、助けが必要等、緊急事態に手紙を入れて飛ばせば、設定場所、つまり、この宿のこの部屋のこのテーブルの上に辿り着くようにしてある。
 到着場所を建物内にしたのは迂闊だった。まさか、無理矢理屋根をぶち抜いて落ちてくるとは思わなかった。じゃあ、どうなる予想だったって、ああ、そうだよ、ぜんぜん考えてなかったんだよ。考えなしの謗りは甘んじて受けようじゃないか。

 俺は連絡玉を手に取り、観察してから自分のシャツの袖で拭った。赤黒いシミがつく。血だ。
 球に刻んだ魔法陣の向きを見て、左右の手で、きゅっと捻る。合わせは螺子式にしてある。二つに分かれたこれを合わせると、起動する仕組みだ。

 簡単に左右に分かれた中から、血塗れの地図が出てきた。それを破れないように開く。
 ぺリウィンクルの王都に近い場所が、鋭い刃物で×印に切り裂かれていた。

 それをカルディに渡し、球の内側を確かめれば、8と刻印してある。試作一号から順番に振ってある数字だ。自分で作ったものだ、一つ一つに思い入れがあり、当然それに付随する情報もよく覚えている。渡した相手は、

「ジスカール」

 四番目に配下に入れた盗賊の首領だった男だ。まだ若いが腕の立つ奴で、ぺリウィンクルの王都まで行く商隊を任せた。
 貧しさから口減らしにあって盗賊に拾われたらしく、学がないために字がまったく読めなかった。だから、地図を持たせたのだ。

 旅程と場所、玉の飛ぶ速度、それらを考えると、襲われたのは昨夜かもっと前。一晩以上たっているのは間違いなかった。
 間に合うわけがない。事は終わった後だ。それでも、行かなければならなかった。
 これを飛ばせば、必ず助けに行くと、約束したのだから。

「出てくる」

 カルディに玉の残骸を押しつけ、地図を取り上げる。

「わかった。こっちは適当にやっておく」
「任せた」

 次いでルシアンに協力を頼んだ。

「手伝ってくれるか」
「もちろん」

 ルシアンは優雅に立ち上がって楽しそうに笑った。
 俺は上を見上げて、天井に穴を開けた。窓は道に面していて、そんなところから飛べば目立ちすぎるからだ。

「オヤジさんには、後で弁償するって、言っといてくれ」

 カルディに言い置いて、すぐさま屋根に上がった。続いてルシアンも出てくる。
 地図を見せ、太陽の位置と遠くに見える山並みから、二人で方向を確かめる。目指すは南南東だ。

「高度を上げておいて、一直線にいこう。手加減はいらない。とにかく急ぎたいんだ」
「いいよ。ブラッドがそうしたいのなら」

 左手をつなぐ。ルシアンは右手だ。巨大な力が流れ込んでくる。体に馴染むのを待ち、魔法へと練り上げる。
 そして、展開。初めから大出力で飛び立つ。

 そのせいで足元の屋根が広範囲にわたって崩れ落ちたのだが、強大な魔法の中心にいた俺たちには感知できなかった。
 少しだけ配慮すれば免れたのに、緊急連絡に気をとられていた俺は、思いつきもしなかったのだ。
 こうしてロカンでの俺の評判は、『大食漢の破壊魔』で落ち着くようになったのだった。
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