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第6話

盗賊狩り1

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 一日目は、ルシアンたちの馬車が出立するのを見計らって、他の旅行者に混じり、少し離れて後をついていった。馬が牽いているとはいえ、ゆっくりだ。じゅうぶん徒歩でついていける。
 ただし、案の定と言うべきか、その夜は筋肉痛と疲労でぐったりしてしまった。覚悟の上だったが、さすがに辛かった。

 ここ二十日ばかり、まともに体を動かしていなかったというのもあるが、そもそも前世に比べればまったく体を鍛えてこなかったのだ。
 王族として護身術やら剣の扱いやらは一応叩き込まれたが、それより魔法の方がとっさに出るから、それほど熱心にはやらなかった。そのツケが、ここでいっきにきたというわけだ。

 気を失うようにして眠った翌朝、さらに増した筋肉痛に、うめきながら起き上がった。
 いったいこれ、いつまで続くんだろうと思いながらも、俺は魔法に頼らず、毎日歩いた。
 このあたりでしっかり体を作っておかないと、後で体力不足で負けたとかいうことになる。王族の負けは、すなわち人生の終わりだ。怠惰のせいで守るものも守れず死ぬ破目に陥ったら、死ぬに死ねない。

 でも、ありがたいことに、四日目には嘘のように筋肉痛がなくなり、五日目には余裕すらでてきた。思ったより慣れるのが早かったのは、たぶん、記憶に残る二十七歳よりもだいぶ若いからだろう。

 おかげで、ぎりぎり間に合った。
 駄目だったら、最悪魔法陣使いまくりでしのごうと覚悟していたが、なんとかなりそうだ。
 なんの話かって?
 もちろん、盗賊狩りの話だよ。



 ここまでくると、辺境とか国境とまではいかないが、それなりに田舎で寂れた場所になってくる。
 国内に敷かれた公道には、途中の主要都市や重要箇所に兵が配属されてはいるんだが、広い国内を網羅して警備することはできない。
 そういう手薄な所に盗賊が出るのだ。

 ネニャフル王国は、もう何年も小競り合い程度で戦争というほどのものはしていないし、政局も世情も安定している。
 それでも、国政の枠からはみ出てしまう者はどうしてもいるし、そうなれば物乞いか盗賊くらいしかなりようがない。

 故郷のカナポリ村だって、ぺリウィンクルに占領されたままだったら、村まるごと流民になって、女は体を売り、子供は物乞いかかっぱらいを覚え、男は盗賊になったことだろう。

 それに、なまじ安定してそれなりに栄えているおかげで、荒れた他国から犯罪者が流入しているというのもある。
 エンも頑張ってはいるんだけどなあ。
 私腹を肥やすのがステータスだと思っている貴族だとか、儲けりゃなんでもいいと思っている悪徳商人とか、わざわざ犯罪を奨励してうちの国に放り込んでる隣国だとか、いろいろいて成果ははかばかしくないのだ。

 王族の端くれなのに、何もしてこなかった俺に偉そうなことを言う資格はない。申し訳ないとも思っている。なにしろ税金で養ってもらってるんだからな。国のために働くのが、本来の王族の姿だろう。
 だから、ルシアンが盗賊狩りに協力するのは、義務だとは思う。

 ……思うけどな。
 どこの馬鹿が婚約者連れて相手の実家に挨拶にいくのに、わざわざ遠回りまでして盗賊出没ポイントを通らなきゃならないんだよ。おかしいだろ。非常識だろ。

 あの地図、初めて見た時から、なんか妙だと思ってたんだよ。赤で描かれたルートが、不自然にくねくねしてて。
 それで、休憩時に何が気になるのかとつくづく見てたら、渇水期に国中まわって、ここが危険箇所ですと教えられた場所と、ものの見事に重なってやがった。

 まったく。どうせ出掛けるついでだとエンが考えたのか、示威行為にちょうどいいとルシアンが考えたのか知らないが、放っておけるか。

 地図で示されている通りならば、今日の旅程で危ない場所を横切る。
 だから、今日はとりあえず、朝早くから出て先回りした。

 今は、盗賊のねぐらを探しているところだ。それが見つからなくても、仕事に向かう途中の奴らを捕まえて、無力化するのが狙いだ。
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