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第4話
新しい二つ名2
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ぐでぐでとベッドに逆戻りしながら、俺はルシアンに催促した。
「ルシアン、メシ~」
「ああ、うん。用意させてる。もうちょっと待って」
ルシアンは何か言いたげな顔で、ベッドの脇に突っ立っている。
「座れば?」
「……うん」
たぶん看病用の椅子だろう、おとなしくそこに座るが、顔色が冴えない。無理に突っついても口を割るような奴じゃないので、俺は別の話題をふった。
「被害は出たのか?」
「ううん」
「庭は」
「大丈夫。俺が割ったテーブルセットだけ」
「そうか。よかった。ありがとうな、ルシアン。あれを始末するの、大変だっただろう」
被害もなく、俺も還元してないなんて。
「どうやったんだ?」
「別に。ブラッドを探しただけ」
ああ、まあ、そうかもしれない。還元されなければ、ただの人間が一人と、ちょっと活性化した空間だけだ。
それにしても、腹が減った。メシまだかな。ひもじいな。
「……あのさ、ブラッド」
「なに」
「あの女のこと、そんなに真剣なの」
「ああ?」
まだ言ってやがる。
「あのな、あの人は母親だろ。それ以上でもそれ以下でもねーよ」
「だって、ジョシュアから奪おうとしたって聞いた」
「ちがうだろ。ジョシュアを焚きつけて、あの人を迎えに来させようとしたんだろ。それで俺がやっつけられれば、あの人だって、ジョシュアを見直すだろ。それでハッピーエンドじゃんか」
ルシアンは、え、と声を漏らしたきり、動かなくなった。俺を穴があくほど見つめている。
「それ本気で言ってるの?」
「本気って、おまえ、なんだと思ってたんだよ。途中で邪魔するしさ。俺を手伝ってくれるつもりじゃなかったのかよ。それにだいたい、いくらなんでも、兄弟喧嘩としてもあれはやりすぎだろ。大惨事になるところだったじゃねーか」
俺が十日も目が覚めなかったっていうのは、魔力が枯渇しかかって、戻るのにそれだけ時間がかかったってことだろう。下手すれば死んでるところだ。一人で小石かなんかに生まれ変わってたら、どうしてくれるつもりだ。
ぶつぶつと文句を垂れ流していると、
「ブラッドってさあ」
ルシアンが心底呆れたという声を出す。
「女心に物凄くうといよね」
俺は絶句した。その通りだ。反論できない。だけど、どうして今そんなことを言われなきゃならない。
「なに言ってやがる」
「普通さ、女は好きな男を倒した男を恨んだり怒ったり嫌ったりはしても、好きになったりはしないと思うよ」
「ええ? 強い男のがいいだろ、普通」
「だったら、滅ぼされた国の女は皆、滅ぼした国の男を好きになるわけ? 普通それって、悲劇に分類されるよね」
う。言われてみれば。
てことは、俺のしたこと、初めから終わりまで、見当違いの、骨折り損の、くたびれもうけ?
うあああああ。
俺はがっくりとシーツに顔を伏せた。
「ブラッドって、いつも軽々と俺の想像超えるよね」
なぜかとても上機嫌にルシアンは笑った。
「さすがブラッド。兄さんはやっぱりすごいなあ」
それって、全然褒めてねーだろっ。
「いいからはやく、メシ、持ってこーい!!」
俺は自棄になって叫んだ。
こうして俺は『悪霊憑き』の二つ名も手に入れた。
その悪霊は魔法使いを狙っていて、鉄杭で刺し殺したあげく、凍らせ、地中に埋めて、花を手向けるそうだ。そして、どんな結界も破るので、狙われたら最後逃げることはかなわず、また、怒らせると口から火柱を吹くという。
火柱なんて吹けねーよ!! どいつもこいつも怯えた視線で人の口元見やがって!! いっそ、やれるもんなら、やってみてーよ!!
ネニャフル王国国王の甥、英雄の息子、類稀なる魔法の才能を持ったブラッド・アウレリエ。
彼の受難は、まだまだ続く。
「ルシアン、メシ~」
「ああ、うん。用意させてる。もうちょっと待って」
ルシアンは何か言いたげな顔で、ベッドの脇に突っ立っている。
「座れば?」
「……うん」
たぶん看病用の椅子だろう、おとなしくそこに座るが、顔色が冴えない。無理に突っついても口を割るような奴じゃないので、俺は別の話題をふった。
「被害は出たのか?」
「ううん」
「庭は」
「大丈夫。俺が割ったテーブルセットだけ」
「そうか。よかった。ありがとうな、ルシアン。あれを始末するの、大変だっただろう」
被害もなく、俺も還元してないなんて。
「どうやったんだ?」
「別に。ブラッドを探しただけ」
ああ、まあ、そうかもしれない。還元されなければ、ただの人間が一人と、ちょっと活性化した空間だけだ。
それにしても、腹が減った。メシまだかな。ひもじいな。
「……あのさ、ブラッド」
「なに」
「あの女のこと、そんなに真剣なの」
「ああ?」
まだ言ってやがる。
「あのな、あの人は母親だろ。それ以上でもそれ以下でもねーよ」
「だって、ジョシュアから奪おうとしたって聞いた」
「ちがうだろ。ジョシュアを焚きつけて、あの人を迎えに来させようとしたんだろ。それで俺がやっつけられれば、あの人だって、ジョシュアを見直すだろ。それでハッピーエンドじゃんか」
ルシアンは、え、と声を漏らしたきり、動かなくなった。俺を穴があくほど見つめている。
「それ本気で言ってるの?」
「本気って、おまえ、なんだと思ってたんだよ。途中で邪魔するしさ。俺を手伝ってくれるつもりじゃなかったのかよ。それにだいたい、いくらなんでも、兄弟喧嘩としてもあれはやりすぎだろ。大惨事になるところだったじゃねーか」
俺が十日も目が覚めなかったっていうのは、魔力が枯渇しかかって、戻るのにそれだけ時間がかかったってことだろう。下手すれば死んでるところだ。一人で小石かなんかに生まれ変わってたら、どうしてくれるつもりだ。
ぶつぶつと文句を垂れ流していると、
「ブラッドってさあ」
ルシアンが心底呆れたという声を出す。
「女心に物凄くうといよね」
俺は絶句した。その通りだ。反論できない。だけど、どうして今そんなことを言われなきゃならない。
「なに言ってやがる」
「普通さ、女は好きな男を倒した男を恨んだり怒ったり嫌ったりはしても、好きになったりはしないと思うよ」
「ええ? 強い男のがいいだろ、普通」
「だったら、滅ぼされた国の女は皆、滅ぼした国の男を好きになるわけ? 普通それって、悲劇に分類されるよね」
う。言われてみれば。
てことは、俺のしたこと、初めから終わりまで、見当違いの、骨折り損の、くたびれもうけ?
うあああああ。
俺はがっくりとシーツに顔を伏せた。
「ブラッドって、いつも軽々と俺の想像超えるよね」
なぜかとても上機嫌にルシアンは笑った。
「さすがブラッド。兄さんはやっぱりすごいなあ」
それって、全然褒めてねーだろっ。
「いいからはやく、メシ、持ってこーい!!」
俺は自棄になって叫んだ。
こうして俺は『悪霊憑き』の二つ名も手に入れた。
その悪霊は魔法使いを狙っていて、鉄杭で刺し殺したあげく、凍らせ、地中に埋めて、花を手向けるそうだ。そして、どんな結界も破るので、狙われたら最後逃げることはかなわず、また、怒らせると口から火柱を吹くという。
火柱なんて吹けねーよ!! どいつもこいつも怯えた視線で人の口元見やがって!! いっそ、やれるもんなら、やってみてーよ!!
ネニャフル王国国王の甥、英雄の息子、類稀なる魔法の才能を持ったブラッド・アウレリエ。
彼の受難は、まだまだ続く。
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