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第2話
英雄の称号2
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水撒き行脚の旅は、穀倉地帯が終わり、しだいに辺境の痩せ地へと場所をかえていった。
実は俺たちは数日後をとても楽しみにしていた。俺たちが前世に生まれ育った村へ寄れる予定だったからだ。
もちろん、誰一人として俺たちが誰だったかを知っている者はいない。それでも、俺たちが死んだのはたったの16年前のことで、村には、親が、兄弟が、友人たちが、まだ生きて生活しているはずだった。
名乗れなくてもよかった。彼らが無事であってくれれば、俺は救われる思いがするはずだった。
俺は、というか、前世の俺は、王に仕える魔法使いに才能を見出され、家族や村の皆を守るためと脅されて村から連れ出され、帰るに帰れず、しかたなく猛勉強の末に、王国の守護魔法使いとなり、命を落としたからだ。
まあ、絶世の美女、アナローズ姫を妻にできたのは、ちょっと役得だったかもしれないが。それも、育ちの違いが大きくて、なんだかんだと気づまりなことの多い結婚生活でもあった。
前世の妻が現世の母というのも、なんというか複雑な心境なんだが、その母は再婚して一緒に暮らしてはいないし、他の男のものになったからといって、嫉妬するほど心囚われてもいなかった。
むしろその程度のつながりで、死んだ男にいつまでも縛りつけられるなんてほうがよっぽど気が重いから、これでいいと思っている。
話がずれた。元に戻そう。
俺たちは数日後に故郷を訪ねる予定だった。だが、急報を受けて駆けつけた村は、変わり果てた姿になっていた。
水利権争いの挙句に、敵国軍に焼きはらわれ、占領されていたのだ。
幸い、いざこざが重なった末のことであったから、村人たちは逃げ出しており、死人は出なかった。けれど、土地を奪われた農民は流民となって、いずれは身を落とすところまで落とすしかなくなる。国はそんな補償まではしてくれないのだ。
どうしても村を取り戻す必要があった。土地さえあれば、あとは魔法でどうにでもしてやれる。俺たちにはそれだけの力があった。
だから。
俺たちは、いや、俺は。火炎の魔法で敵軍を。
追いはらおうとして。力の加減を間違えて。いや、それも嘘かもしれない。死んだっていいと心のどこかでは思っていた。故郷を焼きはらい、変わり果てた姿にした敵にかける情けなど、なかったのかもしれない。
けれど、塵の一つなく。鎧の熔けた欠片一つなく。石の礫一つ残さず、村のあった土地全体を『蒸発』させるつもりなんて。
なかった。
なかったんだ。
……たぶん。きっと。
そうして俺は、近隣諸国から、恐怖の象徴として見られることになった。
ついでに言えば、最強最凶最狂人間兵器として、暗殺対象ともなった。
国内での評価も、村一つを消滅させた話が大きく流れて、似たようなものだ。
向けられるのは恐怖にまみれた忌避の眼差し。それはまさに、前世のルシアンが常にさらされていた視線だった。
実は俺たちは数日後をとても楽しみにしていた。俺たちが前世に生まれ育った村へ寄れる予定だったからだ。
もちろん、誰一人として俺たちが誰だったかを知っている者はいない。それでも、俺たちが死んだのはたったの16年前のことで、村には、親が、兄弟が、友人たちが、まだ生きて生活しているはずだった。
名乗れなくてもよかった。彼らが無事であってくれれば、俺は救われる思いがするはずだった。
俺は、というか、前世の俺は、王に仕える魔法使いに才能を見出され、家族や村の皆を守るためと脅されて村から連れ出され、帰るに帰れず、しかたなく猛勉強の末に、王国の守護魔法使いとなり、命を落としたからだ。
まあ、絶世の美女、アナローズ姫を妻にできたのは、ちょっと役得だったかもしれないが。それも、育ちの違いが大きくて、なんだかんだと気づまりなことの多い結婚生活でもあった。
前世の妻が現世の母というのも、なんというか複雑な心境なんだが、その母は再婚して一緒に暮らしてはいないし、他の男のものになったからといって、嫉妬するほど心囚われてもいなかった。
むしろその程度のつながりで、死んだ男にいつまでも縛りつけられるなんてほうがよっぽど気が重いから、これでいいと思っている。
話がずれた。元に戻そう。
俺たちは数日後に故郷を訪ねる予定だった。だが、急報を受けて駆けつけた村は、変わり果てた姿になっていた。
水利権争いの挙句に、敵国軍に焼きはらわれ、占領されていたのだ。
幸い、いざこざが重なった末のことであったから、村人たちは逃げ出しており、死人は出なかった。けれど、土地を奪われた農民は流民となって、いずれは身を落とすところまで落とすしかなくなる。国はそんな補償まではしてくれないのだ。
どうしても村を取り戻す必要があった。土地さえあれば、あとは魔法でどうにでもしてやれる。俺たちにはそれだけの力があった。
だから。
俺たちは、いや、俺は。火炎の魔法で敵軍を。
追いはらおうとして。力の加減を間違えて。いや、それも嘘かもしれない。死んだっていいと心のどこかでは思っていた。故郷を焼きはらい、変わり果てた姿にした敵にかける情けなど、なかったのかもしれない。
けれど、塵の一つなく。鎧の熔けた欠片一つなく。石の礫一つ残さず、村のあった土地全体を『蒸発』させるつもりなんて。
なかった。
なかったんだ。
……たぶん。きっと。
そうして俺は、近隣諸国から、恐怖の象徴として見られることになった。
ついでに言えば、最強最凶最狂人間兵器として、暗殺対象ともなった。
国内での評価も、村一つを消滅させた話が大きく流れて、似たようなものだ。
向けられるのは恐怖にまみれた忌避の眼差し。それはまさに、前世のルシアンが常にさらされていた視線だった。
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