暁にもう一度

伊簑木サイ

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閑話 ルティンの恋

7-1

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 ルティンが建物を出て行くと、アリエイラは与えられた部屋へと戻った。先ほどの庭と建物内ならどこにいてもいいと言われていたが、そんな気分にはなれなかった。
 部屋にいても何もすることはない。朝に空気を入れ替えるために開け放していった窓から外を見ると、そこからも海がよく見えた。アリエイラは小さな書き物机についていた椅子を持ってきて、窓際に置いた。そしてそこに座って、遠く水平線から波が寄せてくる様を、無心に眺め続けた。

 青く澄みきった空と海は、しだいに色を変えていく。どんなに目を凝らしても、変化の瞬間を捉えることはできないのに、いつのまにかすべての色が深く濃くなっていた。
 やがて日は赤く輝き、熟れて燃えながら、海の果てよりもっと遠いどこかに落ちて沈んでいった。世界を一面に染めるダイナミックな光景に、ただただ息すら詰めて見入る。空っぽになった頭と体の中には、世界を満たしていると同じものが充満しているだけだった。

 しかし、唐突に響いた何の変哲もないノックの音が、一瞬にして夢想を破った。頭の中からも体の中からも世界の欠片は消え去り、そこには元のようにアリエイラ自身しか残っていなかった。

 扉の向こうから、食事の用意ができたと告げられる。ひどく気だるく億劫だったが、アリエイラは返事をした。椅子から立ち上がり、窓を閉める。もうしばらく生きていなければならない。そのためには食事が必要だった。

 アリエイラは死ぬ前に、己がしたことの始末をつけなければならなかった。どんな殺され方をしようが、苦しみを与えられようが、甘んじて受けるつもりだった。それでいくらかでもアリエイラが与えた災厄が人々から減じられるのなら、むしろありがたいくらいだった。
 きっと、アリエイラには、死して尚、安息は与えられないだろう。なにしろあちらには、彼女が殺した人間が大勢行っているのだから。

 たぶん、今が束の間の休息なのだ。

 アリエイラは部屋を横切り、扉を開けた。そこには美しい彼が立っていた。彼が手を差し出す。アリエイラはその上に手をのせた。彼はその手をふわりと握って歩きだす。
 アリエイラは導かれるままに、彼についていった。
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