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第九章 束の間の休息(海賊の末裔の地キエラにおいて)
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「では、ジェナス、今夜聞くはずだった話を、今聞きたい。失われた神についてだ」
ソランは小首を傾げた。それに殿下が不思議そうにする。
「なんだ?」
「いえ、呪いについてかと思っていたので」
「呪いではなくて、加護なのだろう? ジェナス、それに間違いはないな?」
「はい、私はそう考えております」
「うん。そこで考えてみたのだが、加護とは、人が神に願い出て受けるものなのだろう? 春には豊穣の神フェルトにその年の豊作を願うし、我が妹のミルフェは、よく美の神リエンナに捧げものをしている。その願いに神が応じてくだされば、加護を受けられるのではないのか?」
「そうだと言われております」
「加護がその願いに対して行われるものならば、願いが成就すれば、加護も解けるのであろうと思ったのだが。そして、神々がそれぞれ司るものを違(たが)えていたというならば、失われた神がどういった神であったか知れば、成就すべきこともわかるのではないかと思ったのだ」
論理立てて語る殿下に、ソランはぽかんとして見惚れていた。まったくもってそのとおりであると思いながら。
「ソラン様」
「はい。なんでしょうか?」
隣でジェナスが座りなおして、ソランへと向きなおった。
「ソラン様は、どうすれば加護が解けるとお考えになりますか?」
「私、ですか?」
ソランは恥じ入った。
「……すみません。特に深くは考えていませんでした。宝剣の主はやりたいことをやればよいと伺っていたので、そうしようと思っていたのです」
「やりたいこととは?」
「え?」
なぜ自分に聞くのだろう? ソランは戸惑ってジェナスと殿下を交互に見たが、二人とも答えを待っている。仕方なく、殿下に確認するように尋ねた。
「この地の平和、ですよね?」
「そうだな。それは私のやりたいことだが、おまえの望みはなんだ?」
逆に聞き返され、『宝剣の主』の意味を履き違えていたことに気付く。あんなに言っても、二人ともまだソランを主と見なしていたらしい。ソランは殿下に咎めるまなざしを向けた。
「宝剣の主は唯一人です。それは私ではありません。加護を受けた者の願いこそ叶えられなければならないはずです」
「つまりソラン様は、主殿の願いを叶えるべく、それに力をお貸しすると仰るのですね?」
「そうです。ですが、それだけではありません。殿下の願いは私の願いでもありますから」
はっきりと言い切ったソランの言葉に、ジェナスは急に表情を失くした。やがて複雑な色を浮かべて微笑む。痛みと切なさを含んだそれは、明らかに傷ついているように見えた。しかし同時に喜びも確かに感じられ、ソランはどう対応していいのかわからず、思わず息を止めて彼女を見守った。
「お手をお貸し願えますか?」
そう懇願したジェナスはとても儚く見えて、ソランは意味はわからずとも、求めを断る気にはなれなかった。右手を差し出すと、それを両手で恭しく受け取り、甲にそっと口付ける。そして、ソランの手を握ったまま殿下へと向き、静かに頭を下げた。
「感謝申し上げます、宝剣の主殿」
その真意を計り知ることは誰にもできなかったが、それはまぎれもない、深い深い謝意を示した姿だった。
ソランは小首を傾げた。それに殿下が不思議そうにする。
「なんだ?」
「いえ、呪いについてかと思っていたので」
「呪いではなくて、加護なのだろう? ジェナス、それに間違いはないな?」
「はい、私はそう考えております」
「うん。そこで考えてみたのだが、加護とは、人が神に願い出て受けるものなのだろう? 春には豊穣の神フェルトにその年の豊作を願うし、我が妹のミルフェは、よく美の神リエンナに捧げものをしている。その願いに神が応じてくだされば、加護を受けられるのではないのか?」
「そうだと言われております」
「加護がその願いに対して行われるものならば、願いが成就すれば、加護も解けるのであろうと思ったのだが。そして、神々がそれぞれ司るものを違(たが)えていたというならば、失われた神がどういった神であったか知れば、成就すべきこともわかるのではないかと思ったのだ」
論理立てて語る殿下に、ソランはぽかんとして見惚れていた。まったくもってそのとおりであると思いながら。
「ソラン様」
「はい。なんでしょうか?」
隣でジェナスが座りなおして、ソランへと向きなおった。
「ソラン様は、どうすれば加護が解けるとお考えになりますか?」
「私、ですか?」
ソランは恥じ入った。
「……すみません。特に深くは考えていませんでした。宝剣の主はやりたいことをやればよいと伺っていたので、そうしようと思っていたのです」
「やりたいこととは?」
「え?」
なぜ自分に聞くのだろう? ソランは戸惑ってジェナスと殿下を交互に見たが、二人とも答えを待っている。仕方なく、殿下に確認するように尋ねた。
「この地の平和、ですよね?」
「そうだな。それは私のやりたいことだが、おまえの望みはなんだ?」
逆に聞き返され、『宝剣の主』の意味を履き違えていたことに気付く。あんなに言っても、二人ともまだソランを主と見なしていたらしい。ソランは殿下に咎めるまなざしを向けた。
「宝剣の主は唯一人です。それは私ではありません。加護を受けた者の願いこそ叶えられなければならないはずです」
「つまりソラン様は、主殿の願いを叶えるべく、それに力をお貸しすると仰るのですね?」
「そうです。ですが、それだけではありません。殿下の願いは私の願いでもありますから」
はっきりと言い切ったソランの言葉に、ジェナスは急に表情を失くした。やがて複雑な色を浮かべて微笑む。痛みと切なさを含んだそれは、明らかに傷ついているように見えた。しかし同時に喜びも確かに感じられ、ソランはどう対応していいのかわからず、思わず息を止めて彼女を見守った。
「お手をお貸し願えますか?」
そう懇願したジェナスはとても儚く見えて、ソランは意味はわからずとも、求めを断る気にはなれなかった。右手を差し出すと、それを両手で恭しく受け取り、甲にそっと口付ける。そして、ソランの手を握ったまま殿下へと向き、静かに頭を下げた。
「感謝申し上げます、宝剣の主殿」
その真意を計り知ることは誰にもできなかったが、それはまぎれもない、深い深い謝意を示した姿だった。
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