暁にもう一度

伊簑木サイ

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第八章 思い交わす時

4-2

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 しばらくしたところで、殿下が血相を変えて駆けつけてきた。部屋の中で騒ぎが持ちあがり、護衛が踏み入ったと連絡が行ってしまったのだ。

「ソラン!」

 無事を確かめようと、頭からはじまって、いろんなところを触られる。

「ご心配をおかけして申し訳ありません。侍女とふざけが過ぎて、大騒ぎしてしまいました。護衛の皆様にも、ご迷惑をおかけしました」

 頭を下げる。

「生きた心地がしなかった。いっそ閉じ込められれば、その方がどれほど気が楽か」

 殿下はソランの頬に両手を添えながら、苦痛を堪えた表情をした。

「籠の鳥にはなれません」
「わかっている。しかし、思った以上にきついな。本当は片時も離したくない」
「大袈裟な。着替えに戻っただけではないですか」
「それだけでこれではないか。先が思いやられる」

 ソランはニッコリと作り笑いを浮かべて護衛たちに会釈すると、殿下の腕を引っ張り、部屋の奥まった場所に連れて行った。声をひそめて諫言する。

「人前でそのような言動はお控えくださいませ。私ごときにかまけて、嘲笑われます」
「聞けんな。するつもりもない。だから、おまえが納得させるだけの女になれ」
「そういう問題では」
「そういう問題だ。嘲笑う奴は叩き伏せろ。知性でも美貌でも剣の腕でもいい。なんなら実家の権勢も笠に着てやれ。ああ、そうだ、女たらしの腕でもよかろう」

 特に最後の一言に眉を顰めた彼女を見て、ニヤリとする。

「嘲笑うような阿呆は、一人残らず足元に這いつくばらせろ。わかったな」

 無茶苦茶である。ソランは目を怒らせて彼を見た。何か言う前に、指で唇を封じられる。

「私ができないのだから、おまえにやってもらうしかないではないか。補い合ってこその夫婦だろう。頼りにしているぞ、我が妃よ」
「まだ婚約者です」

 ぱしんと、手と言葉ではねのける。

「うん、そうだった。愛しの婚約者殿」

 無茶な道理を引っ込める気はないらしい。むしろ、なにがなんでもやらせるつもりだ。ソランは彼を睨みつつ承諾の返事をするしかなかった。

「……畏まりましてございます」
「うん、頼む」

 彼女は初めて、いつも無茶振りされているディーの苦労を知った気がした。
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