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目を開けると、視界に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。いつも通りの夜を過ごし、夢の中をさまよい、そしていつも通りに目覚めた――そんな感覚だった。でも、胸の奥には一抹の不安が渦巻いていた。何かが違う。まるで悪夢を見た後のように、かすかに残る不快感が私を侵していたけど、それもすぐに夢の残像だと自分に言い聞かせた。
「気分はどう、エヴァ?」
その声に反応し、私はゆっくりと顔を向けた。目に映ったのは、見覚えのある顔――槇子だった。その瞬間、記憶が一気に蘇り、心の奥に封じ込めていた恐怖と現実が容赦なく私を襲った。すべては夢ではなく、紛れもない現実だった。
「あなた三日間寝ていたのよ。目が覚めて本当によかった」
槇子の顔に浮かんだ安堵の表情は、私の心にかすかな温もりをくれた。でも、それ以上に現実の重みが私の胸を締めつけ、冷たい刺のように私の全身に突き刺さった。
「一条は、あなたの夫はどうなりましたか?」
私の声は震えを隠しきれず、言葉を紡ぐたびに苦痛が伴った。槇子の表情が一瞬曇り、彼女の沈黙が私の不安を一層強めた。
「彼は――生きています。ただ、いい状態とは言えないけど」
その言葉に、私の心は沈み、冷たく暗い闇が私を包み込んだ。
「ごめんなさい、すべてわたしのせいです」
申し訳なさで胸がいっぱいになり、涙がこみ上げてきたが、それを堪える力さえなかった。私にできるのは謝罪することだけだった。何もかもが自分のせいだという思いが、私を責め立てた。
「いえ、いいのよ」
驚いたことに、槇子は優しく微笑んでいた。その笑顔は、私の罪悪感を少しだけ和らげてくれた。
「あいつね、ここを発つ前に言ってたのよ。『エヴァを恨まないでほしい。私に何かあっても、すべての責任は私にあって、彼女にはないから』ってね」
彼女の言葉に、私は一瞬呆気に取られた。信じられない思いで、彼女の顔を見つめた。どうしてそんなに優しい言葉をかけられるのだろうかと、胸が締め付けられる思いだった。
「でも、彼は私のせいで重い怪我をした」
私は、胸の奥から湧き上がる悲しみを抑えることができなかった。槇子は首を振り、静かに言葉を紡いだ。
「あいつは自分の意思で行ったのよ。危険を承知であなたを助けたかったの。そういう男なのよ、昔から」
彼女の言葉に、私は一条の姿を思い浮かべた。優しくて、そしてどこか儚げな彼の笑顔を――。
「あいつ、軍に入る前からね、全然運動もできないし強くもなかったのよ。私は今は文学をやってるけど、実際はあいつよりも強いくらい。私は柔術の黒帯と薙刀五段をもってるから」
槇子の外見からは武道の雰囲気なんて全くしなかったから、その初めての情報に、私は驚きと戸惑いを覚えた。
「正直に言うとね、最初のあいつとの出会いは誤解からだったの。彼は私をつけてきていて、私は痴漢かなんかだと勘違いした。だから彼を投げ飛ばしたんだけど、簡単に飛ばされたから、思ってたよりだいぶ弱い男だと思ったわ。でも実際はね、別の怪しい男が私をつけていたみたいで、彼はそいつから私を守ろうとしていたみたいなの」
槇子の語る過去のエピソードに、私は思わず微笑んだ。その微笑みは、久しぶりに感じる心の安らぎだった。
「きっとその時から、純真な心を持っていたんですね」
私は思わずつぶやいた。槇子は静かにうなずき、再びその優しい笑顔を私に向けた。
「そうなのよ。全然強くもないくせに、昔から人助けをしたがるの。本当に善良な意思を持った人なのよ」
彼女の言葉には、確かな愛情が感じられ、その優しさが私の心に染み渡った。重苦しかった空気が少しずつ和らぎ、私は一筋の希望を感じることができた。
「もし私があいつなら、自分の部下をちゃんと集めてから行くかな。でも多分、それではあなたを救うのに間に合わないと思ったんでしょうね、一人で勝手に行ってしまった。強くないだけじゃなくて、頭も弱いのよ。でも、そのまっすぐさが私が彼の好きなところ」
彼女の話を聞いて、私は再び胸が締め付けられた。その気持ちを隠すことができず、悲しみの表情が浮かんでしまった。それを察した槇子は、私の手を優しくたたきながら言った。
「今は休んで、エヴァ。この苦境を一緒に乗り切りましょう」
その瞬間、突然病室のドアが乱暴に開かれ、重々しい音が部屋に響いた。三人の兵士が無遠慮に部屋へと押し入ってきた。彼らの厳つい姿は、空気を一瞬で冷たくし、私の心臓が強く脈打った。
「お前がエヴァだな。1945年に崩壊した亡国の第一王女、間違いないな?」
その中の一人、将校らしき男が鋭い声で私を問い詰めた。彼の目には冷酷な光が宿り、その目に私は強く見つめられた。
「ちょっとあなたたち、ここは病院よ。彼女は怪我をしていて休ませないといけないことくらいわかるでしょう?すぐに出て行って」
槇子は勇敢に彼らの前に立ちはだかり、強い口調で抗議した。しかし、将校は彼女の言葉を無視し、私に冷たく命じた。
「お前は21人殺害に関しての容疑がかかっている。すぐに立って取調室へ来い」
その冷たい言葉に、私は息を呑んだ。何が起きているのか理解できず、ただ恐れと混乱が頭の中で交錯していた。
「何を言ってるの?」
私は震える声で答えた。
「あなたが何を言っているのかわからない。殺そうとしていたのはあの人でしょう。私はだれも殺しなんかない!」
私は必死に訴えたけれど、将校の顔には変わらぬ冷たさが漂っていた。
「ごちゃごちゃうるさい、女。問題を起こしたくなかったら、さっさと取調室まで歩け!」
その声はまるで猛獣の咆哮のように響き、兵士たちは私の体を無理やりつかんでベッドから引きずり出そうとした。
「ちょっと、やめなさいよ!」
槇子は叫びながら、兵士たちを止めようとした。でも、いくら彼女が武道に秀でていても、一人の女性では三人の軍人には抗えなかった。
パニックにも似た混乱で理解が追い付かないまま、私は別途から引きずり出されようとしていた。
「お疲れ様です。久しぶりですね木下先輩」
突然、私は違う男性の声が聞こえた。
私が声の方向を見ると、私を引きずり出そうとしていた将校が、銃口を額に突き付けられ、その場で凍り付いているのを見た。銃を握っているのは軍人で――前に私を連行した前橋大尉だった。
「気分はどう、エヴァ?」
その声に反応し、私はゆっくりと顔を向けた。目に映ったのは、見覚えのある顔――槇子だった。その瞬間、記憶が一気に蘇り、心の奥に封じ込めていた恐怖と現実が容赦なく私を襲った。すべては夢ではなく、紛れもない現実だった。
「あなた三日間寝ていたのよ。目が覚めて本当によかった」
槇子の顔に浮かんだ安堵の表情は、私の心にかすかな温もりをくれた。でも、それ以上に現実の重みが私の胸を締めつけ、冷たい刺のように私の全身に突き刺さった。
「一条は、あなたの夫はどうなりましたか?」
私の声は震えを隠しきれず、言葉を紡ぐたびに苦痛が伴った。槇子の表情が一瞬曇り、彼女の沈黙が私の不安を一層強めた。
「彼は――生きています。ただ、いい状態とは言えないけど」
その言葉に、私の心は沈み、冷たく暗い闇が私を包み込んだ。
「ごめんなさい、すべてわたしのせいです」
申し訳なさで胸がいっぱいになり、涙がこみ上げてきたが、それを堪える力さえなかった。私にできるのは謝罪することだけだった。何もかもが自分のせいだという思いが、私を責め立てた。
「いえ、いいのよ」
驚いたことに、槇子は優しく微笑んでいた。その笑顔は、私の罪悪感を少しだけ和らげてくれた。
「あいつね、ここを発つ前に言ってたのよ。『エヴァを恨まないでほしい。私に何かあっても、すべての責任は私にあって、彼女にはないから』ってね」
彼女の言葉に、私は一瞬呆気に取られた。信じられない思いで、彼女の顔を見つめた。どうしてそんなに優しい言葉をかけられるのだろうかと、胸が締め付けられる思いだった。
「でも、彼は私のせいで重い怪我をした」
私は、胸の奥から湧き上がる悲しみを抑えることができなかった。槇子は首を振り、静かに言葉を紡いだ。
「あいつは自分の意思で行ったのよ。危険を承知であなたを助けたかったの。そういう男なのよ、昔から」
彼女の言葉に、私は一条の姿を思い浮かべた。優しくて、そしてどこか儚げな彼の笑顔を――。
「あいつ、軍に入る前からね、全然運動もできないし強くもなかったのよ。私は今は文学をやってるけど、実際はあいつよりも強いくらい。私は柔術の黒帯と薙刀五段をもってるから」
槇子の外見からは武道の雰囲気なんて全くしなかったから、その初めての情報に、私は驚きと戸惑いを覚えた。
「正直に言うとね、最初のあいつとの出会いは誤解からだったの。彼は私をつけてきていて、私は痴漢かなんかだと勘違いした。だから彼を投げ飛ばしたんだけど、簡単に飛ばされたから、思ってたよりだいぶ弱い男だと思ったわ。でも実際はね、別の怪しい男が私をつけていたみたいで、彼はそいつから私を守ろうとしていたみたいなの」
槇子の語る過去のエピソードに、私は思わず微笑んだ。その微笑みは、久しぶりに感じる心の安らぎだった。
「きっとその時から、純真な心を持っていたんですね」
私は思わずつぶやいた。槇子は静かにうなずき、再びその優しい笑顔を私に向けた。
「そうなのよ。全然強くもないくせに、昔から人助けをしたがるの。本当に善良な意思を持った人なのよ」
彼女の言葉には、確かな愛情が感じられ、その優しさが私の心に染み渡った。重苦しかった空気が少しずつ和らぎ、私は一筋の希望を感じることができた。
「もし私があいつなら、自分の部下をちゃんと集めてから行くかな。でも多分、それではあなたを救うのに間に合わないと思ったんでしょうね、一人で勝手に行ってしまった。強くないだけじゃなくて、頭も弱いのよ。でも、そのまっすぐさが私が彼の好きなところ」
彼女の話を聞いて、私は再び胸が締め付けられた。その気持ちを隠すことができず、悲しみの表情が浮かんでしまった。それを察した槇子は、私の手を優しくたたきながら言った。
「今は休んで、エヴァ。この苦境を一緒に乗り切りましょう」
その瞬間、突然病室のドアが乱暴に開かれ、重々しい音が部屋に響いた。三人の兵士が無遠慮に部屋へと押し入ってきた。彼らの厳つい姿は、空気を一瞬で冷たくし、私の心臓が強く脈打った。
「お前がエヴァだな。1945年に崩壊した亡国の第一王女、間違いないな?」
その中の一人、将校らしき男が鋭い声で私を問い詰めた。彼の目には冷酷な光が宿り、その目に私は強く見つめられた。
「ちょっとあなたたち、ここは病院よ。彼女は怪我をしていて休ませないといけないことくらいわかるでしょう?すぐに出て行って」
槇子は勇敢に彼らの前に立ちはだかり、強い口調で抗議した。しかし、将校は彼女の言葉を無視し、私に冷たく命じた。
「お前は21人殺害に関しての容疑がかかっている。すぐに立って取調室へ来い」
その冷たい言葉に、私は息を呑んだ。何が起きているのか理解できず、ただ恐れと混乱が頭の中で交錯していた。
「何を言ってるの?」
私は震える声で答えた。
「あなたが何を言っているのかわからない。殺そうとしていたのはあの人でしょう。私はだれも殺しなんかない!」
私は必死に訴えたけれど、将校の顔には変わらぬ冷たさが漂っていた。
「ごちゃごちゃうるさい、女。問題を起こしたくなかったら、さっさと取調室まで歩け!」
その声はまるで猛獣の咆哮のように響き、兵士たちは私の体を無理やりつかんでベッドから引きずり出そうとした。
「ちょっと、やめなさいよ!」
槇子は叫びながら、兵士たちを止めようとした。でも、いくら彼女が武道に秀でていても、一人の女性では三人の軍人には抗えなかった。
パニックにも似た混乱で理解が追い付かないまま、私は別途から引きずり出されようとしていた。
「お疲れ様です。久しぶりですね木下先輩」
突然、私は違う男性の声が聞こえた。
私が声の方向を見ると、私を引きずり出そうとしていた将校が、銃口を額に突き付けられ、その場で凍り付いているのを見た。銃を握っているのは軍人で――前に私を連行した前橋大尉だった。
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