上 下
230 / 250
七章 決戦

24話 王国に帰還

しおりを挟む
2ヶ月と少しをかけて俺達はグラント王国にたどり着いた。

検問は俺の冒険者カードを見せて通してもらい、真っ直ぐ王宮に向かってそこで待ち受けていたせーバスさんと出会い、外壁沿いに大規模の野営地を設営した。

「直ぐに国王が話をしたいそうなので行ってください」
「でもまだ残ってるだろ」
「これぐらいなら私ひとりで充分ですよ。さぁ、行ってください」
「……わかった。あとは頼んだ」

俺はせーバスさんにそう言って、以前行ったことがあるおっちゃんの私室の前に転移で向かった。

ドアをノックし、返事をもらってから入室するとそこにはミリーナたち全員がおっちゃんと一緒にお茶を飲みながら話していた。

「お、戻ってきたかアストよ」
「ああ、なんか悪いな」
「いやいや、気にするな。お主が悪いわけではない。2ヶ月も前に教えてくれたんじゃからそれなりに準備はできる。で、問題はこの後じゃ」
「ナリュマーは既に壊滅状態だ。できるならこの国に住まわせることがいいと思う」
「それ自体は構わない。だが土地がないのじゃ」
「帝国の領土があるだろ?」
「まだ使えるほどではない 。それに国民が増えれば食料もままならん」
「なるほどな……」

俺とおっちゃんが悩んでいると、ミリーナが俺の服を引っ張った。

「どうした、ミリーナ」
「えっと…アストの力なら帝国の土地を元どおりにできるんじゃないかなと思って」
「できるが流石に時間がかかる。まずは帝国にある建物を取り壊すところから始めて土も全部変えなきゃならないからな。最低でも1日はかかる」
「それって十分じゃない?」
「うむ、儂もそれでいいと思うぞ?1日ぐらいならわが国で賄うことはできるしの」
「……本当にいいのか?」
「もちろんだとも。こちらこそ、帰ってきて早々だが頼めるか?」
「大丈夫だ。あれに関しては、俺が原因みたいなもんだしな。ちゃんと責任はとるよ」
「そうか。では任せた」
「おう」

おっちゃんにそう言われた俺は、軽く頷いてから城を出た。
もちろんミリーナたちも一緒にだ。

「聞いてたから分かると思うが、今から帝国の方に行くから留守番頼めるか?」
「むぅ~」
「ど、どうしたんだよ」

俺が留守番を頼もうとすると、ミリーナが頬を膨らませてむくれた。

「だって、最近ずっと一緒にいなくて寂しかったんだもん。だから今日ぐらいは一緒に過ごしたかったのに~」
「わ、悪かったよ。明後日は時間があるからさ?明後日一緒に買い物にでも行こうぜ?」
「本当?」
「ほ、本当だとも」
「うーん。じゃあ許してあげる!」
「お、おう。……はぁ」

俺はミリーナには聞こえないように小さくため息を吐き、みんなで雑談をしながら家に向かった。

家に着いてから俺は転移ですぐに帝国へと向かい、影を量産して建物を取り壊したり、血で汚れた土を綺麗にしたり、新しい外壁や建物を作ったりしていった。
無事だった家もあったが、もともとが帝国のもので俺の気分が良くなかったってこともあり、全てを取り壊して更地にして、整地をしてから色々と建物の建築をしていった。

「ちょっとこだわりすぎたな……ま、いっか」

終わったのは始めてから1日と8時間後だった。
自宅に戻る前に王宮に行きおっちゃんに出来たことを伝えると、呆れたような顔をしてため息を吐かれた。

「本当に規格外だな。アストは」
「そうでもねぇよ。じゃあ俺は帰るよ。さっさと帰らないとミリーナにどやされるからな」
「ミリーナはもうお主にベッタリじゃからな。父親としては話す機会が少なくなって寂しいがミリーナ自身が幸せになっておればそれが1番じゃからな」
「ああ、俺がミリーナを世界で1番の幸せものにしてやるよ」

少しだけ世間話をした後、俺は転移で家の自室に戻ってきた。
ずっと来ていた戦闘服を脱いで普通の一般的な服装に着替えてから部屋を出てリビングに向かった。

そこでは、寝間着姿に身を包んでいるミリーナが紅茶を飲みながらソファでくつろいでいた。

「おかえり」
「ああ、ただいま」

俺がミリーナの隣に座ると、静かに紅茶を汲んで俺の前に出した。
俺はそれを少しだけ飲んでから机に戻した。

「寝てないのか?」
「……うん。アストが頑張ってるのに私だけ寝るのはね」

顔を見ると、目の下に薄く隈ができていた。
ちゃんと寝てくれと言いたかったが、自分が原因であるためにそんなことは言えない。

「……ありがとな」

考えた末に口から出たのは感謝の言葉だった。
それを聞いたミリーナは優しく微笑んで俺へと向き合って目を閉じた。
どういう意味かはだいたい分かっているため俺はそれに応えてやるように唇を重ねた。

「今日はもう遅いから、続きは明日な」
「…うん。楽しみにしてるね」
「ああ、だからもう寝な。明日はデートもあるんだからな」
「…そう……だね」

ミリーナは途切れながらそう言って、俺の膝を枕にしながら眠りについた。

俺は優しくミリーナの頭を撫でてやりながら紅茶を飲み干して自分も静かに眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

ファーストカット!!!異世界に旅立って動画を回します。

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)
BL
トップ高校生we tuberのまっつんこと軒下 祭(のきした まつり)、17歳。いつものように学校をサボってどんなネタを撮ろうかと考えてみれば、水面に浮かぶ奇妙な扉が現れた。スマホのカメラを回そうと慌てる祭に突然、扉は言葉を発して彼に問い掛ける。 『迷える子羊よ。我の如何なる問いに答えられるか。』 扉に話しかけられ呆然とする祭は何も答えられずにいる。そんな彼に追い打ちをかけるように扉はさらに言葉を発して言い放った。 『答えられぬか…。そのようなお前に試練を授けよう。…自分が如何にここに存在しているのかを。』 すると祭の身体は勝手に動き、扉を超えて進んでいけば…なんとそこは大自然が広がっていた。 カメラを回して祭ははしゃぐ。何故ならば、見たことのない生物が多く賑わっていたのだから。 しかしここで祭のスマホが故障してしまった。修理をしようにもスキルが無い祭ではあるが…そんな彼に今度は青髪の少女に話しかけられた。月のピアスをした少女にときめいて恋に堕ちてしまう祭ではあるが、彼女はスマホを見てから祭とスマホに興味を持ち彼を家に誘ったのである。 もちろん承諾をする祭ではあるがそんな彼は知らなかった…。 ドキドキしながら家で待っていると今度は青髪のチャイナ服の青年が茶を持ってきた。少女かと思って残念がる祭ではあったが彼に礼を言って茶を飲めば…今度は眠くなり気が付けばベットにいて!? 祭の異世界放浪奮闘記がここに始まる。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

ブラックマンバ~毒蛇の名で呼ばれる男妾

BL
ブラックマンバ。 上半身に刻まれた毒蛇のTATTOOからそう渾名された青年。 抱くものを執着させ、魔性と言われるその青年の生い立ち、、、 義父、警察官、、、 彼の上にのった男達、、、 拙作『The King of Physical BABYLON』登場人物のスピンオフとして書き始めましたが、こっちの方がメインになりつつあります。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、突如として東京銀座に「異世界への門」が開かれた。中からあふれ出た鎧や剣で武装した「異世界」の軍勢と怪異達。阿鼻叫喚の地獄絵図。陸上自衛隊はこれを撃退し、門の向こう側『特地』へと足を踏み入れた。およそ自衛官らしくないオタク自衛官、伊丹耀司二等陸尉(33)は部下を率いて『特地』にある村落を巡る…異世界戦争勃発!ネットで人気のファンタジー小説、待望の書籍化!

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

処理中です...