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ほらあなの住人

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「おれさまを起こしたのはおまえたちかぁ!?」
 大ヘビは三びきをにらみました。口を大きく開けて、長いしたを出しています。
「も、申しわけありません、ヘビさん。あなたがここで冬眠とうみんしているとは知らなかったんです」
「ここは『ウワバミの細道ほそみち』だぞぉ!? 食われるかくごで入ったんだろう!」

 ヤマネコのべんかいを聞かず、大ヘビはふたたび「シャアー!」といかくをしました。それを見た三びきは、思わず走り出します。
「にっ、にげろぉー!」
「ブヒッ! ブヒヒッ!」
「真っ直ぐだ! 真っ直ぐ走って!」
「待てぇっ! 食ってやる!」

 ネズミ、イノシシ、ヤマネコのじゅんにたて一列になり、三びきは走ります。後ろから大ヘビがものすごい速さではいずる音が聞こえます。
 三びきはほらあなの出入り口、月明かりがさしている場所を目指しました。
「あっ! 明るい! 外だ!」

 ここまでくればだいじょうぶ。岩や木のかげにかくれながら、大ヘビからにげればいのです。
 しかし、そうかんたんにはいきません。

「うっ、うわああああああああああああ!」
 ヤマネコのさけび声がネズミとイノシシの耳にとどきました。二ひきがふりかえると、大ヘビの太く長い体がヤマネコにまきついています。
 月明かりの下でみる大ヘビの姿すがたに、二ひきはおどろきました。大ヘビは十メートルはあろうかという大きさだったのです。

 大ヘビがヤマネコの体をぎゅっとしめつけます。さけびながらバタバタともがいていたヤマネコは少しずつしずかになり、そして……。

「ギニャッ!?」

 一度だけひときわ大きなさけび声を上げると、ぐったりと動かなくなってしまいました。
「わあああ! ヤマネコくん!」

 大ヘビはヤマネコをはなすと、ネズミとイノシシのほうへとはってきます。ふたたび二ひきは走りました。
 しかし、大ヘビはあっという間に追いついてイノシシまでつかまえてしまいました。大ヘビからのがれたネズミは木のかげにかくれます。
 イノシシは大ヘビにぐるぐるまきつかれながらさけびました。
「おっおいらはおいしくない! おいしくない!」
「だまれっ! おまえが一番うまそうだろうが!」
 大ヘビはそう言うと、ヤマネコのときと同じようにイノシシをぎゅっとしめつけてしまいました。イノシシもぐったりと、動かなくなってしまいます。
 
「さぁ~て、チビのこわがりネズミはどこ行ったぁ~?」
 大ヘビは少しだけきげんがさそうです。これから三びきも食べられると思うと、よだれが止まりません。
「ヤマネコのツメもイノシシのキバもなけりゃあ、こわいもんなんてないんだからなぁ~。おれさまからにげられると思うなよぉ~」

 ネズミは木のかげでなやんでいました。大ヘビが近づいてくる気配がします。まわりは大きな岩や木ばかり。今ならまだつかまらずににげられるかもしれません。守ってくれるヤマネコとイノシシはいないし、なんのぶきも持っていない自分はほかにどうしようもないのです。

 にげよう。

 ネズミはそう思いました。
 しかし、足は動きません。大ヘビがこわいのはもちろんですが、それ以上いじょうに、ここでにげてはいけないと心の中の自分がさけぶのです。
 食いしんぼうのイノシシは、こわがるネズミを頭に乗せてかくれさせてくれました。
 知ったかぶりのヤマネコは、てきをツメでたおしてくれると言いました。
 星の落としものはどうするのでしょう? 落としものはヤマネコが持っています。今にげてしまったら、もう二度と星にとどけることはできないでしょう。ヤマネコもイノシシも大ヘビに丸飲みにされてしまうのですから。
 そのとき、ネズミは、なにを思うのでしょう。

「ぼ、ぼくは……ぼくは……………………」

 ネズミは小さな前足をぎゅっとにぎりしめました。

「ぼくはここだぞっ! つかまえられるものならつかまえてみなよ!」

 せいいっぱい大きな声を出し、大ヘビの前に姿すがたを見せたのです。
 大ヘビは口を大きく開けてネズミのほうへ、はいよります。
 ネズミは木がたくさん生えている方向へ走りました。右へ左へ、上へ下へ、時には木のまわりをぐるぐるぐるぐると走ります。

 ばくんっ!
 
「うわぁっ!」
 ネズミのすぐ後ろで大ヘビの口がとじられる音がします。ずっと走りつづけ、ネズミはだんだんと体に力が入らなくなってきました。
「はあ……はあ……はあ……はあ……あっ……!」

 小石にネズミの足がつまずいてしまいました。
 つかれきったネズミはこらえきれず、その場にたおれます。
「シャーハッハッハッハッハッ! おれさまのいぶくろに入りな!」
 大ヘビの口がネズミにせまります。ネズミは、いのるように目をつぶりました。

 ばくんっっっっ!

「………………………………………………………………あれ?」

 ふしぎそうな声を出したのは、大ヘビでした。
 口がネズミにとどいていないのです。それどころか、体が思うように動きません。
 目の前の小さなネズミがゆっくりと立ち上がります。そして、こう言うのです。

「かかったな! 考えなしの大ヘビめっ! ぼくは……ぼくは……こわがりのネズミなんかじゃないんだっ!」

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