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四
きらきらの正体
しおりを挟む冷たい雨が体を打ちます。あんなに晴れていた空はどんよりとした灰色になり、雲でおおわれています。
ブルブルッと体をふるわせ、三びきは目を開けました。
それぞれに顔を見合わせて、そこにいるのが自分だけではないのだとわかると、ほっと安心しました。
「このままではかぜをひいてしまう。木の下に行こう」
ヤマネコがそう言って、三びきは雨やどりをしました。
雨の音が森にひびきます。
「ぼく、こわい夢を見たよ……」
「おいらも変な夢を見てた」
「きぐうだね。わたしもだ」
三びきは自分たちがたおれていた場所をながめながら言いました。そこにチョウはおらず、草花も生えていません。もうすぐ冬がくる、三びきの住む森と同じ様子でした。
あの春の楽園のような場所はなんだったのでしょう。
三びきは少しの間、なにもしゃべらずにじっとしていましたが、そのうちにイノシシが口を開きました。
「ネズミくん、ヤマネコくん、ごめんよ。おいらのせいでまいごになっちゃって。おいら、食べもののことになるとつい夢中になって、周りが見えなくなるんだ」
イノシシは頭を下げてしゅんとしています。
「なにを気にしているんだい。そのおかげで、こんな季節には見られない景色を見たじゃあないか」
「そうだよ、ちょっといたい思いやこわい思いをしたけれど、そんなに落ちこまないでよ」
ヤマネコとネズミの言葉に、イノシシは小さく鼻を鳴らしました。
「あ、ありがとう……二人とも……。おいら、これからは食べものを見つけてもちゃんと周りを見ながら向かうようにするよ」
うんうんとうなずきながら、ヤマネコはあることに気がつきました。
「そういえば、イノシシくんの体はもう光っていないね」
「本当だ」
「光るって、なんのこと?」
ネズミはイノシシに、イノシシがたおれたときのことを話しました。
「おいらの体が光っていたの? なんだろう?」
ヤマネコはイノシシの体をじっと観察すると、「おや」と肉球でイノシシの胴体にさわりました。
イノシシをさわった肉球がきらきらと光っています。
「あっ! わかった!」
それを見たネズミが声を上げました。
「これはチョウのりん粉だ! イノシシくんがたおれたとき、体にたくさんついていたのはこれだよ!」
「ふぅむ……そうか、きっとイノシシくんは一番最初にりん粉を浴びたんだね」
「えっ、おいら、それでたおれちゃったの?」
三びきはたおれたときのことを思い出します。
ネズミにたんこぶができてヤマネコと話しているとき、イノシシはチョウの下でいっしょうけんめいに食べものをさがしていました。最初にたくさんのりん粉を浴びていたのです。
そのあとイノシシの元へかけよった二ひきは、ヤマネコ、ネズミの順にたおれました。上を見たまま話したヤマネコはりん粉をすってたおれ、ネズミはイノシシと同じようにその場に長くいたためにたおれてしまったのです。
「ぼくたちが見たみょうな夢は、このりん粉のせいだったのかなぁ」
「そうかもしれないね。あの花々も、りん粉が見せていたまぼろしだったのかもしれない」
「りん粉が雨で流れて、夢からさめたのかな」
「でもおいら、ユリネもミミズも食べたよ! あれがにせものだったなんて……」
三びきは考えますが、考えても答えはわかりません。あんなに飛んでいたチョウは、もういないのですから。
「わからないものは仕方ない、雨がやんだらまた『知識の沼』を目指そう。『キタダカ山』はとても高いから、ちょっとまよったくらいなら見失わないさ」
「『知識の川』に『ニシダカ山』ね」
ヤマネコがいつものようにうそか本当かわからないことを言うので、ネズミもいつものようにまちがいを正します。
三びきで会話していると、いつの間にか先ほど見た夢へのおそろしさも和らいでいくのでした。
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