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二
まいごの三びき
しおりを挟む『ニシダカ山』へ向かったヤマネコ、ネズミ、イノシシの三びき。ネズミはイノシシの頭の上に乗り、ヤマネコがそのとなりを歩きます。
ヤマネコの目は夜の道がよく見えるので、飛び出した木の根っこや、あなぼこを上手によけながら進むことができました。ネズミはガサガサとゆれる葉の音におびえ、イノシシはおいしいものはないかと鼻を動かしています。
「ところで緑色のこれはなんに使うものだろう」
ヤマネコはしげしげと落としものを見つめながら言いました。三びきはそれが人間の使うぼうしであることを知りません。
「黄色だってば」
「ああそうだ、黄色だ、黄色」
「みかんのにおいがするから、きっとみかんを入れるふくろじゃないかい?」と食いしんぼうのイノシシ。
「よぉーくのびるから、あみじゃないかい?」とヤマネコ。
「えぇっ!? いやだいやだ! こわい!」
ネズミはつかまってあみに入れられることを想像してこわくなりました。
イノシシが空を見上げます。
「お星さまがおいらたちをつかまえる必要があるかなぁ」
三びきは考えますが、答えは出ません。
そのとき、ネズミがひらめきました。
「そうだ! 『ニシダカ山』のふもとに"森の賢者"がいらっしゃるそうだから、これがなんなのか聞いてみよう」
「ああ、『知識の沼』だね」
「ちがうよ、『知識の川』」
「そうそう、『知識の川』だ」
山のふもとの森を流れる小川はそうよばれ、その近くに"森の賢者"というとても頭の良い動物が住んでいるのです。
♦︎♦︎♦︎
月が真上に見えるようになったころ、ヤマネコは言いました。
「もう夜もおそいから、今日はこのあたりでねむろう」
「うん、おいら、おなかがぺこぺこなんだ」
「あっじゃあここがいいよ。ほら、あなが空いている」
ネズミが指さしたのは大きな木の根本に空いたうろでした。
「ここじゃあおいらは入れないなぁ。あそこのススキの上はどう?」
イノシシが鼻の先だけをうろに入れ、中にいた虫をぺろりと口に入れたあと、ていあんします。
「えぇっ、そ、そんなこと言われても、あんな場所じゃかくれられないよ、こわいよぅ」
「わたしもススキの上なんてごめんだね」
三びきの意見は合わず、ネズミはうろの中で、イノシシはススキを根本からたおして寝床をつくって、ヤマネコは太い木のえだに登ってそれぞれにねむることにしました。
次の日。太陽はさんさんと光をふり注ぎ、空は雲一つない良いお天気です。
「あぁおなかが空いた。なにか食べようよ」
イノシシの鼻がひくひくと食べもののにおいをさがします。
「そうだね、それじゃあ食べものをさがしながら歩こうか」
イノシシが先頭になり、ネズミは頭の上に乗っています。ヤマネコは後ろをついて歩きました。
しばらくそうして歩いていましたが、実りの秋をすぎた森ではなかなか食べものが見つかりません。
するととつぜん、イノシシが「プゴッ!」と鼻を鳴らして走り出しました。
「これは食べもののにおいかな!? 食べものかも! 食べものにちがいない! ブヒブヒブヒィィッ!」
イノシシはすごいいきおいで走ります。坂道もぐにゃぐにゃ道も気にせず走り続け、木のえだがたくさん顔にぶつかっても止まりません。
「うわぁあああイノシシくん止まってよう~!」
ネズミの声も聞こえません。
ヤマネコはけんめいにイノシシのあとを追いかけて走ります。
どれくらい走ったでしょうか。イノシシはぜいぜい息をして、開けた場所でようやく止まりました。
「ここだここだ! プゴッ!」
止まったいきおいでネズミは頭の上からふり落とされてしまいます。
「うわぁああ!」
ごつん!
「いててて……」
頭を地面に打ってしまいました。
「ネズミくん、だいじょうぶかい?」
追いついたヤマネコがたずねます。
「ああ、大変だ、たんこぶができているよ」
「あっ本当だ!」
ネズミの頭がぽこんとはれています。
「このままにしておいたら風船みたいにふくらんで、ネズミくんが空に飛んでいってしまう。これは早くテンサイをはりつけなきゃいけないなぁ」
「なあにそれ、本当なの?」
ヤマネコのうそか本当かわからない話をネズミは信じられません。
二ひきがそんなやりとりをしていると、こうふんしたイノシシがさけびました。鼻は土まみれになっています。
「二人とも、見てごらんよ! ここは春みたいだ! ミミズもたくさんいるよ!」
そう言われてヤマネコとネズミがあたりを見回すと、たしかに三びきの住んでいる森とは様子がちがいます。
地面にはタンポポやシロツメクサ、アザミなどの草花が生え、さまざまな色のチョウが飛んでいます。
「い、いつの間にかぼくらの森をぬけたのかなぁ」
「そうかもしれないね。わたしたちの森はもう冬の支度をしているし」
「ここはどこなんだろう……」
三びきはまいごになってしまったようです。
ヤマネコとネズミは頭をかかえましたが、イノシシはそれどころではありません。
ひらひらと舞うチョウの下を右へ行ったり左へ行ったり、あちこちをクンクン、もぐもぐ、クンクン、もぐもぐ……。
「すごいや! ユリネまであるぞ! 大好物なんだ!」
イノシシはこうふんしながらおなかを満たしていきます。するととつぜん……。
ばたり!
イノシシがたおれてしまいました。
「イノシシくん!? どうしたの!?」
ヤマネコとネズミがイノシシの元へかけよります。
「これは……?」
イノシシの体はきらきらと光っています。いったいなんでしょう?
ヤマネコが見上げます。
「ネズミくん、これは……」
そこまで言って、ばたり。
ヤマネコもたおれてしまいました。
「ヤマネコくんまで!」
のこされたネズミはどうしたら良いのかわかりません。二ひきはどうして急にたおれてしまったのでしょう。
考えこんでいるうちに、ネズミはなんだかくらくらしてきました。
そして……。
ぱたり。
三びきとも、たおれてしまいました。
三びきの周りを赤や黄色や白のチョウたちがひらひらと、ひらひらと、飛んでいます。その光景はまるで、この世のどこにもそんざいしない、夢や想像がつくりだしたように美しいものでした。
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