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まいごの三びき

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『ニシダカやま』へ向かったヤマネコ、ネズミ、イノシシの三びき。ネズミはイノシシの頭の上に乗り、ヤマネコがそのとなりを歩きます。
 ヤマネコの目は夜の道がよく見えるので、び出した木の根っこや、あなぼこを上手によけながら進むことができました。ネズミはガサガサとゆれる葉の音におびえ、イノシシはおいしいものはないかと鼻を動かしています。

「ところで緑色のこれはなんに使うものだろう」
 ヤマネコはしげしげと落としものを見つめながら言いました。三びきはそれが人間の使うぼうしであることを知りません。
「黄色だってば」
「ああそうだ、黄色だ、黄色」
「みかんのにおいがするから、きっとみかんを入れるふくろじゃないかい?」と食いしんぼうのイノシシ。
「よぉーくのびるから、あみじゃないかい?」とヤマネコ。
「えぇっ!? いやだいやだ! こわい!」
 ネズミはつかまってあみに入れられることを想像そうぞうしてこわくなりました。
 イノシシが空を見上げます。
「お星さまがおいらたちをつかまえる必要ひつようがあるかなぁ」
 三びきは考えますが、答えは出ません。

 そのとき、ネズミがひらめきました。
「そうだ! 『ニシダカやま』のふもとに"森の賢者けんじゃ"がいらっしゃるそうだから、これがなんなのか聞いてみよう」
「ああ、『知識ちしきぬま』だね」
「ちがうよ、『知識ちしきの川』」
「そうそう、『知識ちしきの川』だ」
 山のふもとの森を流れる小川はそうよばれ、その近くに"森の賢者けんじゃ"というとても頭のい動物が住んでいるのです。

♦︎♦︎♦︎

 月が真上に見えるようになったころ、ヤマネコは言いました。
「もう夜もおそいから、今日はこのあたりでねむろう」
「うん、おいら、おなかがぺこぺこなんだ」
「あっじゃあここがいいよ。ほら、あなが空いている」
 ネズミが指さしたのは大きな木の根本に空いたでした。
「ここじゃあおいらは入れないなぁ。あそこのススキの上はどう?」
 イノシシが鼻の先だけをに入れ、中にいた虫をぺろりと口に入れたあと、ていあんします。
「えぇっ、そ、そんなこと言われても、あんな場所じゃかくれられないよ、こわいよぅ」
「わたしもススキの上なんてごめんだね」

 三びきの意見は合わず、ネズミはの中で、イノシシはススキを根本からたおして寝床ねどこをつくって、ヤマネコは太い木のえだに登ってそれぞれにねむることにしました。

 次の日。太陽はさんさんと光をふり注ぎ、空は雲一つないいお天気です。
「あぁおなかが空いた。なにか食べようよ」
 イノシシの鼻がひくひくと食べもののにおいをさがします。
「そうだね、それじゃあ食べものをさがしながら歩こうか」
 イノシシが先頭になり、ネズミは頭の上に乗っています。ヤマネコは後ろをついて歩きました。

 しばらくそうして歩いていましたが、実りの秋をすぎた森ではなかなか食べものが見つかりません。
 するととつぜん、イノシシが「プゴッ!」と鼻を鳴らして走り出しました。
「これは食べもののにおいかな!? 食べものかも! 食べものにちがいない! ブヒブヒブヒィィッ!」
 イノシシはすごいいきおいで走ります。坂道もぐにゃぐにゃ道も気にせず走りつづけ、木のえだがたくさん顔にぶつかっても止まりません。
「うわぁあああイノシシくん止まってよう~!」
 ネズミの声も聞こえません。
 ヤマネコはけんめいにイノシシのあとを追いかけて走ります。

 どれくらい走ったでしょうか。イノシシはぜいぜい息をして、ひらけた場所でようやく止まりました。
「ここだここだ! プゴッ!」
 止まったいきおいでネズミは頭の上からふり落とされてしまいます。
「うわぁああ!」

 ごつん!

「いててて……」
 頭を地面に打ってしまいました。
「ネズミくん、だいじょうぶかい?」
 追いついたヤマネコがたずねます。
「ああ、大変たいへんだ、たんこぶができているよ」
「あっ本当だ!」
 ネズミの頭がぽこんとはれています。
「このままにしておいたら風船みたいにふくらんで、ネズミくんが空にんでいってしまう。これは早くをはりつけなきゃいけないなぁ」
「なあにそれ、本当なの?」
 ヤマネコのうそか本当かわからない話をネズミはしんじられません。
 
 二ひきがそんなやりとりをしていると、こうふんしたイノシシがさけびました。鼻は土まみれになっています。
「二人とも、見てごらんよ! ここは春みたいだ! ミミズもたくさんいるよ!」
 そう言われてヤマネコとネズミがあたりを見回すと、たしかに三びきの住んでいる森とは様子がちがいます。
 地面にはタンポポやシロツメクサ、アザミなどの草花が生え、さまざまな色のチョウがんでいます。
「い、いつの間にかぼくらの森をぬけたのかなぁ」
「そうかもしれないね。わたしたちの森はもう冬の支度したくをしているし」
「ここはどこなんだろう……」

 三びきはまいごになってしまったようです。
 ヤマネコとネズミは頭をかかえましたが、イノシシはそれどころではありません。
 ひらひらとうチョウの下を右へ行ったり左へ行ったり、あちこちをクンクン、もぐもぐ、クンクン、もぐもぐ……。
「すごいや! まであるぞ! 大好物だいこうぶつなんだ!」
 イノシシはこうふんしながらおなかをたしていきます。するととつぜん……。

 ばたり!

 イノシシがたおれてしまいました。
「イノシシくん!? どうしたの!?」
 ヤマネコとネズミがイノシシの元へかけよります。
「これは……?」
 イノシシの体はきらきらと光っています。いったいなんでしょう?
 ヤマネコが見上げます。
「ネズミくん、これは……」
 そこまで言って、ばたり。
 ヤマネコもたおれてしまいました。
「ヤマネコくんまで!」
 のこされたネズミはどうしたらいのかわかりません。二ひきはどうして急にたおれてしまったのでしょう。
 考えこんでいるうちに、ネズミはなんだかくらくらしてきました。
 そして……。

 ぱたり。

 三びきとも、たおれてしまいました。
 三びきのまわりを赤や黄色や白のチョウたちがひらひらと、ひらひらと、んでいます。その光景こうけいはまるで、この世のどこにもそんざいしない、ゆめ想像そうぞうがつくりだしたように美しいものでした。

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