上 下
11 / 11

11.密漁船にかける容赦はありません。

しおりを挟む
「……オスカル。あれを見てくれ」

ふと、ネロさんがオスカルさんの肩を叩いた。ネロさんが差し出した望遠鏡を受け取ったオスカルさんは、ネロさんが指さした方向に望遠鏡を向けて覗き込むと、険しい顔になる。

異変を感じ取ったのか、近くにいたディエゴさんも先程までの飄々とした雰囲気が消え、真剣な表情を浮かべた。

「ギルドから発行された紋章入りの旗がない。密漁船だな」

漁をする際、自分が使う船にはギルドに登録してあることが分かるように、ギルドから貰う旗を掲げる必要がある。

その旗を掲げていないということは、ギルドに登録していない人間が、許可なく漁をしている可能性があるということだ。

「どうする?オレ、様子見てこようか?」

ディエゴさんがそう言うと、オスカルさんは首を横に振った。

「……いや、下手に近づけば逃げられる。それに、敵の素性が分からない以上、お前だけで行くのは危険だ」
「だけど、見逃す訳にもいかないでしょう。密漁は立派な犯罪だし」
「問題ない。既に手は売ってある。……ちょうど戻ってきたな」

視線を上空へと移したオスカルさんにつられて、私も上空へ視線を向ける。彼の視線の先にはこちらに飛んでくる大きな鳥の影があった。

ピュー

ふとオスカルさんが上空の鳥に向かって指笛を吹いた。すると上空にいた鳥は、大きな翼を広げてこちらに下降してくる。スッと綺麗な曲線を描きながら、オスカルさんの肩に着地する鳥。イヌワシのような大きなそれは、口をパカリと開けると脳に響く低音で鳴いた。

「ジュンビ デキタ。イマ ムカッテル」
「と、鳥がしゃべった!?」

一部始終を眺めていたレナートさんが驚きの声をあげる。私も声こそ出さなかったが、衝撃のあまり空いた口が塞がらなかった。

「ご苦労だった」

オスカルさんは鳥の頭を優しく撫でると、懐から取り出した餌らしきものを与えた。

「念のため、海軍に出動の要請をかけていたんだ。そう遅くないうちにあいつらがこっちに来てくれるはずだ」
「何もなければ職権濫用だと怒られるところだが、今回は功を奏したな」

ふっと口角を上げてそう述べるオスカルさんに、ネロさんは全く……と呆れたような、でもなんか関心も含まれているような視線を向けた。

「とりあえず、逃走できないようにしておくか」
「だな。準備してくる」

オスカルさんの言葉に賛同するように頷いたネロさんは、甲板下の倉庫へと向かっていった。

「あの、一体どうやって逃げないようにするんですか?」

私がそう尋ねるとオスカルさんは、船の縁に移動しながら答えた。

「この船はもともと軍船だった。つまり、戦闘用の船だった」

……軍船、戦闘用。……もしや

「だから、こういう機能も備わっているわけだ」

私は恐る恐るオスカルさんの近くまでいくと、オスカルさんの視線の先にあるものを見るために手すりから身を乗り出す。

そして、視界に入ったものに背筋を凍らせた。

先ほどまでは何もなかった船の側面に、なぜか大砲が備わっている。恐らく、普段は開閉式の扉で隠されていて、扉が開くと大砲が出てくる仕組みなのだろう。

「あの船の機動力は帆だ。マストを破壊し、風を受け止められなくすれば動けなくなる」

ひえっ!想像以上にバイオレンスな策だった!確かにそのとおりだけど、大砲って。……この世界ってそれが常識なの!?普通の漁師が、密漁船に大砲ぶっぱなすとかしちゃう世界なの……!?

ちなみに一緒に船に乗っているレナートさんも、一部始終を聞いて青い顔で震えている。この状況に戦慄しているのが私だけじゃないことが救いだった。

「オスカル、準備できたって」

いつの間にかネロさんの元に確認に行っていたディエゴさんが、倉庫に繋がる扉から顔を出す。それに頷いたオスカルさんは何やら周囲を見渡し確認を済ませると、大声で言った。

「放て!」

ドンッ

物凄い発砲音が鼓膜を揺らす。あまりの衝撃に私は思わず目を瞑り耳を抑えた。

ドカーン

明らかに何かが破壊された音が周囲に響く。恐る恐る目を開けると、見事なまでに相手の船のマストは倒れていた。……というか、下手すれば船が半壊する大砲でマストだけ壊せるコントロール力ってえげつない気がする。

きっと向こうはいきなりの攻撃に慌てているのだろう。かなり距離はあるが騒がしい声が聞こえてくる。そんな密漁船に対し、オスカルさんはしたり顔で見ていた。

「さて、海軍も来たことだし後は奴らに任せて俺たちは帰るぞ。ヴィシュートが腐ると困るしな」

密漁船のさらに向こうに何隻かの船が物凄い速さでやって来るのが見えた。どうやらあれが海軍の船らしい。遠目からでもかなり立派な船であることが分かる。この船の比じゃない。

こうして私たちはギルドに戻り、今日の仕事を終えた。自分たちが食べる分のヴィシュートを捕獲できなかったのは残念だったが、まともにお昼が食べられなかった詫びにとオスカルさん達が食堂でご飯を奢ってくれた。とれたての魚のアラがふんだんに使われたパスタは非常に美味であった。ただし魚が用意できなかったために夕飯が海藻だらけだったのは非常に残念だった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ゲームスタート時に死亡済み王女は今日も死んだふりをする

館花陽月
ファンタジー
乙女ゲームが大好きだった主人公「釘宮あんな」は友達の付き合いで行った占いの帰り道に事故死した。 転生時に「全てを手にするか」「1つだけにするか」のよく解らない二択を選んだ結果、なんとか転生が叶った私は石棺の上で目を覚ます。 起き上がってみると自分を取り囲むのは何処かで見た見覚えのある人物達・・!? クリア出来なかった乙女ゲーム「ー聖女ルルドの恋模様ー亡国のセレナード」の世界にいた。 どうやら私が転生したのは、ゲーム内の王太子様クレトスのルートで、一瞬だけ登場(モノクロ写真)したヒロインのルルドに姿形がそっくりな初恋の王女様だった。 ゲームスタート時には死亡していた私が、ゲームが始まるまで生き残れるのか。 そして、どうやら転生をさせた女神様の話によると生きている限り命を狙われ続けることになりそうなんだけど・・。建国の女神の生まれ変わりとして授かった聖女の8つの力の内、徹底的防御「一定時間の仮死」(死んだふり)が出来る力しか使えないって無理ゲー。誰かに暗殺対象として狙わている私が生き残ることは出来るのか!?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

処理中です...