8 / 12
第1章 転生少女、推しの娘になる
8.シルヴァと少女
しおりを挟む
「昨日は帰れずすまなかったな。改めて、君の父となるシルヴァンだ。これからよろしくな、アデル」
「こちらこそよろしくお願いします」
カタカタと揺れる馬車の中、シルヴァ様は私に改めて向き合うとそう言った。私も挨拶を返すと、シルヴァ様は穏やかな微笑みを浮かべる。間近で見る推しの微笑みに私の心臓はドクリと音を立てた。
今は王宮からシルヴァ様、ベルとうさま、私の3人で自宅へ帰る道中だ。私たちの家は王宮から少し離れたところにあって、馬車で行き来する必要あった。私の隣にはベルとうさまが座っていて、馬車の揺れに耐えられずバランスを崩す私をさりげなくフォローしてくれている。最初はベルとうさまのお膝の上に乗せられそうになったが、流石にそれは全力でお断りした。いくら幼女であるとはいえ結構な重さはあるはずだ。ベルとうさまの細い足に負荷をかけるわけにはいかない。
一方のシルヴァ様はというと、少しぎこちない動きで私の前に腰を下した。多分、緊張しているんだと思う。無理もない。もともとシルヴァ様は子供との触れ合いに不慣れだってベルとうさまが言ってたし、ロレシオ殿下も子どもだけど大人びすぎて普通の子どもとは違うから、一般的な子どもとの接し方が分からないんだと思う。まぁ、私も一般的な子どもとは言えないんだけどね。精神年齢、とっくに成人してるし。
そんなシルヴァ様の様子を見かねたのか、ベルとうさまはシルヴァ様にまずは挨拶をするように勧めた。そして、冒頭に戻る。
今日も推しが尊いと私が内心悶えていると、シルヴァ様は話を変えるようにして言った。
「…ところで、ベルとは随分と仲良くなったようだな」
ベルとうさまと仲良くなったことは間違いないので、私はその言葉に大きく頷く。
「はい!ベルとうさま、とても優しくて素敵な方です!お料理も上手で、昨日の夕飯もとても美味しかったですよ!」
ベルとうさま、マジで万能!料理上手で子どもの面倒見も良くて超スパダリ主夫!流石、推しの嫁!
私がベルとうさまをそう褒めると、ベルとうさまは「アデルは人を喜ばせるのが上手ですね」と言いながら照れくさそうに笑った。
「そうか。羨ましいな。私もベルの夕飯を食べたかった。どうにも、ベルの料理を食べないと仕事のやる気もおきん」
心底羨ましそうに言うシルヴァ様にベルとうさまは大袈裟ですよと言いながらも、今日は思う存分食べてくださいなんて言葉をかけている。ラブラブだ。
目の前で繰り広げられる推し達の尊いやり取りを眺めていると、ふいにシルヴァ様と視線が合った。何か言いたげな瞳に私が首を傾げるとシルヴァ様は恐る恐る口を開いた。
「…なぁ、俺はとうさまとは呼んでくれないのか?」
その少し寂しそうな眼差しに私の心臓はギュッと掴まれる。効果はばつぐんだ。
「と、とうさまとお呼びしてもよろしいのですか?」
「もちろんだ。寧ろ、娘に様付で呼ばれるのは寂しい」
「で、ではシルヴァとうさまと」
「ああ」
私がそう呼ぶとシルヴァ様は嬉しそうに笑った。―ほわっ!嬉しそうな笑顔も素敵!
私たちのやり取りを静かに見守っていたベルとうさまが、私たちの会話がひと段落すると嬉しそうに笑って言う。
「ふふ、これでようやく互いに打ち解けることができましたね。一安心です」
その後も私達の会話は、馬車が家に到着するまで続いたのだった。
※※※
「嫌です!一人で入れます!」
「駄目です。危ないでしょう?」
あの後、無地に家に着き、ベルとうさまの作った美味しい夕食を食べながら、楽しい話に花を咲かせ、かなり仲良くなった私たち親子であったが、直ぐに崩壊の危機はやってきた。そう、お風呂だ。
いくら幼児であるとはいえ、推しに裸を見せるなどましてや推しの裸を見るなど無理である。平常心でいられるはずがない。そもそも精神年齢成人済の私は一人でも問題なくお風呂に入れるのだ。だから、一緒に入ってくれるというベルとうさまの申し出を断り、一人でお風呂にはいろうとした。しかし、過保護なベルとうさまはそれを許さなかったのだ。それで私が盛大にごねているところである。
ベルとうさまは困ったように眉を下げながらも、ベルとうさまかジルヴァとうさまのどちらかとお風呂に入るように私を諭した。滑ってころんで頭を打ったら大変だの、お風呂の水深が深いから溺れたら大変だの色々と理由をつけては根気強く説得してくる。わがままを言って申し訳ないという気持ちはあるが、これだけは譲れなかったので私は必死に首を横に振り続けた。
私たちの言い合いを心配そうにシルヴァとうさまが隣で見守る中、言うことを聞き入れない私にベルとうさまは仕方がないですねと深いため息をつきながら言った。もしかして折れてくれたのかと私がベルとうさまを見上げると、ベルとうさまは綺麗な笑顔を浮かべて言った。
「では、3人で入りましょうか」
「…え?」
そのあとの二人の行動は早かった。ベルとうさまの言葉にシルヴァとうさまは私をひょいと捕まえると、軽々と抱き上げたままお風呂場へと連行した。あれよあれよとベルとうさまに来ていた服をはぎ取られる。いつの間にかバスローブ一枚になったシルヴァとうさまが、再び私を抱えるとそのまま浴室へと私を連れていく。
ベルとうさまも物凄い早業でバスローブ姿になると私たちの後に続いて浴室へと入ってきた。もはや諦めるしかない状況に、大人しく私がされるがままになっていると、シルヴァとうさまは私の頭を洗い始めた。豪快に頭にお湯をかけてきたので、私は急いで目を閉じる。そして、そのまま石鹸を泡立てると、わしゃわしゃと頭を洗っていく。
「いたっ!」
突然目に激痛が走り、私は目を抑えた。いきなり痛みに悶えた私にシルヴァとうさまは慌てた。
「す、すまない!目に石鹸が入ったか!?今すぐに泡を流すから!」
そう言って桶に入れた水を勢いよく私にかけようとするシルヴァとうさまを、ベルとうさまが慌てて止める。
「待ってください、シルヴァ。そんなに勢いよくお湯をかけたら余計に目に水が入って痛いでしょう!」
ベルとうさまはシルヴァとうさまから桶を奪うと、優しく丁寧に顔や頭に残った泡を洗い流し痛みを和らげてくれた。シルヴァとうさまは肩を落としながら、心底申し訳なさそうに私に謝った。私は大丈夫ですと首を横に振りながら、石鹸に手を掛ける。身体は流石に自分で洗いたい。
すると、ベルとうさまが薄い布に石けんをつけて泡立てたものを私に差し出した。これで身体を洗えということらしい。私はありがたくそれを受取ると自分の身体を洗った。ある程度前を洗ったところで背中を洗おうとすると、シルヴァとうさまが背中は届かないだろうからと、私からさっと布を受取ると背中を洗ってくれた。今度は肌を傷つけないように気を遣ってか、凄く優しく丁寧に洗ってくれている。しつこいぐらいに、強くないか?とか痛くないか?とか聞いてくるので思わず笑ってしまった。
二人が洗い終わると私はシルヴァとうさまに抱えられ湯船へと浸かった。確かにこの家の湯船は深くて、私の身長よりもあるため、私単体で浸かったら溺れてしまいそうだった。推しに抱えられて風呂に入るのは緊張するが、施設には湯船がなかったこともあり、久々にお湯に浸かったため、その気持ちよさに心癒され、次第にその緊張もなくなった。
「気持ちいいですか?アデル。お湯は熱くないですか?」
同じようにお湯に浸かりながら私にそう確認してくるベルとうさまに私は笑顔で頷いた。
「はい!気持ちいいです!」
「ふふ。それならよかったです」
今日は濃い一日だったななんて思いながら、ゆっくりと瞳を閉じる。…なんだか眠くなってきた。
ふっと軽くなった意識を私はそのまま心地よさに任せて手放したのだった。
※※※
「アデルがのぼせる前に出た方がいいよな?」
少しして大分身体も温まってきたところで、シルヴァはベルに確認する。ロレシオ殿下と接する機会は多いものも、自分は護衛の仕事で殿下の世話は待女やベルが行っているので、あまり自分が子供の世話をする経験がない。ましてや子どもをお風呂にいれる経験などなかったので、今日は戸惑ってばかりだった。ベルがフォローしてくれているので何とかなっているが、アデルの目に石鹸が入ってしまったときはこれでアデルに嫌われてしまったらどうしようとかなり焦った。多分、戦場で敵に背後を取られた時より焦った気がする。
「そうですね。そろそろ上がりましょうか…アデル?」
言葉を途中で止め、自分の腕の中に視線を移したベルの様子を見て、シルヴァも自分の腕の中にいる存在へと目を向けた。随分と大人しいなとは思っていたが、腕の中の少女は小さな寝息を立て目をつぶっていた。
「…寝ているな、これは」
「よほど疲れてたんですね」
「そうだな」
まだ片手で数えられる年数しか生きていない少女。自分の腕にすっぽりとはまる小さな身体は想像以上に軽く、そして華奢だ。下手をすれば潰してしまうんじゃないかと不安になるくらい脆い存在に思えた。
「…可愛いな」
「ええ、可愛いですね」
すうすうと眠るあどけない寝顔を見て、不思議と幸せな気持ちになった。きっと亡くなった友人も、毎日こんな感情でこの子の寝顔を見守っていたんだろう。
ふと視線をあげると、少女を見ていたベルと視線が重なった。なんとなく照れくさくて互いに微笑み合う。
「湯冷めしないように早く上がって着替えさせましょうか」
「ああ」
シルヴァは湯船から立ち上がると、少女を極力揺らさないように気を付けながら脱衣所へと向かった。二人で息をあわせながら湯冷めさせないように素早く少女を用意していた寝間着に着替えさせる。少女の眠りは大分深いようで着替えさせている間も彼女が起きることはなかった。
すやすやと自分の腕で眠る少女を見つめながら、この小さな大切な存在を遺してくれた今は亡き友人に感謝の祈りを心の中で捧げるのだった。
「こちらこそよろしくお願いします」
カタカタと揺れる馬車の中、シルヴァ様は私に改めて向き合うとそう言った。私も挨拶を返すと、シルヴァ様は穏やかな微笑みを浮かべる。間近で見る推しの微笑みに私の心臓はドクリと音を立てた。
今は王宮からシルヴァ様、ベルとうさま、私の3人で自宅へ帰る道中だ。私たちの家は王宮から少し離れたところにあって、馬車で行き来する必要あった。私の隣にはベルとうさまが座っていて、馬車の揺れに耐えられずバランスを崩す私をさりげなくフォローしてくれている。最初はベルとうさまのお膝の上に乗せられそうになったが、流石にそれは全力でお断りした。いくら幼女であるとはいえ結構な重さはあるはずだ。ベルとうさまの細い足に負荷をかけるわけにはいかない。
一方のシルヴァ様はというと、少しぎこちない動きで私の前に腰を下した。多分、緊張しているんだと思う。無理もない。もともとシルヴァ様は子供との触れ合いに不慣れだってベルとうさまが言ってたし、ロレシオ殿下も子どもだけど大人びすぎて普通の子どもとは違うから、一般的な子どもとの接し方が分からないんだと思う。まぁ、私も一般的な子どもとは言えないんだけどね。精神年齢、とっくに成人してるし。
そんなシルヴァ様の様子を見かねたのか、ベルとうさまはシルヴァ様にまずは挨拶をするように勧めた。そして、冒頭に戻る。
今日も推しが尊いと私が内心悶えていると、シルヴァ様は話を変えるようにして言った。
「…ところで、ベルとは随分と仲良くなったようだな」
ベルとうさまと仲良くなったことは間違いないので、私はその言葉に大きく頷く。
「はい!ベルとうさま、とても優しくて素敵な方です!お料理も上手で、昨日の夕飯もとても美味しかったですよ!」
ベルとうさま、マジで万能!料理上手で子どもの面倒見も良くて超スパダリ主夫!流石、推しの嫁!
私がベルとうさまをそう褒めると、ベルとうさまは「アデルは人を喜ばせるのが上手ですね」と言いながら照れくさそうに笑った。
「そうか。羨ましいな。私もベルの夕飯を食べたかった。どうにも、ベルの料理を食べないと仕事のやる気もおきん」
心底羨ましそうに言うシルヴァ様にベルとうさまは大袈裟ですよと言いながらも、今日は思う存分食べてくださいなんて言葉をかけている。ラブラブだ。
目の前で繰り広げられる推し達の尊いやり取りを眺めていると、ふいにシルヴァ様と視線が合った。何か言いたげな瞳に私が首を傾げるとシルヴァ様は恐る恐る口を開いた。
「…なぁ、俺はとうさまとは呼んでくれないのか?」
その少し寂しそうな眼差しに私の心臓はギュッと掴まれる。効果はばつぐんだ。
「と、とうさまとお呼びしてもよろしいのですか?」
「もちろんだ。寧ろ、娘に様付で呼ばれるのは寂しい」
「で、ではシルヴァとうさまと」
「ああ」
私がそう呼ぶとシルヴァ様は嬉しそうに笑った。―ほわっ!嬉しそうな笑顔も素敵!
私たちのやり取りを静かに見守っていたベルとうさまが、私たちの会話がひと段落すると嬉しそうに笑って言う。
「ふふ、これでようやく互いに打ち解けることができましたね。一安心です」
その後も私達の会話は、馬車が家に到着するまで続いたのだった。
※※※
「嫌です!一人で入れます!」
「駄目です。危ないでしょう?」
あの後、無地に家に着き、ベルとうさまの作った美味しい夕食を食べながら、楽しい話に花を咲かせ、かなり仲良くなった私たち親子であったが、直ぐに崩壊の危機はやってきた。そう、お風呂だ。
いくら幼児であるとはいえ、推しに裸を見せるなどましてや推しの裸を見るなど無理である。平常心でいられるはずがない。そもそも精神年齢成人済の私は一人でも問題なくお風呂に入れるのだ。だから、一緒に入ってくれるというベルとうさまの申し出を断り、一人でお風呂にはいろうとした。しかし、過保護なベルとうさまはそれを許さなかったのだ。それで私が盛大にごねているところである。
ベルとうさまは困ったように眉を下げながらも、ベルとうさまかジルヴァとうさまのどちらかとお風呂に入るように私を諭した。滑ってころんで頭を打ったら大変だの、お風呂の水深が深いから溺れたら大変だの色々と理由をつけては根気強く説得してくる。わがままを言って申し訳ないという気持ちはあるが、これだけは譲れなかったので私は必死に首を横に振り続けた。
私たちの言い合いを心配そうにシルヴァとうさまが隣で見守る中、言うことを聞き入れない私にベルとうさまは仕方がないですねと深いため息をつきながら言った。もしかして折れてくれたのかと私がベルとうさまを見上げると、ベルとうさまは綺麗な笑顔を浮かべて言った。
「では、3人で入りましょうか」
「…え?」
そのあとの二人の行動は早かった。ベルとうさまの言葉にシルヴァとうさまは私をひょいと捕まえると、軽々と抱き上げたままお風呂場へと連行した。あれよあれよとベルとうさまに来ていた服をはぎ取られる。いつの間にかバスローブ一枚になったシルヴァとうさまが、再び私を抱えるとそのまま浴室へと私を連れていく。
ベルとうさまも物凄い早業でバスローブ姿になると私たちの後に続いて浴室へと入ってきた。もはや諦めるしかない状況に、大人しく私がされるがままになっていると、シルヴァとうさまは私の頭を洗い始めた。豪快に頭にお湯をかけてきたので、私は急いで目を閉じる。そして、そのまま石鹸を泡立てると、わしゃわしゃと頭を洗っていく。
「いたっ!」
突然目に激痛が走り、私は目を抑えた。いきなり痛みに悶えた私にシルヴァとうさまは慌てた。
「す、すまない!目に石鹸が入ったか!?今すぐに泡を流すから!」
そう言って桶に入れた水を勢いよく私にかけようとするシルヴァとうさまを、ベルとうさまが慌てて止める。
「待ってください、シルヴァ。そんなに勢いよくお湯をかけたら余計に目に水が入って痛いでしょう!」
ベルとうさまはシルヴァとうさまから桶を奪うと、優しく丁寧に顔や頭に残った泡を洗い流し痛みを和らげてくれた。シルヴァとうさまは肩を落としながら、心底申し訳なさそうに私に謝った。私は大丈夫ですと首を横に振りながら、石鹸に手を掛ける。身体は流石に自分で洗いたい。
すると、ベルとうさまが薄い布に石けんをつけて泡立てたものを私に差し出した。これで身体を洗えということらしい。私はありがたくそれを受取ると自分の身体を洗った。ある程度前を洗ったところで背中を洗おうとすると、シルヴァとうさまが背中は届かないだろうからと、私からさっと布を受取ると背中を洗ってくれた。今度は肌を傷つけないように気を遣ってか、凄く優しく丁寧に洗ってくれている。しつこいぐらいに、強くないか?とか痛くないか?とか聞いてくるので思わず笑ってしまった。
二人が洗い終わると私はシルヴァとうさまに抱えられ湯船へと浸かった。確かにこの家の湯船は深くて、私の身長よりもあるため、私単体で浸かったら溺れてしまいそうだった。推しに抱えられて風呂に入るのは緊張するが、施設には湯船がなかったこともあり、久々にお湯に浸かったため、その気持ちよさに心癒され、次第にその緊張もなくなった。
「気持ちいいですか?アデル。お湯は熱くないですか?」
同じようにお湯に浸かりながら私にそう確認してくるベルとうさまに私は笑顔で頷いた。
「はい!気持ちいいです!」
「ふふ。それならよかったです」
今日は濃い一日だったななんて思いながら、ゆっくりと瞳を閉じる。…なんだか眠くなってきた。
ふっと軽くなった意識を私はそのまま心地よさに任せて手放したのだった。
※※※
「アデルがのぼせる前に出た方がいいよな?」
少しして大分身体も温まってきたところで、シルヴァはベルに確認する。ロレシオ殿下と接する機会は多いものも、自分は護衛の仕事で殿下の世話は待女やベルが行っているので、あまり自分が子供の世話をする経験がない。ましてや子どもをお風呂にいれる経験などなかったので、今日は戸惑ってばかりだった。ベルがフォローしてくれているので何とかなっているが、アデルの目に石鹸が入ってしまったときはこれでアデルに嫌われてしまったらどうしようとかなり焦った。多分、戦場で敵に背後を取られた時より焦った気がする。
「そうですね。そろそろ上がりましょうか…アデル?」
言葉を途中で止め、自分の腕の中に視線を移したベルの様子を見て、シルヴァも自分の腕の中にいる存在へと目を向けた。随分と大人しいなとは思っていたが、腕の中の少女は小さな寝息を立て目をつぶっていた。
「…寝ているな、これは」
「よほど疲れてたんですね」
「そうだな」
まだ片手で数えられる年数しか生きていない少女。自分の腕にすっぽりとはまる小さな身体は想像以上に軽く、そして華奢だ。下手をすれば潰してしまうんじゃないかと不安になるくらい脆い存在に思えた。
「…可愛いな」
「ええ、可愛いですね」
すうすうと眠るあどけない寝顔を見て、不思議と幸せな気持ちになった。きっと亡くなった友人も、毎日こんな感情でこの子の寝顔を見守っていたんだろう。
ふと視線をあげると、少女を見ていたベルと視線が重なった。なんとなく照れくさくて互いに微笑み合う。
「湯冷めしないように早く上がって着替えさせましょうか」
「ああ」
シルヴァは湯船から立ち上がると、少女を極力揺らさないように気を付けながら脱衣所へと向かった。二人で息をあわせながら湯冷めさせないように素早く少女を用意していた寝間着に着替えさせる。少女の眠りは大分深いようで着替えさせている間も彼女が起きることはなかった。
すやすやと自分の腕で眠る少女を見つめながら、この小さな大切な存在を遺してくれた今は亡き友人に感謝の祈りを心の中で捧げるのだった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
小さき文官は強大な騎士を手に入れる
朝子
BL
宰相の息子ルカは誰より美しく賢く仕事熱心。そんな彼の唯一のコンプレックスは短小極細な陰茎を持っていること。
誰よりモテるのに、その陰茎のせいで恋愛することもできない。
恋愛することはあきらめて、極太ディルドで一人遊びに興じる日々。
ある時、騎士団の水浴びに遭遇したルカは、誰より大きな陰茎を持つ団員リーヴァイ(の陰茎)に一目惚れしてしまう。
ディルドよりも大きそうなリーヴァイの陰茎を受け入れたら自分は一体どうなってしまうのだろう。
そう思ったルカが下心を持ちながらも(むしろ下心しかない)寡黙な攻めリーヴァイに対し、頑張ってアプローチを試みる恋物語。
寡黙攻め×アホの子受け
ムーンからの転載です。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
目覚めたそこはBLゲームの中だった。
慎
BL
ーーパッパー!!
キキーッ! …ドンッ!!
鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥
身体が曲線を描いて宙に浮く…
全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥
『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』
異世界だった。
否、
腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。
攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。
慎
BL
───…ログインしました。
無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。
そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど…
ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・
『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』
「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」
本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!!
『……また、お一人なんですか?』
なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!?
『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』
なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ!
「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」
ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ…
「僕、モブなんだけど」
ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!!
───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる