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「また来んしゃい」
五十嵐さんが手を振って見送ってくれる。
「お世話になりました」
宿代を清算し、和心さんの車で駅まで送ってもらった。姉もついてきた。
「愛ちゃん、困ったことがあったら連絡してな」
和心さんはそう言ってくれたが、姉は何も言わない。
「これからも俳句見るね」
私は言った。
「詠んだらいいのに」
姉が呟く。
「それは無理」
一人で電車に乗り込む。入場券まで買って姉が手を振りながら涙する。ずるいな。こんな暑い日に半纏なんて、人目をひくよ。
姉は私と別れることが寂しくて何も言えなかったのだろう。でもさ、姉妹なんだからどっちかになにかあったら連絡が行くよ。
『夕焼けの 空がきれいと 君笑ふ』
『心まで 痩せて粗食に なりました』
もっと遅い時間でもよかったのにチケットが安かったの。
そういうことも、大事でしょ?
あ、今の俳句っぽい。でも、だめだ。上の句がちっとも思いつかない。
待合所で子どもが一人でスマホを凝視している。こんなに子どもでも一人で飛行機にちゃんと乗れるんだ、偉いな。大きなバッグを持っているし背が高いからオーディションに向かうのだろうか。バレーかバレエの子かもしれない。背筋がしゃんとしている女の子が開いた本に見覚えがあった。姉の書店にあったものだ。栞がぱらりと私の足元に落ちてきた。
『本はあなたの人生を潤すだろう』
と布に刺繍がしてある栞だった。きっとイベントの先着でもらった代物に違いない。
「素敵ね」
私が言うと彼女は小さく会釈をしてそれを受け取った。人はいろんなところでつながっている。彼女にとってはその本か栞が精神安定剤なのかもしれない。
次の長期休みにはまた来よう。そのときにはいろいろが片付いているといいな。困ったら、あの人たちに助けを求めればいい。そう思うと気分が軽くなる。
『妹は 眠い眠いと そればかり 話したいこと あるんだけどな』
「短歌かよ」
と一人つっこみ。
搭乗ゲートが開くのを待ちながら私は姉の電話番号をスマホに登録した。『半纏姉ちゃん』と。
おわり
五十嵐さんが手を振って見送ってくれる。
「お世話になりました」
宿代を清算し、和心さんの車で駅まで送ってもらった。姉もついてきた。
「愛ちゃん、困ったことがあったら連絡してな」
和心さんはそう言ってくれたが、姉は何も言わない。
「これからも俳句見るね」
私は言った。
「詠んだらいいのに」
姉が呟く。
「それは無理」
一人で電車に乗り込む。入場券まで買って姉が手を振りながら涙する。ずるいな。こんな暑い日に半纏なんて、人目をひくよ。
姉は私と別れることが寂しくて何も言えなかったのだろう。でもさ、姉妹なんだからどっちかになにかあったら連絡が行くよ。
『夕焼けの 空がきれいと 君笑ふ』
『心まで 痩せて粗食に なりました』
もっと遅い時間でもよかったのにチケットが安かったの。
そういうことも、大事でしょ?
あ、今の俳句っぽい。でも、だめだ。上の句がちっとも思いつかない。
待合所で子どもが一人でスマホを凝視している。こんなに子どもでも一人で飛行機にちゃんと乗れるんだ、偉いな。大きなバッグを持っているし背が高いからオーディションに向かうのだろうか。バレーかバレエの子かもしれない。背筋がしゃんとしている女の子が開いた本に見覚えがあった。姉の書店にあったものだ。栞がぱらりと私の足元に落ちてきた。
『本はあなたの人生を潤すだろう』
と布に刺繍がしてある栞だった。きっとイベントの先着でもらった代物に違いない。
「素敵ね」
私が言うと彼女は小さく会釈をしてそれを受け取った。人はいろんなところでつながっている。彼女にとってはその本か栞が精神安定剤なのかもしれない。
次の長期休みにはまた来よう。そのときにはいろいろが片付いているといいな。困ったら、あの人たちに助けを求めればいい。そう思うと気分が軽くなる。
『妹は 眠い眠いと そればかり 話したいこと あるんだけどな』
「短歌かよ」
と一人つっこみ。
搭乗ゲートが開くのを待ちながら私は姉の電話番号をスマホに登録した。『半纏姉ちゃん』と。
おわり
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