半纏姉ちゃん

吉沢 月見

文字の大きさ
上 下
13 / 13

13

しおりを挟む
「また来んしゃい」
 五十嵐さんが手を振って見送ってくれる。
「お世話になりました」
 宿代を清算し、和心さんの車で駅まで送ってもらった。姉もついてきた。
「愛ちゃん、困ったことがあったら連絡してな」
 和心さんはそう言ってくれたが、姉は何も言わない。
「これからも俳句見るね」
 私は言った。
「詠んだらいいのに」
 姉が呟く。
「それは無理」
 一人で電車に乗り込む。入場券まで買って姉が手を振りながら涙する。ずるいな。こんな暑い日に半纏なんて、人目をひくよ。
 姉は私と別れることが寂しくて何も言えなかったのだろう。でもさ、姉妹なんだからどっちかになにかあったら連絡が行くよ。
『夕焼けの 空がきれいと 君笑ふ』
『心まで 痩せて粗食に なりました』
 もっと遅い時間でもよかったのにチケットが安かったの。
そういうことも、大事でしょ?
 あ、今の俳句っぽい。でも、だめだ。上の句がちっとも思いつかない。
 待合所で子どもが一人でスマホを凝視している。こんなに子どもでも一人で飛行機にちゃんと乗れるんだ、偉いな。大きなバッグを持っているし背が高いからオーディションに向かうのだろうか。バレーかバレエの子かもしれない。背筋がしゃんとしている女の子が開いた本に見覚えがあった。姉の書店にあったものだ。栞がぱらりと私の足元に落ちてきた。
『本はあなたの人生を潤すだろう』
 と布に刺繍がしてある栞だった。きっとイベントの先着でもらった代物に違いない。
「素敵ね」
 私が言うと彼女は小さく会釈をしてそれを受け取った。人はいろんなところでつながっている。彼女にとってはその本か栞が精神安定剤なのかもしれない。
次の長期休みにはまた来よう。そのときにはいろいろが片付いているといいな。困ったら、あの人たちに助けを求めればいい。そう思うと気分が軽くなる。
『妹は 眠い眠いと そればかり 話したいこと あるんだけどな』
「短歌かよ」
 と一人つっこみ。
 搭乗ゲートが開くのを待ちながら私は姉の電話番号をスマホに登録した。『半纏姉ちゃん』と。
 おわり
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

猫枕
2022.04.07 猫枕

博多弁は福岡市博多区だけの言葉だにゃ。

博多弁と福岡弁は違うニャン。

解除
猫枕
2022.04.03 猫枕

面白いニャー。続きが楽しみです。

次は姉ちゃん登場かな?

さてさて頼りになる人物なのか、はたまた更なる面倒を持ち込む人なのか。更新をおとなしく待つ。

解除

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

さよならまでの7日間、ただ君を見ていた

東 里胡
ライト文芸
旧題:君といた夏 第6回ほっこり・じんわり大賞 大賞受賞作品です。皆様、本当にありがとうございました! 斉藤結夏、高校三年生は、お寺の子。 真夏の昼下がり、渋谷の路地裏でナナシのイケメン幽霊に憑りつかれた。 記憶を無くしたイケメン幽霊は、結夏を運命の人だと言う。 彼の未練を探し、成仏させるために奔走する七日間。 幽霊とは思えないほど明るい彼の未練とは一体何?

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

惹かれて満ち足りて

蒼キるり
ライト文芸
束縛の強い恋人から別れたばかりの有紗は友人に紹介されたバーで素敵な人に出会う。目が会うたびに話すたびに触れ合うたびに惹かれていく想いが、満ちるまでのお話。

ひみつのともだち

茶野森かのこ
ライト文芸
妖精と人間、友達になれた彼らの日常のお話です。 人間は恐ろしい生き物、そう小さな頃から教え込まれて育ってきた妖精のルイ。 人間が溢す感情の欠片を栄養源としながらも、人間を恐れて隠れて暮らす妖精達。でも、ルイは、人間が恐ろしい人達だけではないのを知っている。人間の和真と友達になったからだ。 ある時、人間が落とした感情の結晶を見つけたルイ達は、危険を知りながらも、それを持ち主に返しに行く事に。 妖精と人間、いつか共に過ごせる未来を夢見る、ルイと和真達のお話です。 ★2024.4.30修正の為、ページ数増やしています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。