半纏姉ちゃん

吉沢 月見

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「無理でした」
 と私は居酒屋へと逃げ帰った。
 意思の疎通が測れない。ぐったりだ。得意の愛想笑いも通用しない。
「泊まればいいさ。夜には恋ちゃんも店に来ると思うからそんとき話しらたよかよ」
「はい、そうさせていただきます。あっ、私お手伝いします」
 暇な時間など今は不要。
「じゃあ、部屋に荷物置いておいで。部屋二階ね」
「はい」
 階段をのぼって部屋の引き戸を開けると海が見えた。
「畳だ」
 それは私に実家を思い出させた。もう、あん畜生が暮らしている。あの人のことはよく知らん。いい人なのかもしれない。だが、葬儀費用は私が払ったが、なんで他のことまで私がせにゃならんのだ。あの男は、ただ泣いているだけだった。ぽつんと、所在なさそうに。
 私は娘だから、施主だから堂々としていたわけじゃない。彼も自分の非力さはわかっているはず。同居して生計を共にしてことをやたらと強調するが、恋愛関係とも限らないのではないだろうか。
 人のお金を楽して手に入れようなんて普通の人間考えることじゃない。やっぱりあの人は悪い人だ。そう思い込まないとここまで来た自分が辛い。
 母が死んだから、母を悪くは思えない。ただね、人生の終わりにあんな面倒な人と関わって、死後に揉めていることに関しては文句を言いたい。荷物を置いて、指折り数える。
『私まで 死にたくなるよ お母さん』
 だめだ。動いていないと嫌なことばかり考えてしまう。だから店主さんを手伝って店の掃除をした。
 場所的に五十嵐さんが話しているのは福岡弁になるのかな。今まで知り合いにはいなかったが、なんとなくわかる。知らない間に私も大人。

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