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悪気なく悪い男

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 すっかり花見客も来なくなった。それを片付けながら一心さんに蕪木さんとのことを話そうと思ったが、言い訳のような気もした。
「ほら」
 一心さんが唾液を絡めた舌を出す。
「なんです?」
「舐めろ」
「嫌ですよ、そんな」
「力をコントロールできなくていいのか?」
 そう言われたら、拒めない。
 私自身が闇落ちすることもあるのだろうか。調べてもわからない。異世界転生とはまた別の次元なのだろう。きっと闇はブラックホールみたいなところだ。
 文子さんをそこに送り込んでしまったのに自分はそこへ行きたくない。
 このキスが、本当に修行なのだろうか。あれ以来、自分で自分の力を感じることはない。強くなっているのだろうか。
 一心さんから唇を離したら、私は泣いていた。
「戻りたいか?」
 返事はできなかった。戻りたいけれど、誰かを傷つけるくらいなら自分が傷つくほうがいい。

 蕪木さんのことは閻魔様がお裁きを保留にしているらしく、その間は芯しん亭で預かるようだった。彼の師匠が蕪木さんの罪まで引き受けると言っているらしい。そして閻魔様は二人を会わせたくないようだった。どうせろくなことを考えない。地獄の女鬼たちでハーレムを作ってしまいそう。
 私には蕪木さんよりも一心さんのほうが悪気なく悪い人に思える。
 キスのせいだろうか。考え込むと苦しいのはなぜだろう。
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