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気まずい関係

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「こんにちは」
 夕刻、いつものように芯しん亭へお客様が来た。
「いらっしゃいませ」
「ここに予約をしていると思うのですが」
 若い男の子だった。今までの客人たちは自分が一番好きな服、もしくは思い出の、または最もリラックスできる部屋着のような恰好の人はいたが、彼は制服のようなスーツ姿である。二十歳前後の学生に見える。
「お名前をよろしいですか?」
 私は尋ねた。
「都村(つむら)です」
 きれいな目の繊細そうな男の子。
 紹介状には名前の他に『19歳、自殺』と書かれていた。
「こちらでお待ちください」
「はい」
 死んだ人って、たいていはこっちのシステムに驚いて、どことなく地獄に恐れをなしている人が多いのだけれど、なぜか彼は落ち着きなく視線を外に向けてばかりいる。

「自殺だから地獄に落ちたのかな?」
 こっそり私は囁いた。
「気に入らねぇ。生きてりゃ楽しいことあるだろうに」
 凌平くんは事故死だったからそう思うのかもしれない。でも、私だって死にたくなることは地獄にいる今だってある。疲れているときに手を撫でられたり、嫌な言葉を言われたり。
「若い」
「きれいだね」
 と言われて嬉しい女ばかりじゃない。手の感触にぞっとする。着物の上からでもお尻は触ってはいけないはず。
 どうして一心さんだと嫌じゃないんだろう。さすがに尻は嫌だけど。
 都村さんのお部屋係は澪さんが担当することになった。
「不思議な子。部屋に案内してもずっとそわそわして」
 戻って来た澪さんが言った。
「さっきもずっと外を見ていましたよ」
 私は言った。
「そうなの。部屋でも窓外ばかり気にして」
 ここでそんなことをする人は初めてだ。誰かと心中してはぐれてしまったのだろうか。
「すいません。出かけてきます」
 都村さんは手ぶらで出かけて行った。
「こんなにすぐ出かける人っていないわよ」
 麻美さんも不思議がる。
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