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芯しん亭

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 不安でいっぱいだったのに、いつの間にかぐっすり。目が覚めて、その事実に驚く。そうだ、ここは家じゃない。地獄だ。それなのによく眠れた。割と図太いのね、私。
「瑠莉さん、朝よ。布団の上げ下げは自分でお願いします。支度したら下に来て。先行くわ」
「はい」
 麻美さんはもう身支度を整えて部屋を出て行った。布団を片づけること、着物に戸惑い時間を取られる。

 階下はもう朝食の準備でバタバタしていた。
「それ運んで」
 仲居頭の文子さんは朝からばっちりメイク。
「了解です」
 文子さんの指示は的確だし、自らも率先して動く。

 朝は配膳にお客様のお見送り、部屋の掃除、お風呂の掃除。
 息つく暇もなく午前中が終了。洗濯も手でする。脱水機能がついた洗濯機を持ってきてしまいたい。
「やってもやっても終わらない」
「瑠莉さん、洗濯終わったらお昼食べて。それが終わったら廊下の掃除お願いね」
「はい」
 麻美さんに促されてようやく昼食を取る。時計は二時を指している。
「あと一時間で今日の泊り客が来るよ」
 髪をきれいにまとめた同部屋の澪さんも隣で昼食を流し込む。
「今の時代、長時間勤務は違法ですよ」
 私は言った。
「寝床があるだけいいわ。ごはん付きだしね」
 珠絵ちゃんはお茶碗いっぱいにごはんをよそって、驚くほどの速さで完食。人は見た目によらない。
 現世では割とうまく立ち回っていたほう。慣れない足袋のせいで親指の付け根が痛い。それでも力を込めて立ち上がる。
 勉強がやだとか退屈な時間に困惑していた自分を呪いたい。スマホのネットニュースやゲームも無意味だとまでは言い切らないが無駄ではあった。短大を卒業してからうちの神社を手伝いながらバイトをこなしてきた。人間関係に悩むことは少なかったけれど、カフェのお客さんがストーカーと化したり、バイトの高校生に告白されたり、ややこしいことはそれなりにあって、だから女の人ばかりのエステやネイル関係に職を変えたりした。
 俗世にいた私は暇だったのだ。だから同僚を嫌いだなと思ってしまったり、お客さんを怖いと感じることもあった。
 忙しいと人はただ目の前の仕事に追われるだけ。
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