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 私たちの馬車を頭上の鳥がいとも簡単に追い越してゆく。鷹だろうか。大きな鳥だ。鷹には王帝が誰とか私たちの結婚のことなど無関係。餌を探して優雅に旋回している。ウサギかネズミを狙っているのだろう。あの鳥がずっと羽ばたいている世界がいいと私は思う。そういう世界をアルゼット様と作ってゆこう。

「疲れた」
 城に戻ればアルゼット様は私のベッドにごろん。
「そうですね」
 私も手の足も汚れていてお風呂に入りたいが、それ以上に眠たい。

「ああ、折角の初夜が。あの難民たち、許さん」
 アルゼット様が嘆く。

「そんなこと仰らずにあの方たちをどうするか考えてくださいましね」
 民は大事だ。しかし、彼らを受け入れれば隣国との摩擦案件にもなる。

 もう明るいから、アルゼット様の瞳の中に私が映っているのがよく見えた。恥ずかしい。そのときに気づいた。私が映るということは、アルゼット様も私を見ているということに。

「お前、俺のこと好きか?」
 そんなこと耳の傍で囁かないで。
「好きですよ。かぼちゃと同じくらい」
「そこまでとは。よかった」
 王帝としてぱきぱき指示する姿はさすがだなと思った。

「あなたは?」
 まだ聞いてない。
「最初は面白い女だと思った。今はお前のことが知りたいと思っている」
「私がかぼちゃを好きなのはね、瀕死のときにあなたの国がかぼちゃを送ってくれたの。それがとても甘くて、おかげで生き延びられたわ」

 あの味は一生忘れないだろう。保管していたあのときのかぼちゃの種も他の種に混じってどこに植えたのかさえわからなくなってしまった。実ったのかさえ定かではない。それでいいのだ。今年は豊作だとトベールじいも言っていた。

「ルラル、眠ろう」
「ええ。起きたらまた湖へ行きましょう。その前に畑にも寄らなくちゃ」
 採りたての野菜を届けよう。
「忙しいな」
「いいじゃない」
 暇でお金があると悪いことばかりに手を染める人もいる。怠惰は嫌いなの。

 ああ、もう寝息。私の何がそんなにこの人を安眠につなげているのだろう。一番きれいな人じゃなくて、一番利口でもない私を選んで後悔してない? そんな理由で結婚相手を選ぶ人などいないのだろう。自分にとって大事で、何物にも代えがたい人がいる。

 私もあなたと一緒にいるとほっとする。楽しいしドキドキもする。これが愛になればいいな。
 あっ、いつものように手を握ってくれる。つながれたその手さえかぼちゃに見えます。愛が実ったら何になるのかしら。

 あなたと眠る。きっと、ずっと。
   おわり
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