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連日、城には贈り物が届いているようだった。各国との交流があるからなのね。高級な布、お酒、水晶。
国民も婚儀に沸いているらしい。豪商から貢物が献上される。
「カニは食べたことあります。でもこんなに大きいのは初めて。タコは食べませんよ」
今日は魚介がたっぷり送られてきたようだ。
「うまいのに。ほれ」
アルゼット様が子どものときから食べているという練った小麦にタコを入れて焼いたもの。
「おいしいけど、タコの味はわかりかねますね」
食感が不思議。
私は誓いの言葉がさっぱり覚えられない。夜も自分の部屋で唱えてみる。
「リンテ…」
この国の古語らしい。
「ブース」
「ブース、ハウ…」
「ハウレッカ、デシジ。もう少し滑らかに言えんか?」
あなたと添い遂げるという意味らしい。婚儀の前に今の言葉でそう言ってくれないのかしら。私たち、一生一緒にいるの? 楽しいけれど、恋ってもうちょっと違うものだと思うの。今更そんなこと言えないわ。
「すいません」だってむつかしい。ずっと聞きたかったことを尋ねた。「アルゼット様、私と結婚をしても側室も娶るのですか?」
「考えてはおらんが?」
今まではいたのだろう。うちの父様にも愛人はいる。他の国には第10夫人までいるところまである。
しかも、
「ルラル様、晩餐会で王妃たるもの食事に手をつけてはなりませんからね」
とソフィアさんに釘を刺される。
「目の前にごはんがあるのに?」
拷問である。でもミスズがこっそり、練習中から小さなおにぎりや、それをお揚げで包んだものを口に放り入れてくれる。
そうでなかったら、丸一日の体力が持たない。米も自分で作ってみたいな。こういうときこそあのナッツたっぷりの甘いパンがいい。
衣装に首飾り、耳飾り、靴、つるつるのタイツに手袋。婚儀で使うものが私の部屋を埋め尽くす。
「見たことのある耳飾りだ」
アルゼット様が手に取る。
「あなたの母様のもの?」
「そうかもしれん」
「そんなに大事なもの、いいの?」
「お前以外にはつけられない」
そうか。王妃という立場になるのだ。こんな凡庸な私でいいのかな。これからも勉強やマナー講座が続くのだろう。一生涯だ。きっとかぼちゃもずっと作ってゆく。
式の最後に誓いを述べ、腕輪を交換する。落としたら殺されるのではないだろうか。
まだ練習なのにアルゼット様がはめやすいように袖をまくり、
「ん」
と腕を出してくれる。
「緊張する」
準備も練習もたくさんしたが、ミスは許されない。落としたりしたら終わりだ。緊張感がすごい。みんなピリピリしている。
「もう明日だな」
アルゼット様がそんなに緊張していないご様子。さすがね。
「ええ、明日でございますね」
婚儀がすんだらたくさんの愛の言葉をくれるのかしら。忙しくてそれどころではないのかもしれない。ずっと作り笑いを2人でしているのだろう。
明日のためにいつもより早く床につく。
うまくできるかしら。失敗したらどうしよう。震えそうな私の手をいつも通りにアルゼット様が握ってくださる。
度胸があるのかもしれないし、王帝にとっては婚儀なんて大したことないのかもしれない。
「ねんねんよー」
と子守唄まで歌ってくれる。
「そんなに子どもじゃありません」
「そうか」
笑ったおかげなのか、すぐに眠れた。
国民も婚儀に沸いているらしい。豪商から貢物が献上される。
「カニは食べたことあります。でもこんなに大きいのは初めて。タコは食べませんよ」
今日は魚介がたっぷり送られてきたようだ。
「うまいのに。ほれ」
アルゼット様が子どものときから食べているという練った小麦にタコを入れて焼いたもの。
「おいしいけど、タコの味はわかりかねますね」
食感が不思議。
私は誓いの言葉がさっぱり覚えられない。夜も自分の部屋で唱えてみる。
「リンテ…」
この国の古語らしい。
「ブース」
「ブース、ハウ…」
「ハウレッカ、デシジ。もう少し滑らかに言えんか?」
あなたと添い遂げるという意味らしい。婚儀の前に今の言葉でそう言ってくれないのかしら。私たち、一生一緒にいるの? 楽しいけれど、恋ってもうちょっと違うものだと思うの。今更そんなこと言えないわ。
「すいません」だってむつかしい。ずっと聞きたかったことを尋ねた。「アルゼット様、私と結婚をしても側室も娶るのですか?」
「考えてはおらんが?」
今まではいたのだろう。うちの父様にも愛人はいる。他の国には第10夫人までいるところまである。
しかも、
「ルラル様、晩餐会で王妃たるもの食事に手をつけてはなりませんからね」
とソフィアさんに釘を刺される。
「目の前にごはんがあるのに?」
拷問である。でもミスズがこっそり、練習中から小さなおにぎりや、それをお揚げで包んだものを口に放り入れてくれる。
そうでなかったら、丸一日の体力が持たない。米も自分で作ってみたいな。こういうときこそあのナッツたっぷりの甘いパンがいい。
衣装に首飾り、耳飾り、靴、つるつるのタイツに手袋。婚儀で使うものが私の部屋を埋め尽くす。
「見たことのある耳飾りだ」
アルゼット様が手に取る。
「あなたの母様のもの?」
「そうかもしれん」
「そんなに大事なもの、いいの?」
「お前以外にはつけられない」
そうか。王妃という立場になるのだ。こんな凡庸な私でいいのかな。これからも勉強やマナー講座が続くのだろう。一生涯だ。きっとかぼちゃもずっと作ってゆく。
式の最後に誓いを述べ、腕輪を交換する。落としたら殺されるのではないだろうか。
まだ練習なのにアルゼット様がはめやすいように袖をまくり、
「ん」
と腕を出してくれる。
「緊張する」
準備も練習もたくさんしたが、ミスは許されない。落としたりしたら終わりだ。緊張感がすごい。みんなピリピリしている。
「もう明日だな」
アルゼット様がそんなに緊張していないご様子。さすがね。
「ええ、明日でございますね」
婚儀がすんだらたくさんの愛の言葉をくれるのかしら。忙しくてそれどころではないのかもしれない。ずっと作り笑いを2人でしているのだろう。
明日のためにいつもより早く床につく。
うまくできるかしら。失敗したらどうしよう。震えそうな私の手をいつも通りにアルゼット様が握ってくださる。
度胸があるのかもしれないし、王帝にとっては婚儀なんて大したことないのかもしれない。
「ねんねんよー」
と子守唄まで歌ってくれる。
「そんなに子どもじゃありません」
「そうか」
笑ったおかげなのか、すぐに眠れた。
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