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 うわぁ、無理。

 懇願し続けていたらアルゼット様がリオールの置き土産を返してくれたのはいいけれど、むしろ見ちゃいけないものだった。
「春画ですか?」
 と里から戻ってきてくれたミスズが覗き込む。

「そうなのかしら。ミスズは読んだことある?」
「ありませんね。うちの国では男の人が読むものですよ」
「アルゼット様も見るのかしら?」
とは聞けない。

「すごいわね」王帝に跨っていいものなのだろうか。「私、こんな体勢できるかしら。膝の角度おかしくない?」
 心配になる。腰の骨がこんなふうになるとは思えない。ミスズはうふふっと笑っただけだった。

「お2人がちゃんとできないと私と夫が手本を見せることになりますので、そんなの嫌ですからね」
 え、ミスズって既婚なの? しかも問いただしたら夫は執事長らしい。えっ、歳離れ過ぎじゃない? おじさんだよね。枯れ専?

 冗談だと思ったのに、ミスズが言ったことは本当だった。王帝が幼き場合、夜伽に関しては執事長が手本となることとが法律で決められていた。
 嫌だわ。見たくない。見られるのはもっと嫌。目を閉じている間に終わらないのかしら。

 悩み事はそれだけじゃない。婚儀の礼は覚えることもいっぱいだし、頭の冠が重たくて髪も引っ張られて痛かった。予行練習だけでも一ヶ月以上。身につける宝石の値段を想像したくない。

 夏だったら汗だくで死んでいる。秋になって涼しいし、好きな食べ物も増える。かぼちゃの収穫もやっと終了。
「収穫してから少し置くと甘くなりますよ」
 とトベールじいは言うけれど、すぐに食べたい。

 次はきっとさつまいもだろう。まだ秋ナスも実っている。婚儀の前だから私は畑への出入りを禁止させられてしょんぼり。私にとっての息抜きなのですよ。部屋で軟禁状態。

 爪までなんか塗られて重く感じる。
「髪がツルツルなのは嬉しいけど」
 オイルなのだろうか。草の匂いがする。それはサイレン様が作って売っているらしかった。森の木から抽出されているに違いない。よもや魔法の類なのかもしれない。

「くくくっ。お前は本当に、考えていることが顔に出るな。見ていて飽きない」
 アルゼット様が笑う。いつもそうしていたらいいのに、私以外の前ではすまし顔なのよね。
「明日は体を磨いてくれるそうです。楽しみ」
 遠方からわざわざ体の歪みを治す人が来てくれる。

 サラ様も一応は親族だから婚儀に来てくれるらしい。恨まれていなくてよかった。
「裸か? 見に来てよいか?」
 爽やかな顔でなに言ってるんだ、この人は。
「いいわけないでしょ」

 婚儀の衣装は肩が開いているからうぶ毛の処理とかまでしてくれるそうだ。自分じゃ見えない箇所まで丹念にきれいにしてもらわねば。でもそれって、アルゼット様のためにするみたいで恥ずかしい。

 マッサージのようなものだろうと楽しみにしていたのに、めちゃくちゃ痛かった。肉を揉むというよりつねる。
「脂肪があると痛いんですよ」
 と全身を揉まれ、産毛の処理は液体を塗ってそれをペロッと剥ぐ。ハチミツを使っているそうだがどちらも泣きそうなほど激痛で、ギブ。

「背中が赤くなってるぅ」
 婚儀まで、毎日このマッサージをするらしい。
「どれ、見せてみろ」
 アルゼット様が夜着の首元を引っ張る。
「嫌でございます」
「あまり勿体つけると期待をするぞ」
 それはそれで、なんか嫌。
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