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 洞窟のような施錠できない場所でも、動けないのだからこれは幽閉になるのだろうか。蚊がいないのはいい。眠ったら朝になる。しかし、獣に食われる恐れもあるかもしれない。

 うとうとしかけた頃、助けが来た。
「ルラル、どこだ?」
 アルゼット様の声だ。しかし、偽物かもしれない。洞窟から覗くと本人だった。
「アルゼット様―、ここです」

 暗いのに、馬を率いて来てくれた。たいまつの煙でむせた私に、
「水だ」
 と差し出してくれる。私はうまく呼吸できないだけなのに、
「飲め」
 と口移し。

「んんっ」
 手に力を込めてアルゼット様を押しのけてしまった。
「ここはする流れだろう?」
「私の国では婚儀が終わるまでだめです。それに私、プロポーズどころかきちんとあなたの気持ちも聞いていませんし」

 ソフィアさんがパンまで持ってきてくれていた。
「おいしい」
 甘くて酸っぱい知らないベリーのジャム。
「マルベリーですよ」
 初耳だ。
「まだまだ知らないものってあるのね」

「大丈夫か? 怪我は?」
 アルゼット様、そんなに足とかむやみに触らないで。
「してません。来てくれてありがとう」
「もう案ずるな」
 馬車に揺られて眠っていた。

 私を誘拐したのはやはりセイレン様で、しかし彼が森と湖の管理をしているそうなので歯向かうこともできない。だって、水は人を生かすし、作物を実らせる。管理というよりも司っているから厄介なのだ。一説によると雨まで降らせられるらしい。
「そんなの雲を呼んで膨らませたら降るだろう?」
 アルゼット様が不可思議なことを言う。
「もしや魔法使いがいる国ですか?」
「科学的なことだ」
 さっぱりわからない。しかしアルゼット様同様、セイレン様も代々その家業を継いでいるらしく更迭もできない。グラッド先生の親も政治を取りまとめていたが急に引退して先生が後釜に収まった。トッカ様の娘さんも同じ医学の道に進んでいるそう。

 アルゼット様は拘束していたセイレン様を解放した。彼は彼なりの考えがあって私を排除したかったのだ。もう私には手出しはしないと約束してくれたから許す。
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