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 さて、もらってばかりでなく、アルゼット様にお返しがしたいから私も自分が育てているかぼちゃの整枝に取りかかる。トベールじいの言っていることがちっとも理解できない。
「ですから、こうやってつるを整えないと実ができすぎるんじゃ」
「実がたくさんできたほうがいいじゃない」
「そうなると栄養が行きわたらん」
「栄養を与えたらいいじゃない?」

 トベールじいは液肥も作っている。
「この子づるとそっちの孫づるは全部カット。もしくは、全部のつるの10節以上を切り落といい実ができますぞ。どうされますか?」
 そんなの選べない。

 この国はそんなことばかりだ。水も垂れ流しで溜め池は少なく、灌漑農業も盛んではない。いろんなものが豊富だと後手後手になって当然。恵まれた気候のせいで危機感が少ないらしい。

 私も決断ができずに、明日、また明日。
 そうこうしていると、どんどんつるは伸びる。
「ルラル様、つるボケになりますぞ」
 とトベールじいが脅かす。つるなどが元気になりすぎても実の栄養を奪うらしい。

 わかっていても、
「決められないよう」
 と喚いてしまう。明日こそと思って、どれを切るか考える。実が多いほうがいいか、ひとつの実を太らすか。うーん悩ましい。部屋に戻ってもそんなことばかりを考えてしまう。

「俺はもう決めているというのに」アルゼット様に両手で顔をすっぽりと包まれた。「妃候補全員と一度時間を取ることになった。すまない」
 とまた私に頭を下げる。なんの謝罪だろう。
「私ばかりを贔屓しすぎです。当然のことかと」
 他の妃候補から不満が上がったのかもしれない。

「またハブリック国の公女は歌うのだろうな。前回の試験のときも聞いたが」
「ええ」
 ユウカ様は歌が得意。
「あの甲高い声は苦手だ」
「あんなにお上手なのに?」
「上手いとか下手というより耳障り」
 アルゼット様にも悪気はないのだろう。好みの問題だ。

 私はお勉強でも最下位にはならないものの、よくて2位。大概はシエ様が1位を取っている。
 ハナ様がいなくなって、妃候補は4人。あとはサラ様。

 今は気まぐれで私を変わり者だから好いてくれているだけ。他の姫たちのたちふるまいを見ていたらアルゼット様の気持ちも変わってしまうかもしれない。それも仕方のないことだ。
「あなたは、あなたの好きなように」
 そう言うしかないじゃない。

 一緒に眠るのは嫌じゃない。でもお勉強で破瓜なんて習ったら怖くてたまらない。この間は怖いよりも恥ずかしいが勝っていたな。
 かぼちゃも南瓜と書く。瓜が破れるって、どんなこっちゃ。

「私は4人が全員側室になればいいかと」
 なんてミスズは意地悪を言う。この国で生まれ育った彼女には、国が続くことが一番大事なのだろう。
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