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 私が持って来たかぼちゃの種がたったの数日で力強く芽吹いた。温かい風のせいか、元々ここで育ったからかしら。
 それを共に悩みたいのにリオールは私の傍らにもういない。

「今回は正妃選びだけであって、側室を設ける予定はありません」
 とグラッド先生にぴしゃりと言われてしまった。間口を広げたかっただけなのに。だって、残った候補の5人全員を妃にできる国もあるでしょう。

 仕方なく黙々と勉学に励む日々。

 リオールが帰ってしまったので私には代わりに城の侍女一人があてがわれた。
「ミスズと申します」
 私の首ひとつ分、小さな女の子。
「よろしく」
 こちらの女性って、みんな足が長い。ミスズはスリムだから余計にそう見える。首もやけに細長い。話し方も動作もパキパキしている。

「早速ですがルラル様、今宵よりアルゼット様が5人のうちの誰かの部屋へ参られます。わかっておりますか?」
「えー。あの人嫌いよ」
 意地悪王帝と夜通し話をするなんて拷問に近い。あっちだって私のことをよく思っていないだろう。話し合ってわかり合う夫婦もいるだろうが、そりが合わない2人も存在する。私たちは絶対に後者。剣を向けられたとき、あの冷たい視線にぞっとした。

「わかり次第、お風呂に入ってお仕度くださいませ。これはリオール様よりあなた様への置き土産です。本当は、こういうのだめなんですからね」
 語気を強められても、今日初めて会った人だからミスズが怒っているのかそういう話し方なのかもわからない。
「ありがとう」

 リオールからの荷を受け取る。風呂敷の中身は本のようだった。
 勉強はしたくないから、ひとまず置いといて、ミスズもいないことだし私は部屋を抜け出してこっそり畑へ。

 土をいじっていると落ち着く。
「そうか。あの若者は帰国なされたか」
 リオールはトベールじいにも帰ることを話す猶予すら与えられなかったようだ。歯向かえば私や国のマイナスとなると考えたのだろう。
「お世話になったのに、きっと悔やんでいるわ。真面目で礼節を重んじる人間だもん」
「お寂しいですね」
「でも残れてよかった。さっき部屋付きのミスズに聞いたら、他に残っているのはそりゃきれいな人ばかりらしいわ」
 リオールがいないから、私も鍬を振り下ろす。
「ルラル様も人となりは充分おきれいですよ」
「ありがとう、トベールじい」
 トベールじいは約束通り、かぼちゃの種をたくさんくれた。

『あと数日早ければあなたに持たせることができたのに。そっちでじいに習ったように植えてみて。私もこっちで育ててみる。どっちがたくさん実るか勝負よ』
 手紙を書くことは禁じられてはいない。でも検閲はあるようで、内容は読まれたけれど種はそのまま封してくれた。国のリオール宛に送る。ちゃんとトベールじいに教わった通り、そっちでも撒いて。
 体を小さくしてこの封書に入ってしまいたい。そんなの無理ね。ふうっと息を込めて封をした。
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