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それから私とむうちゃんはお風呂に入った。温泉は、じんわりと体に沁み入って来た。
「ユリカ、ちょっとおっぱいできてきた?」
むうちゃんが私の胸を覗き込む。
「やっぱり? それで痛いのかな」
「痛いの?」
「うん、ずっと」
「巨乳になりそうな血筋ではないけど、なるのかもね。急にぼんって」
とむうちゃんは笑った。
「なりたくないよ」
こんな脂肪の塊だけで惚れられても厄介だ。
「ふう、気持ちいい」
むうちゃんが素っ裸で広い風呂に浮かんだ。
「死体みたい」
「死体って自分じゃ動けないのよ」
そうなのか。
「たーくんて、刺されただけ?」
聞かれたくないだろうことを私は聞いた。
「そうよ」
「女の人の力でも死んじゃうの?」
「だって新品の包丁買ってきちゃうんだもん。安いのならわからないけど、2万2千円の刺身包丁だって。そりゃ切れ味いいわ」
むうちゃんの裸は、ほんのりママに似ているようだった。ということは私も似るのだろうか。
「新品の包丁を買うって計画性があるの? ないの?」
私は聞いた。
「どっちだろうね」
とむうちゃんも首を捻った。人とお風呂に入るのが苦手だった。体を見られるのが恥ずかしいのではなくて、他人の垢とか悪いものが無防備な体に侵入するような気がしていて。思い違いだ。湯治という言葉があるくらいだもん。治るんだ。たーくんがいないことは直せないけど、私とむうちゃんは少し自分の細胞を整えられた気がした。そういう温泉だった。よく見ると少し茶色い。幾度も体にかけて自分を労わった。
部屋にはテレビもトイレもついていた。
「冷蔵庫もあるじゃん」
むうちゃんは冷蔵庫を開けた。
「ビールとコーラか。私、炭酸苦手なんだ」
「古そうだし、値段がわからないな」
とむうちゃんは冷蔵庫を閉めた。
「明日、私歩いてコンビニ行って来るよ。飲み物と果物くらい買っておいたほうがいいでしょ?」
「タクシー呼ぶか、原沢さんに聞いてみようか?」
「犬の散歩の途中で、来たときにタクシーで通った広い道に出たから行けると思う」
「そう。じゃあもう寝よう」
「まだ8時だよ」
「だってすることないもん。電気の無駄」
とむうちゃんはベッドのほうに歩いて行ってしまった。寝転がるとベッドはさほど狭くはない。でもむうちゃんが隣に寝ているくらいに近かった。
「もう少し離せないものかね?」
「ベッドの間にはまっちゃいそう?」
「うん」
むうちゃんは夜に仕事をすることを嫌う。入り込みすぎて、後から読み返すと書き直すことが多いので、なるたけ明るいうちに描きたいそうだ。だから締め切り前以外は夜は常人と同じ生活をしている。
「ユリカ、ちょっとおっぱいできてきた?」
むうちゃんが私の胸を覗き込む。
「やっぱり? それで痛いのかな」
「痛いの?」
「うん、ずっと」
「巨乳になりそうな血筋ではないけど、なるのかもね。急にぼんって」
とむうちゃんは笑った。
「なりたくないよ」
こんな脂肪の塊だけで惚れられても厄介だ。
「ふう、気持ちいい」
むうちゃんが素っ裸で広い風呂に浮かんだ。
「死体みたい」
「死体って自分じゃ動けないのよ」
そうなのか。
「たーくんて、刺されただけ?」
聞かれたくないだろうことを私は聞いた。
「そうよ」
「女の人の力でも死んじゃうの?」
「だって新品の包丁買ってきちゃうんだもん。安いのならわからないけど、2万2千円の刺身包丁だって。そりゃ切れ味いいわ」
むうちゃんの裸は、ほんのりママに似ているようだった。ということは私も似るのだろうか。
「新品の包丁を買うって計画性があるの? ないの?」
私は聞いた。
「どっちだろうね」
とむうちゃんも首を捻った。人とお風呂に入るのが苦手だった。体を見られるのが恥ずかしいのではなくて、他人の垢とか悪いものが無防備な体に侵入するような気がしていて。思い違いだ。湯治という言葉があるくらいだもん。治るんだ。たーくんがいないことは直せないけど、私とむうちゃんは少し自分の細胞を整えられた気がした。そういう温泉だった。よく見ると少し茶色い。幾度も体にかけて自分を労わった。
部屋にはテレビもトイレもついていた。
「冷蔵庫もあるじゃん」
むうちゃんは冷蔵庫を開けた。
「ビールとコーラか。私、炭酸苦手なんだ」
「古そうだし、値段がわからないな」
とむうちゃんは冷蔵庫を閉めた。
「明日、私歩いてコンビニ行って来るよ。飲み物と果物くらい買っておいたほうがいいでしょ?」
「タクシー呼ぶか、原沢さんに聞いてみようか?」
「犬の散歩の途中で、来たときにタクシーで通った広い道に出たから行けると思う」
「そう。じゃあもう寝よう」
「まだ8時だよ」
「だってすることないもん。電気の無駄」
とむうちゃんはベッドのほうに歩いて行ってしまった。寝転がるとベッドはさほど狭くはない。でもむうちゃんが隣に寝ているくらいに近かった。
「もう少し離せないものかね?」
「ベッドの間にはまっちゃいそう?」
「うん」
むうちゃんは夜に仕事をすることを嫌う。入り込みすぎて、後から読み返すと書き直すことが多いので、なるたけ明るいうちに描きたいそうだ。だから締め切り前以外は夜は常人と同じ生活をしている。
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