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 私と父はただテレビを見て過ごす。外出しているとき以外はつけっぱなし。そうしていないと会話に困るのだ。
「学校どう?」
「普通」
 私は答えた。
「宿題は?」
「もうした」
「そうか」
「会社どう?」
 父の真似をして聞く。
「普通」
「会社の人と遊ばないの?」
「同期は転勤しちゃったし、部下と遊んでもね」
「そう」
 父はタブレットをいじりながら笑った。きっとくだらないものを見ているのだろう。

 父を批難はできない。私も無趣味だからさっきからチラシを何度も見返している。
「お昼どうしようか?」
「ピザでいいよ」
「作ってみようか?」
「えっ?」
 それは意外な提案だった。父はほとんど料理をしない。
「調べてみるね」
 父の眉間の皺がみるみる深くなる。
「発酵させたり、面倒なんでしょ?」
「うん。でも生地が売ってるみたい。それに好きなものをトッピングするのはどうかな?」
「うん、いいよ。それでも焼きたてだしね」
「チーズをたっぷり乗せて、エビも乗せよう」
「コーンも」
「芋もいいね」

 父と買い物に行くのは好きだ。不必要なものまで買ってくれる。ママとは正反対だ。
「あったあった」
 ピザの土台は冷凍ものだった。
「チーズはモッツァレラがいい」
「通だな。パパはサラミがいいな。あとピーマン」
「ピーマンはやだ」
「半分ずつ味変えてみる?」
「いいね」
 こんな楽しんでいていいのだろうか。むうちゃんは平気かな。そのためにママが一緒なのだから大丈夫だろう。あの二人も容姿は似ているけれど対極だ。ママは要領がいい。世間を知っている。むうちゃんは違う。お金はママよりも稼いでいるけれど、なんとなくあまちゃんのイメージだ。

 トマトソースを半分とカレーソースを半分にした。分担としては私がトマトで、父がカレー。父ったら、じゃがいもににんじん、たまねぎと本当のカレーを作っているようだ。
「ちょっと私のゾーンに入らないでよ」
「すまん。汁が多すぎた」
 15分焼いて、食べた。
「カレーだな」
 と父が言った。
「チーズがおいしいよ」
「トマトはシンプルで、そっちのがピザっぽいな」
「うん。カレーはパンぽい」
「おいしい」
「うん。楽しい」
 後片付けが二人とも嫌いなので、しかし皿を流しに置いておくだけではママの逆鱗に触れるから、仕方なく洗った。

「自分の部屋を片づける」
 と部屋に引きこもった。することもないのに。いつもならむうちゃんとたーくんの家に行って、この暇な時間を帳消しにしていた。もうないんだ。あの時間を取り戻す方法もまたない。これから毎週同じことを考えるのだろう。友達のように好きな男の子のことだけ考えている単純な脳みそになりたい。
 むうちゃんがまた誰かと恋をしたとしても、私はたーくんのようになつけないだろう。特にたーくんのことが好きだったわけじゃない。でもなんとなく、そんな気がする。だって物心ついたときから一緒にいてくれたんだもん。いなくなるなんて、想像もしていなかった。
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