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 早朝にオムライスのある店など限られていて、それなのにむうちゃんは、
「ファミレスはやだ」
 とあてもなく歩き続けた。

「むうちゃん、私このあと学校なんだけど」
「行くの?」
「行かなくていいの?」
 それならば、そのほうがいい。
「ママはなんて?」
「聞いてない」
「身内みたいな人が死んだんだからいいんじゃない?」
 私にとってたーくんはむうちゃんの恋人でしかないよ。
「そうかな」

 諦めて入ったファミレスで、
「この時間は朝メニューだけなんだす」
 と断られ、次の店もそうだったので、むうちゃんは凹んで、公園のベンチに座った。
「だめな日って何を望んでもだめなのよね」
 とむうちゃんが白い息を吐いた。
「コンビニで買ってこようか?」
「とろとろのがいい」
「わがまま」
「そうだね。こんな日なのに、よく晴れてるな」
 と空を睨む。
「雨ならいいの?」
 と言うとむうちゃんは少し笑った。
「ユリカは感受性が強いよね。ものの例えも話し方もたーくんにちょっと似てる」
「似てないよ」

 ランドセルの集団が前を通ってゆく。
「今はみんなカラフルなランドセル背負だ。あの子なんてチェックだ」
 むうちゃんは無理をしているようには見えなかった。怒ってるのかな。たーくんは浮気して、その相手に殺されちゃったんだもんな。死んじゃったら、こっちは文句も言えない。
「たーくんて、殺人事件なの?」
「そうだよ。殺されちゃったの」
 私は今更驚愕して、鳥肌が立った。
「こんな身近でそんなすごい事件が起こるなんてびっくり」
「そうだね。しかも画家だからニュースになったりするんだろうね。嫌だな。面倒だな。あの金持ちぶった画商から連絡が来るんだろうな」
 むうちゃんは、たーくんが死んだことよりもそちらのほうがげんなりという感じ。
「犯人は捕まってるの?」
 私は聞いた。
「うん。刺した後で自分から連絡したらしいよ」
「知ってる人?」
「どうかな。前に浮気した女の人はうちに怒鳴りこんできたから知ってるけど。ヘビみたいな面してた。あのヘビ女なのかな。名前知らないから確認していない」
「たーくんて悪い人だったんだね。知らなかった」
「浮気って、本人は悪いと思わないんだろうね。配偶者とか恋人が思うだけで」
「そうなんだ」
 一切合切が面倒というのがむうちゃんの横顔から伝わる。
「セックスってわかる?」
「うん」
「前のときは、その、たーくんのあれがね、他の人に入ったあとで私に入るのが嫌だったの。だから言い争いをしたけど、最近はそういうことしなかったら、正直、そんなに嫌じゃない。殺されたのはショックだよ。もう、いないんだもん。今は、なんていうか、たーくんと一緒にいられたことが贅沢に感じられてる。ごめん。朝からするような話じゃないね」
 自分が子どもであることを嫌だと感じるのはこういうときだ。慰めの言葉を発せない。言ったところでむうちゃんはきっと笑う。
「泣けばいいのに」
 と言ったら笑った。
「そうだね。帰ったら泣くかな」

 警察から電話があり、むうちゃんは呼び出されてしまった。私は間に合ったので学校に行った。親しい人がもう息をしていないのに、私は生きている。その差は大きいね。
 たーくんも悪いし、たーくんを殺した人も悪い。それなのに、悪くないむうちゃんが一番悲しんでいる。たーくんは悲しんでいるかな。私は、微妙です。だから図書館の先生に話してみたら、えらく困った顔をされて、こういうことは人に聞いたりしてはいけないことを学んだ。

 当事者は、死んだたーくんと逮捕された女の人であって、むうちゃんは被害者という立場だ。どうして殺したんだろう。たーくんがむうちゃんと別れないからかな。あの二人が別れないことを承知ではなかったのだろうか。そんなにたーくんのことが好きだったのかな。

 みぞおちのあたりが痛いよ。初潮を迎えて私の体が女になろうとしているのだろう。ボインは嫌だ。たーくんはもっと痛かったのかな。刺されたんだもんな。
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