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翼が欲しいと思ったりした日
翼が欲しいと思ったりした日 side A
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好きな人がいます。
その人のそばにいたいと思います。
でも、その人とは離れていなくちゃいけなくて。
その人にも俺にも、生活ってものがあって。
わがままを言っちゃいけないのは解ってるけど。
それでもどうしても会いたい日っていうのがあって。
そんな日は。
背中に翼が欲しいなんて、思ってしまったりします。
あの人のところへ……飛んでいけるから。
「はぁ……」
俺は好物のヤキソバパン(手に入れるのが至難の業のレアパンだ!)を口に運ぶ手をとめて溜息をついた。
「……なんだよ、気持ち悪いな。乙女みたいに男が溜息つくなよ」
直後、すかさず隣の椎名が手にした弁当箱からちらりと視線をこちらにやりながら、いつものように手厳しい突っ込みを入れてくる。
「別にいいじゃんよ。たまには俺だって溜息の一つくらいつきたいときもあるんだから」
俺は嫌そうにこちらをねめつける椎名の視線を正面から返しながら、反論を試みる。そうはいうものの心は上の空なので説得力のある反論は出来ていない気がする。いや、全然出来ていない。
「あのね……溜息ってのは可愛い子にのみ許された、限定の行為なの。その点からいうと、君はかなりの確立で容認できないんだから」
椎名は俺の言葉を聞くと、間髪をいれずに言葉を重ねた。
「そ、そりゃまぁ……自分が可愛いと思ったことはないけどさ……」
俺は再び溜息をつく。そう……だよなぁ。確かに自分は可愛くはない。いや、男で可愛いと言われるのは、そいつにとって誉め言葉なのかどうなのか俺は解らないが……。少なくとも俺は……ちょっとだけかわいいという人種に憧れていたりする。
「…………」
……椎名から帰ってきたのは、無言。
「……な、なんでそこで無言が返って来るんだよ……」
「なんでって……どうしたの、歩。悪いものでも食べたの?いつもの君の馬鹿みたいにあふれてる自信はどこに行っちゃったのさ?」
「馬鹿みたいって……」
「馬鹿じゃないか、実際。後輩達に囲まれて、犬みたいにヘラヘラ笑顔振り撒いてさ」
何気に「馬鹿みたい」から「馬鹿」って確定しやがったぞ、こいつ……。
「あのなぁ、智……」
「なんだよ」
椎名は面倒そうに箸を動かしながら、一応俺のほうへ視線をやる。
「なにか聞いて欲しいことがあるんでしょ、どうせ。早く言いなよ。今しか聞かないよ、俺」
なんだかんだといって、椎名はいつも俺の話を聞いてくれるいいやつなのだ。……まぁ、そのあとボロクソに批判されることが大半なんだけどさ。
「ん……ああ」
俺はちょっと考えると窓の外を見上げる。
「今日は……水曜日だよなぁ」
「日曜でないのは確かだね」
「土曜日までは……あと2日もあるんだよなぁ」
「ああ、いくら君でもそのくらいの計算は出来るんだな」
「……聴く気があるのか?お前」
俺は唇をへの字に曲げると、ちらりと椎名を睨む。
「聞いて欲しければ、要領と的を射た発言をして欲しいね」
ああもう可愛くねーやつだな、本当に!
「だからっ、俺が言いたいのはっ!早く土曜にならないかなって事っ!以上終わりっ!!」
俺が勢い良くそれだけをまくし立てると、椎名はいかにも煩そうに耳を押さえながら俺を見やる。
「……そのくらい言われなくても解ってるさ、君じゃあるまいし」
椎名はそういいながら弁当箱に蓋をすると、持っていたパックコーヒーのストローをくわえる。そうしてそうのままストローの先を軽くかんだ。椎名の癖だ。
「どうせ彼なんでしょ……。義直さんだっけ?君がはじめてビリアードで負けたって人」
あ……まただ。椎名は義直の話になると、とたんに不機嫌になる。
「え……ああ」
「……のろけ話しならこれ以上聞かないよ」
「のろけって……違うって!」
のろけ……か。そう見えてるのかな。
「違わないだろ。君は早く土曜になって、義直って人のところに行きたいとおもってるんだろ。違うの?」
「いや、違わない……けど」
突然核心を突かれて、俺は一瞬たじろぐ。なんだか面と向かって言われると急に恥ずかしさが込み
げてくるから不思議だ。
「ほら、やっぱりノロケじゃないか」
「う……」
そう……なのかな。やっぱり……これはノロケか?
「なぁ……智」
「……何?」
溜息とともに吐き出される智の声。
「お前、思ったこと無い?『翼が会ったらなぁ』って。翼があったら……どこへでも飛んでゆけるのに
…って」
「……無いね」
「本当に?一度も?」
「一度も」
もしも翼があったら……俺はいったいどこへ行こう?
どこへでもいける自由な翼があったら……。
義直のところに飛んでいこうかな。
突然義直の前に現れて、驚かしてやろう。
そうしたら……毎日土曜日を待って苦しくなったり、月曜日が来るのが憂鬱になったりしないで済む
に。
「……君には翼なんていらないだろう、歩」
「え?」
「君には足がある。いつだって……歩いていけるじゃないか」
「……そう……だな」
椎名は視線を合わせない。きっと照れてるんだ。
「そうしよう」
いつもの「馬鹿みたいに」明るい俺に戻る為に。
「サンキュ、智!」
「俺は別に礼を言われるようなことはしてないよ」
――空を見上げる。
真っ白な翼が空に舞った。
俺は天使じゃないけど……歩いていこう。
この両足で……。
その人のそばにいたいと思います。
でも、その人とは離れていなくちゃいけなくて。
その人にも俺にも、生活ってものがあって。
わがままを言っちゃいけないのは解ってるけど。
それでもどうしても会いたい日っていうのがあって。
そんな日は。
背中に翼が欲しいなんて、思ってしまったりします。
あの人のところへ……飛んでいけるから。
「はぁ……」
俺は好物のヤキソバパン(手に入れるのが至難の業のレアパンだ!)を口に運ぶ手をとめて溜息をついた。
「……なんだよ、気持ち悪いな。乙女みたいに男が溜息つくなよ」
直後、すかさず隣の椎名が手にした弁当箱からちらりと視線をこちらにやりながら、いつものように手厳しい突っ込みを入れてくる。
「別にいいじゃんよ。たまには俺だって溜息の一つくらいつきたいときもあるんだから」
俺は嫌そうにこちらをねめつける椎名の視線を正面から返しながら、反論を試みる。そうはいうものの心は上の空なので説得力のある反論は出来ていない気がする。いや、全然出来ていない。
「あのね……溜息ってのは可愛い子にのみ許された、限定の行為なの。その点からいうと、君はかなりの確立で容認できないんだから」
椎名は俺の言葉を聞くと、間髪をいれずに言葉を重ねた。
「そ、そりゃまぁ……自分が可愛いと思ったことはないけどさ……」
俺は再び溜息をつく。そう……だよなぁ。確かに自分は可愛くはない。いや、男で可愛いと言われるのは、そいつにとって誉め言葉なのかどうなのか俺は解らないが……。少なくとも俺は……ちょっとだけかわいいという人種に憧れていたりする。
「…………」
……椎名から帰ってきたのは、無言。
「……な、なんでそこで無言が返って来るんだよ……」
「なんでって……どうしたの、歩。悪いものでも食べたの?いつもの君の馬鹿みたいにあふれてる自信はどこに行っちゃったのさ?」
「馬鹿みたいって……」
「馬鹿じゃないか、実際。後輩達に囲まれて、犬みたいにヘラヘラ笑顔振り撒いてさ」
何気に「馬鹿みたい」から「馬鹿」って確定しやがったぞ、こいつ……。
「あのなぁ、智……」
「なんだよ」
椎名は面倒そうに箸を動かしながら、一応俺のほうへ視線をやる。
「なにか聞いて欲しいことがあるんでしょ、どうせ。早く言いなよ。今しか聞かないよ、俺」
なんだかんだといって、椎名はいつも俺の話を聞いてくれるいいやつなのだ。……まぁ、そのあとボロクソに批判されることが大半なんだけどさ。
「ん……ああ」
俺はちょっと考えると窓の外を見上げる。
「今日は……水曜日だよなぁ」
「日曜でないのは確かだね」
「土曜日までは……あと2日もあるんだよなぁ」
「ああ、いくら君でもそのくらいの計算は出来るんだな」
「……聴く気があるのか?お前」
俺は唇をへの字に曲げると、ちらりと椎名を睨む。
「聞いて欲しければ、要領と的を射た発言をして欲しいね」
ああもう可愛くねーやつだな、本当に!
「だからっ、俺が言いたいのはっ!早く土曜にならないかなって事っ!以上終わりっ!!」
俺が勢い良くそれだけをまくし立てると、椎名はいかにも煩そうに耳を押さえながら俺を見やる。
「……そのくらい言われなくても解ってるさ、君じゃあるまいし」
椎名はそういいながら弁当箱に蓋をすると、持っていたパックコーヒーのストローをくわえる。そうしてそうのままストローの先を軽くかんだ。椎名の癖だ。
「どうせ彼なんでしょ……。義直さんだっけ?君がはじめてビリアードで負けたって人」
あ……まただ。椎名は義直の話になると、とたんに不機嫌になる。
「え……ああ」
「……のろけ話しならこれ以上聞かないよ」
「のろけって……違うって!」
のろけ……か。そう見えてるのかな。
「違わないだろ。君は早く土曜になって、義直って人のところに行きたいとおもってるんだろ。違うの?」
「いや、違わない……けど」
突然核心を突かれて、俺は一瞬たじろぐ。なんだか面と向かって言われると急に恥ずかしさが込み
げてくるから不思議だ。
「ほら、やっぱりノロケじゃないか」
「う……」
そう……なのかな。やっぱり……これはノロケか?
「なぁ……智」
「……何?」
溜息とともに吐き出される智の声。
「お前、思ったこと無い?『翼が会ったらなぁ』って。翼があったら……どこへでも飛んでゆけるのに
…って」
「……無いね」
「本当に?一度も?」
「一度も」
もしも翼があったら……俺はいったいどこへ行こう?
どこへでもいける自由な翼があったら……。
義直のところに飛んでいこうかな。
突然義直の前に現れて、驚かしてやろう。
そうしたら……毎日土曜日を待って苦しくなったり、月曜日が来るのが憂鬱になったりしないで済む
に。
「……君には翼なんていらないだろう、歩」
「え?」
「君には足がある。いつだって……歩いていけるじゃないか」
「……そう……だな」
椎名は視線を合わせない。きっと照れてるんだ。
「そうしよう」
いつもの「馬鹿みたいに」明るい俺に戻る為に。
「サンキュ、智!」
「俺は別に礼を言われるようなことはしてないよ」
――空を見上げる。
真っ白な翼が空に舞った。
俺は天使じゃないけど……歩いていこう。
この両足で……。
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