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『Katze』の行く末③
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「休業……お休み、ですか……?」
ほなみさんは休業の提案を聞いて、「そんな事考えた事なかった」とでも言うかのような表情を浮かべながら俺の顔を見つめていた。
眉をひそめた事で、多少目つきの悪くなった目で見つめられる。鋭い眼光……とまではいかないが、ちょっとガラの悪くなったほなみさんもまた可愛らしいのだが――おいおい、そんなに可笑しな事を言ったか、俺は。
「そう、お休み。今のほなみさんは、肉体的にも精神的にも、とても疲弊してるようにみえるよ。そんな状態で良い判断なんてできないでしょ。ここは一度、休んでみるのも良いんじゃないかな」
「なるほど……」
ほなみさんは顎に指を当て、考えるような仕草をする。やはり店の関わる事なので、即断即決とはいかないだろう。
そんなほなみさんを見てか、横にいるサクラコがソワソワしだした。おい、どうした急に。また突飛な発言でもするつもりじゃないのか。
「サク――「ほなみちゃんっ!」」
言葉を被せられてしまった。もう少し早めに言うべきだったか。うぅむ、サクラコは何を言うつもりなのだろうか。
俺がまごまごしていると、サクラコは次の言葉をほなみさんの目をしっかりと見つめながら発した。
「お休みするなら、孝文の家に来るといいよ! クロエ達もいるし、お休みするのにピッタリだと思うよ!」
ほなみさんはサクラコの突飛な発言を聞き目を丸くしたものの、テーブルのグラスを見つめながら顎に手を添え、少し考えこむような動作を取る。
「……なるほど、それは良いかもしれないな」
俺はサクラコの発言を聞き、納得した。
今ほなみさんは、住居一体型の店舗に住んでいる。ここでもし休暇を取ったとしても、結局店にいるから店の事を自然と考えてしまう。それでは肉体的には回復しても、精神的な部分は回復せず、もっと疲弊しかねない。
そういった面から考えると休暇を取りつつ、店からも離れるのは良い選択と言えるだろう。
「……ぃます」
「えっ? ごめん、もう一回言ってもらえる?」
ほなみさんがぽつりと何かを呟いたが、声が小さすぎて上手く聞き取れなかった。視線をテーブルに向けてしまっているのも聞こえなかった原因の一つだろう。
俺が聞き返すと、ほなみさんはガバッと勢いよく顔を上げ俺に視線を合わせてきた。
「行きます! 行きたいです!」
目を爛々と輝かせ、店中に響き渡るような大きな声でほなみさんは言う。
キンキンと耳の奥を震わせるその声は、ワクワクが隠せないようなどこか嬉々としているように伺える。……耳痛いけど。咄嗟に耳を手で覆ってしまったじゃあないか。
俺の横にいるサクラコも、すごいしかめっ面を浮かべながら耳に手を当て「きいぃぃぃいいぃぃ……」と声にならない声を出していた。
「お、おぉ……声でっか……」
「……はっ! す、すみません!声、大きすぎました……」
俺とサクラコが耳に手を当てているのを見て、ようやく自分が大きな声を出したことを自覚したのだろう。ペコリと頭を下げ、肩をすくめて恥ずかしそうに顔を手で覆っていた。
「あはは……それじゃあ話を戻して――サクラコが勝手に言ったけど、それは俺も賛成なんだよ。休みを取って俺の家に来るのはどうだろうか。休みを取ってもこのお店に居続けるよりかはずっと精神的にも休まると思うんだけどさ」
「行きます行きたいですすぐに準備します」
おぉぉ今回は声量は普通だったものの矢継ぎ早に話したぞ。……うん? 今、「すぐに準備します」って言ったか……?
「えぇと……ほなみさん、確認だけど……すぐに準備します、って言った? すぐに休業するつもりなの……?」
「えぇ、そうですけど?」
うわっ、めっちゃ真顔じゃん。当たり前のこと言ってるだけですよ、とでも言ってるかのような表情こわっ。流石にほなみさんに惚れてる俺でも怖いわ。
そんでもって俺の横に座るサクラコぉっ! お前はお前でめっちゃニコニコじゃねぇかよほなみさんとの対比が凄いわ。さっきみたいに「きいぃぃぃいいぃぃ……」みたいな声にならない声出し続けてて欲しかったわ。
……なんというか、ほなみさんとサクラコは変なところで気が合うんだろうな。まぁ、微笑ましいからいいか。
俺は色々と聞きたいことはあったものの、当のほなみさんは休みをとって俺の家に行けるのを本当に嬉しがっているようなのでひとまず野暮なことは言わないことにした。
●あとがき
クロエ「孝文、言及するの諦めたわね」
烏骨ボス「諦めたであるな」
サクラコ「諦めたねぇ」
鷺ノ宮「……これ、私も言わなきゃな流れ?」
ほなみさんは休業の提案を聞いて、「そんな事考えた事なかった」とでも言うかのような表情を浮かべながら俺の顔を見つめていた。
眉をひそめた事で、多少目つきの悪くなった目で見つめられる。鋭い眼光……とまではいかないが、ちょっとガラの悪くなったほなみさんもまた可愛らしいのだが――おいおい、そんなに可笑しな事を言ったか、俺は。
「そう、お休み。今のほなみさんは、肉体的にも精神的にも、とても疲弊してるようにみえるよ。そんな状態で良い判断なんてできないでしょ。ここは一度、休んでみるのも良いんじゃないかな」
「なるほど……」
ほなみさんは顎に指を当て、考えるような仕草をする。やはり店の関わる事なので、即断即決とはいかないだろう。
そんなほなみさんを見てか、横にいるサクラコがソワソワしだした。おい、どうした急に。また突飛な発言でもするつもりじゃないのか。
「サク――「ほなみちゃんっ!」」
言葉を被せられてしまった。もう少し早めに言うべきだったか。うぅむ、サクラコは何を言うつもりなのだろうか。
俺がまごまごしていると、サクラコは次の言葉をほなみさんの目をしっかりと見つめながら発した。
「お休みするなら、孝文の家に来るといいよ! クロエ達もいるし、お休みするのにピッタリだと思うよ!」
ほなみさんはサクラコの突飛な発言を聞き目を丸くしたものの、テーブルのグラスを見つめながら顎に手を添え、少し考えこむような動作を取る。
「……なるほど、それは良いかもしれないな」
俺はサクラコの発言を聞き、納得した。
今ほなみさんは、住居一体型の店舗に住んでいる。ここでもし休暇を取ったとしても、結局店にいるから店の事を自然と考えてしまう。それでは肉体的には回復しても、精神的な部分は回復せず、もっと疲弊しかねない。
そういった面から考えると休暇を取りつつ、店からも離れるのは良い選択と言えるだろう。
「……ぃます」
「えっ? ごめん、もう一回言ってもらえる?」
ほなみさんがぽつりと何かを呟いたが、声が小さすぎて上手く聞き取れなかった。視線をテーブルに向けてしまっているのも聞こえなかった原因の一つだろう。
俺が聞き返すと、ほなみさんはガバッと勢いよく顔を上げ俺に視線を合わせてきた。
「行きます! 行きたいです!」
目を爛々と輝かせ、店中に響き渡るような大きな声でほなみさんは言う。
キンキンと耳の奥を震わせるその声は、ワクワクが隠せないようなどこか嬉々としているように伺える。……耳痛いけど。咄嗟に耳を手で覆ってしまったじゃあないか。
俺の横にいるサクラコも、すごいしかめっ面を浮かべながら耳に手を当て「きいぃぃぃいいぃぃ……」と声にならない声を出していた。
「お、おぉ……声でっか……」
「……はっ! す、すみません!声、大きすぎました……」
俺とサクラコが耳に手を当てているのを見て、ようやく自分が大きな声を出したことを自覚したのだろう。ペコリと頭を下げ、肩をすくめて恥ずかしそうに顔を手で覆っていた。
「あはは……それじゃあ話を戻して――サクラコが勝手に言ったけど、それは俺も賛成なんだよ。休みを取って俺の家に来るのはどうだろうか。休みを取ってもこのお店に居続けるよりかはずっと精神的にも休まると思うんだけどさ」
「行きます行きたいですすぐに準備します」
おぉぉ今回は声量は普通だったものの矢継ぎ早に話したぞ。……うん? 今、「すぐに準備します」って言ったか……?
「えぇと……ほなみさん、確認だけど……すぐに準備します、って言った? すぐに休業するつもりなの……?」
「えぇ、そうですけど?」
うわっ、めっちゃ真顔じゃん。当たり前のこと言ってるだけですよ、とでも言ってるかのような表情こわっ。流石にほなみさんに惚れてる俺でも怖いわ。
そんでもって俺の横に座るサクラコぉっ! お前はお前でめっちゃニコニコじゃねぇかよほなみさんとの対比が凄いわ。さっきみたいに「きいぃぃぃいいぃぃ……」みたいな声にならない声出し続けてて欲しかったわ。
……なんというか、ほなみさんとサクラコは変なところで気が合うんだろうな。まぁ、微笑ましいからいいか。
俺は色々と聞きたいことはあったものの、当のほなみさんは休みをとって俺の家に行けるのを本当に嬉しがっているようなのでひとまず野暮なことは言わないことにした。
●あとがき
クロエ「孝文、言及するの諦めたわね」
烏骨ボス「諦めたであるな」
サクラコ「諦めたねぇ」
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