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家族御迎編 第四話

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 庭の畑に、5羽の鶏がいた。なぜここにいるのかも分からないし、どこから来たのかも分からない。庭は柵で囲っていたはずだが……あ、鶏の体高よりも広い隙間が開いてるからそりゃ入れるか。今後背の低い生き物が入らないようにネットでもして塞いでおこう。ありがとう鶏、君達のお陰で柵の不備が判明したよ。

「なぁサクラコ。なんで畑に鶏がいるんだ?」
「分からないけど、可愛いね!」

 サクラコは鶏に興味津々だ。しゃがんで目線を合わせて、対話を試みようとしている。

「鶏さーん、どうしてここにいるのー?」

 もちろん鶏からは返答が無い。それでもサクラコはめげずに、手を振ってみたり何かしらの方法でアクションをしていた。
 俺はサクラコが構っている間にこいつらがどこから来たのかを探るか。ひとまず辺りを見てみる。すると、柵に白い羽毛がついていた。こいつらはここから入ってきたんだろうな。よく見ると家の前の道路を挟んだ先にある山の入口にも羽毛を見つけた。こいつら、森から来やがったのか。
 森に少し踏み入れてみると、そこら中に羽毛が落ちていた。あの鶏達、多分だがここに住み着いてるな。うぅむ、厄介だな。鶏の卵を狙って蛇が出てきそうだし、その蛇が我が家に来られても困る。爬虫類はあまり得意じゃないんだよ。

「はぁ……ひとまず戻るか……」

 俺が溜息をつきながら庭に戻ると鶏達はまだいて、サクラコは地面に寝転がりながら鶏を捕まえていた。そして、いつの間に来たのか横で猫村さんが見ていた。

「サクラコ、お前何やってるんだよ……猫村さんも来てたなら止めてくださいって……」
「はっはっは、ちょっと面白そうだったから何も言わないでいたよ」
「孝文!ふわふわだよ!」

 豪快に笑う猫村さんと、鶏をモフってるサクラコ。いやいや、何しとんねん。

「……猫村さん、この鶏達はよく山を下りてくるんですか?」
「おや、よく知っていたね。この烏骨鶏達はそこの山に住み着いてるんだけど、たまに下りてくるんだよ」
「烏骨鶏?」

 烏骨鶏って、結構高い卵を産むやつだったよな。1個500円とか。中国だかどこかでは昔、烏骨鶏の卵は不老不死の食材と言われていた、って話を聞いたことがある。……でも、なぜそんな烏骨鶏がここに?

「なんで烏骨鶏がここにいるんですか?」
「いやぁ、それが私も分からなくてね。数年前からあの山に住み着いたらしくて、たまに下りてきては今日みたいに地面ついばんで帰っていくんだよ。別段被害は出てないんだけど今後何が起きるか分からないから厄介なんだよね」

 やはり猫村さんも厄介に思っていたか。そもそも、野生の烏骨鶏なんているのか?

「この烏骨鶏って、完全に野生って事でいいんですよね」
「うん?あぁ、そうだと思うよ」
「本当に野生の烏骨鶏なんているのか……?この辺は、野生の鶏が多いんですか?」
「いや、こいつら以外に見たこと無いが……」

 この地域で野生の鶏はこいつらくらいとなると、元々この地域には鶏なんて居なかったんだろうな。であれば、どこからか逃げ出してきてここに住み着いたんだろう。

「多分ですけど、こいつら別の場所で飼われてたやつが逃げ出してきたんじゃないですかね。識別表みたいなのが付いていないのは違和感ありますけど、人が近づいても逃げる様子も無いので、ここまで慣れてるとなると元々飼われていた、って思うのが自然なんじゃないですかね」
「ふむ、確かにそうだね」

 まぁこいつらがこの山に住み着いて何年も経ってるらしいから元の飼い主はもう探す気なんて無いんだろうな。

「ねぇ孝文」
「なんだ?」

 今まで烏骨鶏達と戯れていたサクラコが口を開く。

「この子達も飼おうよ!」
「……マジで?」

 出たよサクラコの突飛な言動。もう少し落ち着いて欲しい限りだ。

「マジもマジだよ!可愛いからいいでしょ?」
「……クロエの時みたいにまたビビッと来た感じか?」
「そう!」

 サクラコ、君は将来アイドルのプロデューサーを目指すといいよ。
 とはいえ、どうしたものか。飼う事自体は別に構わないんだけど……庭に侵入してきたように、我が家の庭は小さい生き物に対しての防御力が皆無だ。早急にネット等で塞ぐなどの対応をしなければいけない。

「飼うのはいいんだけどなぁ、このまま買ってもこいつら脱走するぞ?」
「えーじゃあどうするのー?」

 どうするって言われてもなぁ...

「ふむ、では私が昔犬を飼っていた時に使っていたゲージを差し上げよう」
「え、いいんですか?」

 犬用のゲージ……確かに丁度いいサイズだろう。

「勿論だとも。こいつらが山から降りてきて稲をついばむ心配が無くなるなら、こちらとしてはゲージくらいならば喜んで差し上げよう」
「では、ありがたく頂戴しますね」
「やったー!」

 サクラコは嬉しいのか烏骨鶏をモフったままピョンピョンと飛び跳ねている。

「それじゃあ、ゲージを取ってくるから少し待っててね」

 猫村さんはゲージを取りに家へ歩いていく。
 あぁ、まさかクロエが家に来てからわずか一週間で次の動物を迎え入れる事になるとはな……って、クロエは?
 俺は今まで静かだった事で忘れていたクロエを探すために庭をキョロキョロと見渡す。

「おー、いたいた……って、どうしたクロエ?そんな庭の端で固まって」

 クロエは庭の端でこちらを見ながら固まっていた。

「クロエどうしたの?」
「さぁなぁ……なんかこっち見たまま固まってるな」

 俺とサクラコはクロエを不思議そうに眺めながら「おいでー」とか言いながら構ってみるが、一向に動こうとしない。

「クロエ~!」
「あ、おいちょっと待て」

 痺れを切らしたサクラコはクロエに近づこうとする。
 すると、クロエはサクラコが接近してくる事を理解したのかすぐさま駆けて逃げてしまった。

「あれー、クロエどうしたの?」
「……あー、なるほどね」

 やっとクロエが俺達から距離を取っている理由が分かったよ。いや、俺達からでは無いか。
 どうやらクロエは烏骨鶏達から距離を取っているんだろう。まぁそれもそうか。今まで見たことが無いような未知の生物が今まで俺やサクラコくらいしかいなかった庭に入ってきたんだ。そりゃ当然か。
 そしてクロエに近づいたサクラコだが、今だに手に烏骨鶏を抱えていたのでその烏骨鶏から逃げ出したというわけだ。

「サクラコー。烏骨鶏離してからクロエに近づけー」
「うん、わかったー」

 サクラコは烏骨鶏を離してみる。烏骨鶏はすぐに俺側にいた群れと合流するためにバサバサと羽を広げながら駆けてきた。そしてサクラコはクロエに近づくと、逃げることなく穏やかに頭を撫でさせていた。

「クロエ、人見知り激しいのかぁ……いや、人じゃないんだけどな……」

 俺はこれからクロエと烏骨鶏達が共存するにはどうするべきかを考えていると、猫村さんがゲージを持ってきていた。

「お待たせ、喜多くん」
「あぁ、わざわざありがとうございます。ひとまずはこれでどうにかなりそうです」

 その後、俺とサクラコと猫村さんは烏骨鶏達をゲージに入れるために庭中を駆け回った。いやね、あいつら捕まえようとすると途端に逃げ回るのよ。なぜかサクラコはあっさりと捕まえることが出来て納得がいかなかった。

「あぁもう……鶏の飼い方なんて、ましてや烏骨鶏の飼い方なんて知らんのに……これから苦労しそうだ」
「孝文、がんばろうね!」

 溜息を付きながら言う俺とは正反対に、サクラコは張り切っていた。
 ……まぁ、元は動物を飼うために色々と手を付けていた庭だ。何とかなるだろ。
 俺は楽観的に考えるように思考を切り替え、段々と賑やかになっていく庭を眺めるのだった。
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