上 下
53 / 65
第二部。

大預言者。

しおりを挟む
「よろしくお願い致します」

 差し伸べてくれた手をとって、そう改めて挨拶をする。
 他国の、それも皇帝の息女相手に不敬でしょうか? そんなふうにも思うものの、差し伸べられた手を取らずではそちらの方がダメでしょう。そう考えふわっと手を取り握手をして。

 皇女の笑顔が可愛らしく、その磁器のような透き通る滑らかなお肌がほんの少しだけ赤く染まる。
 周囲にたくさん集まってるギアたちも、彼女に好意を持っているのがよくわかる。
 自分と比較するわけではないけれど、ギアに好かれるということはそれだけきっとマギアスキルも高いのだなぁとそう感じる。
 この方はもしかしたら帝国の聖女様なのだろうか?
 この国、アルメルセデスでは聖女と言ったら王室の息女や上級貴族のどなたかが務めるのが常となっていますから、きっと帝国でもそうなのではないでしょうか?
 そんなふうにも思って。

「サラ殿下は、聖女様なのでしょうか?」

 思わずそんな言葉が口に出ていた。

「ふふふ。わたくしは聖女の職にはついてはいませんわ。きっと聖女になることはないでしょうね」
 と、そんなふうに答える皇女。
 その言葉に。
 もしかしたらもうご結婚が決まっていらっしゃるのかしら?
 と、その後の言葉が出てこなくなってしまったセルフィーナ。

「あら、結婚が決まっているわけではないのですよ? 聖女は別の方が務めておりますし、わたくしには大預言者という務めがございますから」

(え? わたくし、口に出していませんのに?)

「ふふ。ごめんなさいね。わたくし、心の色が見えますの。貴女の表層意識がどんな色なのかと、その意味合いがうっすらと。気味が悪く感じられたらほんとごめんなさい」

 そうあっさりと答えるサラ。

 それは驚愕の内容に思えた。
 そんな、他人の心がわかるだなんて。
 ということは彼女の前では誰も嘘などつくことができないということで。
 それも、市井にある一般人の立場ではない、皇帝陛下の御息女、皇女殿下がそのような能力を保持しているだなんていうことは。

 それだけで彼女の命が危険に晒される可能性だってあるのではないかしら?
 嘘をつきたい人はきっといるもの。
 そういう人に命を狙われでもしたら大変。
 ふつうだったらそんな秘密、初対面の者になど晒さないだろうに。
 ああどうしましょう、と。
 心の中でぐるぐると悩んでしまって。

「貴女は本当、素直なのね。でも、わたくしを怖がったり気味悪く思ったりしていないってことはわかるわ。だから、ありがとう」

 サラ皇女はこくんとうなづいて。

「やっぱり、この国にきた甲斐がありましたわ。わたくしきっと、貴女に会う為にここに来たのですよ」

 そう言って。
 もう一度ふわりと笑みをこぼした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

お飾り王妃です。この度、陛下から離婚を申されたので

ラフレシア
恋愛
 陛下から離婚を申されたので。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【完結】あなたがそうおっしゃったのに。

友坂 悠
恋愛
どうして今更溺愛してくるんですか!? メイドのエーリカは笑顔が魅力的な天真爛漫な少女だった。ある日奉公先の伯爵家で勧められた縁談、フォンブラウン侯爵家の嫡男ジークハルトとの婚姻を迫られる。 しかし、 「これは契約婚だ。私が君を愛することはない」 そう云い放つジークハルト。 断れば仕事もクビになり路頭に迷う。 実家に払われた支度金も返さなければならなくなる。 泣く泣く頷いて婚姻を結んだものの、元々不本意であったのにこんな事を言われるなんて。 このままじゃダメ。 なんとかして契約婚を解消したいと画策するエーリカ。 しかしなかなかうまくいかず、 それよりも、最近ジークハルトさまの態度も変わってきて? え? 君を愛することはないだなんて仰ったのに、なんでわたくし溺愛されちゃってるんですか?

愛されないなら王妃などやめさせていただきます!お飾り王妃も愛されたいのです!

ラフレシア
恋愛
 お飾り王妃も愛されたいのです!

愛してほしかった

こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。  心はすり減り、期待を持つことを止めた。  ──なのに、今更どういうおつもりですか? ※設定ふんわり ※何でも大丈夫な方向け ※合わない方は即ブラウザバックしてください ※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...