16 / 65
夢の話。
しおりを挟む
次に気がついた時はもううっすらと日が差し込んでいた。
まだ早い時刻なのはわかるけれど。
旦那様は横になってシルフィーナを覗き込むようにこちらを向いた姿のまま、目を瞑っていらっしゃる。
ちゃんと眠ってくださったのかしら?
わたくしが迷惑をおかけしたから寝不足なのではないかしら?
そんな心配をしながら彼のその美麗なお顔を眺めて。
髪の色と同じ夜の色をしたまつげが、ふっと揺れた気がした。
長くふさふさとしたそのまつげに、少しの間見惚れてしまったシルフィーナ。
男性の方なのに。
なんて美しいのかしら。
しばらくこのまま見つめていたい。
そんなふうに思って、ううん、ダメダメ、と、頭をふる。
わたくしはお飾りの妻なのだから。
愛されることはないのだから。
ついつい忘れてしまいそうになるそれを、思い出して。
う、む、
そう声が漏れた。旦那様の吐息をお側で感じて。
それでも今だけは。
こうして幸せな気分に浸ろう。
そう思い返す。
「ああ、おはよう」
旦那様の目がうっすらと開いて。
「おはようございます旦那様」
シルフィーナも今日は笑顔でそう答えることができた。
身体を起こし、シルフィーナの顔を覗き込む旦那様。
(ああ、近いです旦那様……)
「ねえ、ちゃんと眠れたかい? 君があんまりうなされているものだから、心配したよ」
(え? うなされて?)
そういえば、と、思い返す。
ずっと見ていた夢。
漆黒の闇の夢を。
「漆黒の夢を……、見てしまったので……」
素直にそう言葉に出ていた。
「ああ、もしかしてこの間の?」
心配そうにそうシルフィーナの瞳を覗き込む彼。
「この間の聖女宮も夢に見たのですが……、どこだかわからない場所もあって、多分、怖かったんだと思います」
沈んだ声でそういうシルフィーナ。
怖い、という感情が適切なのかどうか。それはちょっとわからなかったけれど。
旦那様にわかってもらうためにはそう言語化したほうがいい。
そう思って。
「そうか」
そういうとサイラスは、その大きな手でシルフィーナの頭を撫でた。
(はう! 旦那様!)
優しいその手でくしゃくしゃっと撫でられて。
もちろん不快では無かったけれど。
むしろ嬉しくて泣きたくなるほどではあったけれど。
「ごめんなさい旦那様。わたくし……」
その手から逃れるように、シルフィーナは身体をずらす。
(ダメ、です、こんなの勘違いしちゃうから……)
「ああ、すまない。君は小さな子供じゃないんだものな……」
手を止め、遠い目をしてそうおっしゃる旦那様。
そのお顔はなんだかとても悲しそうに見えて。
撫でられるのを拒否したのがなぜかとても悪いことのような気分になったシルフィーナ。
「ごめんなさい、そういう意味じゃないのです……」
と、それだけいうのが精一杯だった。
気まずい沈黙が流れ、それでもシルフィーナをじっと見つめてくださる旦那様のお顔を見ていたら。
(ああ、何か、言わないと)
と、そんな気持ちに駆られたシルフィーナ。
「ああそういえば、先日の漆黒はどなたかが描いた魔法陣のせいで現れたのですよね?」
と、そう口に出していた。
まだ早い時刻なのはわかるけれど。
旦那様は横になってシルフィーナを覗き込むようにこちらを向いた姿のまま、目を瞑っていらっしゃる。
ちゃんと眠ってくださったのかしら?
わたくしが迷惑をおかけしたから寝不足なのではないかしら?
そんな心配をしながら彼のその美麗なお顔を眺めて。
髪の色と同じ夜の色をしたまつげが、ふっと揺れた気がした。
長くふさふさとしたそのまつげに、少しの間見惚れてしまったシルフィーナ。
男性の方なのに。
なんて美しいのかしら。
しばらくこのまま見つめていたい。
そんなふうに思って、ううん、ダメダメ、と、頭をふる。
わたくしはお飾りの妻なのだから。
愛されることはないのだから。
ついつい忘れてしまいそうになるそれを、思い出して。
う、む、
そう声が漏れた。旦那様の吐息をお側で感じて。
それでも今だけは。
こうして幸せな気分に浸ろう。
そう思い返す。
「ああ、おはよう」
旦那様の目がうっすらと開いて。
「おはようございます旦那様」
シルフィーナも今日は笑顔でそう答えることができた。
身体を起こし、シルフィーナの顔を覗き込む旦那様。
(ああ、近いです旦那様……)
「ねえ、ちゃんと眠れたかい? 君があんまりうなされているものだから、心配したよ」
(え? うなされて?)
そういえば、と、思い返す。
ずっと見ていた夢。
漆黒の闇の夢を。
「漆黒の夢を……、見てしまったので……」
素直にそう言葉に出ていた。
「ああ、もしかしてこの間の?」
心配そうにそうシルフィーナの瞳を覗き込む彼。
「この間の聖女宮も夢に見たのですが……、どこだかわからない場所もあって、多分、怖かったんだと思います」
沈んだ声でそういうシルフィーナ。
怖い、という感情が適切なのかどうか。それはちょっとわからなかったけれど。
旦那様にわかってもらうためにはそう言語化したほうがいい。
そう思って。
「そうか」
そういうとサイラスは、その大きな手でシルフィーナの頭を撫でた。
(はう! 旦那様!)
優しいその手でくしゃくしゃっと撫でられて。
もちろん不快では無かったけれど。
むしろ嬉しくて泣きたくなるほどではあったけれど。
「ごめんなさい旦那様。わたくし……」
その手から逃れるように、シルフィーナは身体をずらす。
(ダメ、です、こんなの勘違いしちゃうから……)
「ああ、すまない。君は小さな子供じゃないんだものな……」
手を止め、遠い目をしてそうおっしゃる旦那様。
そのお顔はなんだかとても悲しそうに見えて。
撫でられるのを拒否したのがなぜかとても悪いことのような気分になったシルフィーナ。
「ごめんなさい、そういう意味じゃないのです……」
と、それだけいうのが精一杯だった。
気まずい沈黙が流れ、それでもシルフィーナをじっと見つめてくださる旦那様のお顔を見ていたら。
(ああ、何か、言わないと)
と、そんな気持ちに駆られたシルフィーナ。
「ああそういえば、先日の漆黒はどなたかが描いた魔法陣のせいで現れたのですよね?」
と、そう口に出していた。
1
お気に入りに追加
1,564
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!
凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。
紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】
婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。
王命で結婚した相手には、愛する人がいた。
お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。
──私は選ばれない。
って思っていたら。
「改めてきみに求婚するよ」
そう言ってきたのは騎士団長。
きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ?
でもしばらくは白い結婚?
……分かりました、白い結婚、上等です!
【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!
ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】
※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。
※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。
※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。
よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。
※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。
※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる