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0-8 ファフナ。
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気がついた時。
わたくしがいたのは聖女庁の自室ではなく、郊外にあるコレット家の屋敷のお部屋のベッドの上でした。
一瞬わけがわからなくてお布団をはねあげ廊下に出ると、ばあやのアンネットが心配そうな顔をしてこちらを見ていました。
「ああ、アンネット、わたくし……」
どうやって帰ってきたのかも記憶がありません。どなたかが連れてきてくださったのかしら?
そう思って事情を尋ねようと思ったのですが……。
「お嬢様、おかえりになるなり夕飯もお召し上がりにならないままお部屋に篭ってしまわれて。ばあやは心配で心配で生きた心地がいたしませんでした。遅くなってしまいましたがお食事の用意はできておりますよ。どういたします? まだご気分がすぐれないのならお部屋にお運びしましょうか?」
はう?
「わたくし、一人で帰ってきたのでしょうか……?」
「ええ、ご連絡もなく急にお帰りで。様子がいつもと違っておりましたから、何か悪いものでもお召し上がりになったんではないかと心配しておりました」
安心したのか、それではお部屋にお食事をお持ちいたしますねと戻っていくばあやの後ろ姿を眺めながら。
わたくしは混乱した頭の中を整理して。
確か、白銀の聖女様と同化? して。
神の魔法の権能を解放して。
それから、えっと……。
あ、そうそう、聖女様がお帰りになったんだったっけ、それから後の記憶がないんだわ。
一体どういうことなんでしょう。その後、わたくし、夢遊病の患者のようにふらふらとここまで帰ってきたのかしら?
ベッドの所にまで戻って、ボスんと腰掛ける。
って、ちゃんと部屋着というか寝巻きに着替えてるし?
「にゃぁ」
ベッドに座ったらそうかわいい声で近づいてきてくれた愛猫、ファフナ。
真っ白なその長毛をもふもふと撫でて。
気持ちよさそうな顔で甘えてくれる彼女に。
「今日はなんだかほんと大変だったのよ。ファフナ」
と、そう声をかけた。
もふもふ撫でながら顔とか喉元とかを移動するそのわたくしの手に、頭をこしこし擦り付けるファフナ。
「にゃぁ。あたしったら貴女のその手が好きになっちゃった。もうしばらくこの子の体を借りて、こっちにいようかな」
へ?
「にゃぁ。はう、手が止まってる。もっとそこ、撫でて」
そう撫でを催促するファフナ、って、ファフナ!!?
「えー!! どういうことですか!? 聖女様、ですよね!?」
「にゃぁ。そうだよ。あ、あたしの半分はちゃんと元の世界に戻ったから安心して。でもって半分は貴女の中に残ったの」
はう、もしかして……。
「まあね、あのまま帰ったら貴女の魂、マナの嵐でプチンと潰れちゃったかも知れなかったから。扉を閉める係で半分残ったの。そんでもってここまでちゃんと貴女の体を運んできてあげたんだから感謝してよね」
「ああ、ああ、ありがとうございます聖女様」
あ、でも。そうしたら……、残ったこの子はもう帰る事ができないのでは?
「大丈夫。半分帰れたら、後はなんとかすれば向こうに行く手段も作れるから。分離しても、ちゃんと魂の奥底でつながってるのよ。それよりも、ほらまた手が止まってる。もっと撫でて。あたし、貴女の手、好きよ」
真っ白で。
キラキラ銀色にも見えるそんな毛並みの美しいファフナ。
オッドアイのその瞳がこちらをじっと見つめています。
ああもう。
だめです。ファフナのもふもふには勝てません。
「じゃぁこれからいっぱいもふもふしましょうね」
そう言って思いっきり彼女をもふったわたくし。
きっと今、思いっきりの笑顔になっていると思います。
こういうのも良いかもしれません。
ほんと、しあわせです。
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