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穏やかな日。

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 ♢♢♢

 その日はとても穏やかに晴れ渡った気持ちの良い一日だった。
 もう冬だというのに日差しが暖かく、風も冷たさが和らいでいる。
 例年だったら雪が降り始め領民も屋内の手仕事くらいしか出来なくなるほどであったけれど、去年から続く陽気は作物の豊作をもたらし国内全体を見渡してみてもかなりの食料備蓄が見込める程で。
 このまま今年は暖冬になるだろうというのが王宮技術院の見解だった。


「良いお天気ね。今日はいい日になりそうだわ」

「貴女はお気楽でいいですね」

「あらあら嫌味? でも許してあげるわ。わたくし今日はとっても気分が良いのですもの」

「そう、ですか……」

 女の気持ちはわからない。そう頭を振るジュリウス。
 あと数時間後には領館の会議室での会食がはじまる。
 メニューも何もかもジュリウスにはなんの相談もなく、ベローニカとジェファーソンで決めていた。
 まあ、自分にはそういう事はわからないしな。
 そう自嘲しながらも、今までの人生もすべて、もしかしてわからない事だらけだったのだろうかと思い返す。
 自分の視野が狭かったのか、と。

「俺は、ダメですね……。ほんとにダメだ……」
 そう吐き出していた。
 弱音を吐くつもりではなかったけれど、ついついそんな言葉が口から出てしまっていたのだった。

「そうねえ。ほんとにダメな子だわ。あなたは嫌がるかもしれないけど、わたくしはあなたのことは本当の子ども、ううん、弟みたいに思ってきたのよ。だから判断も甘めだけど、それでもあなたは男としては最低だったし、ダメダメだったわ。マリエルちゃんはかわいそうでしょうがなかった。だから、あなたが改心しないのなら、「わかれよう」って言ったあなたにはもうそれ以上何も言うつもりも無かったのですけど、ね」

「ベローニカ……」

「ちょっとだけおせっかいをやいてみたの。まあどうなるのかわからないですけどね」

 意味深な話し方のベローニカから目が離せないまま、ジュリウスは立ちつくす。

 そのままゆったりと時間が過ぎて、そろそろ正午という頃合になった頃。

「奥様、若旦那さま。お時間でございます」

 ジェファーソンがそう声をかける。

 会議室に向かう二人。

 そこには。


 家臣ら数名に混ざって、マリエルの姿があった。
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