11 / 43
尾行。
しおりを挟む
マリーゴールド商会の事務所は人通りの多い大通りから道を一本中に入ったところにある。
表側にはおしゃれな商店が立ち並んでいるけれどその中でも一番のお店はグラン商会の本店、グランマガザンという5階建ての大きい建物だ。
その辺のお店なんか比べ物にならないくらい広い間口。ゆうに通常店舗五軒分くらいはあるだろうか。一番街の中奥ど真ん中を占有するかのようにそびえたつその姿は、かなり離れた場所からもよくみえた。
そんな大きな建物のそのちょうど裏っ側。少しばっかり薄暗い通りに建っている二階建ての建物が、わたくしの商会、マリーゴールド商会の本部事務所。
事務所に向かうため裏通りに入って少しして、何者かがあとをつけてきていたことに気がついた。
後ろは振り向かない。
悪意のある人だったらわたくしが気がついたと悟って強硬手段に出ようとするかもしれない。
逆に、逃げられてしまうかもしれないし。
どうしよう、このまま事務所に入ってしまうわけにもいかないよね。
そんなふうに躊躇して立ち止まる。
事務所の入り口はもう目と鼻の先だけれど、あとをつけてくる人の目的がわからないことには対処しづらい。
と、思案していると背後の足跡は止まるどころか近づいてくる。
つけられていたのが気のせい、とも思えない。
これでもわたくしの基本魔力は高い方だ。背後の人物がわたくしの背中に注目していたことくらい、気配でわかる。
(失敗したなぁ。大通りで気がついていたら何処かのお店に入って確認したのに)
そう反省しつつ、ブーツの紐を直すそぶりをしてみる。
このまま素通りしてくれれば……。
そんなあわい期待を裏切るように、背後の人物が立ち止まりわたくしの背中に手を伸ばすのがわかった。
肩が掴まれそうになったところで逆にその手を掴み、身体ごと回して捻り上げ背にまわる。
いててと洩らすそのフード姿の人物の背後を取って。
「何か御用ですか?」
そう、凄んでみせた。
「ちょっと、待ってくれ、私は何も……」
「わたしのあとをついてきていましたよね? それに、今は背後から手を伸ばしていましたし」
「それは……、そうだ、急に立ち止まってしゃがんだのが見えたから、何か具合でも悪いのかもと……」
背中に回って取り押さえているから顔は見えない。
若い貴族? だと思うけど。
っていうか、髪が青い?
フードが乱れ脱げ、その青い髪が顕になった。
え?
うそ?
声は、ジュリウス様にちょっと似ている。
でもジュリウス様はこんな情けない声は出さない、(っていうか聞いたことがない)から、本当に似ているのかよくわからないけどなんとなく似ている感じ?
お店に来ていた時にはもっとモゴモゴしゃべっていたから、よくわからなかったけど……。
抑えていた腕を離して、彼の顔をよく見えるように覗き込む。
「しかしいきなりこんな。ああでも背後から手を伸ばされたら不審がられても仕方がないかもしれないが……」
こちらに向き直る彼。
もう、被っていたフードは完全に脱げてマントにくっついているだけになっている。
お顔は、ジュリウス様そっくりに見える。お声も、やっぱりジュリウス様の声だ。
髪色だけが違う。
お屋敷に飾ってあったお祖父様の肖像画、そんな髪色そっくりな透き通った青。
わたくしはそのまま、彼の顔を見つめ固まって。しばらく一言も発せずにいた。
表側にはおしゃれな商店が立ち並んでいるけれどその中でも一番のお店はグラン商会の本店、グランマガザンという5階建ての大きい建物だ。
その辺のお店なんか比べ物にならないくらい広い間口。ゆうに通常店舗五軒分くらいはあるだろうか。一番街の中奥ど真ん中を占有するかのようにそびえたつその姿は、かなり離れた場所からもよくみえた。
そんな大きな建物のそのちょうど裏っ側。少しばっかり薄暗い通りに建っている二階建ての建物が、わたくしの商会、マリーゴールド商会の本部事務所。
事務所に向かうため裏通りに入って少しして、何者かがあとをつけてきていたことに気がついた。
後ろは振り向かない。
悪意のある人だったらわたくしが気がついたと悟って強硬手段に出ようとするかもしれない。
逆に、逃げられてしまうかもしれないし。
どうしよう、このまま事務所に入ってしまうわけにもいかないよね。
そんなふうに躊躇して立ち止まる。
事務所の入り口はもう目と鼻の先だけれど、あとをつけてくる人の目的がわからないことには対処しづらい。
と、思案していると背後の足跡は止まるどころか近づいてくる。
つけられていたのが気のせい、とも思えない。
これでもわたくしの基本魔力は高い方だ。背後の人物がわたくしの背中に注目していたことくらい、気配でわかる。
(失敗したなぁ。大通りで気がついていたら何処かのお店に入って確認したのに)
そう反省しつつ、ブーツの紐を直すそぶりをしてみる。
このまま素通りしてくれれば……。
そんなあわい期待を裏切るように、背後の人物が立ち止まりわたくしの背中に手を伸ばすのがわかった。
肩が掴まれそうになったところで逆にその手を掴み、身体ごと回して捻り上げ背にまわる。
いててと洩らすそのフード姿の人物の背後を取って。
「何か御用ですか?」
そう、凄んでみせた。
「ちょっと、待ってくれ、私は何も……」
「わたしのあとをついてきていましたよね? それに、今は背後から手を伸ばしていましたし」
「それは……、そうだ、急に立ち止まってしゃがんだのが見えたから、何か具合でも悪いのかもと……」
背中に回って取り押さえているから顔は見えない。
若い貴族? だと思うけど。
っていうか、髪が青い?
フードが乱れ脱げ、その青い髪が顕になった。
え?
うそ?
声は、ジュリウス様にちょっと似ている。
でもジュリウス様はこんな情けない声は出さない、(っていうか聞いたことがない)から、本当に似ているのかよくわからないけどなんとなく似ている感じ?
お店に来ていた時にはもっとモゴモゴしゃべっていたから、よくわからなかったけど……。
抑えていた腕を離して、彼の顔をよく見えるように覗き込む。
「しかしいきなりこんな。ああでも背後から手を伸ばされたら不審がられても仕方がないかもしれないが……」
こちらに向き直る彼。
もう、被っていたフードは完全に脱げてマントにくっついているだけになっている。
お顔は、ジュリウス様そっくりに見える。お声も、やっぱりジュリウス様の声だ。
髪色だけが違う。
お屋敷に飾ってあったお祖父様の肖像画、そんな髪色そっくりな透き通った青。
わたくしはそのまま、彼の顔を見つめ固まって。しばらく一言も発せずにいた。
675
お気に入りに追加
1,636
あなたにおすすめの小説

【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません
Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。
彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──……
公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。
しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、
国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。
バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。
だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。
こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。
自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、
バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは?
そんな心揺れる日々の中、
二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。
実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている……
なんて噂もあって────


【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?
Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。
指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。
どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。
「こんなところで密会していたとはな!」
ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。
しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。

偽りの愛に終止符を
甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。

自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。

旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

どうぞ、(誰にも真似できない)その愛を貫いてくださいませ(笑)
mios
恋愛
公爵令嬢の婚約者を捨て、男爵令嬢と大恋愛の末に結婚した第一王子。公爵家の後ろ盾がなくなって、王太子の地位を降ろされた第一王子。
念願の子に恵まれて、産まれた直後に齎された幼い王子様の訃報。
国中が悲しみに包まれた時、侯爵家に一報が。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる