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吉野へ。
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裳着も終わり、一応成人ということになったわたしなのですが、相変わらずお屋敷に篭って姫生活しています。
うん。にいさまはもう元服して宮廷に出仕してる。五位の少将、殿上人だ。
すごいなっと思いつつ、わたしだったらバレるのが怖くてとてもじゃないけどお気楽にお貴族様してられないと思うから、にいさまの心臓は鋼でできてるんじゃないだろか? と、感心する。
しかしまあ、成人になると通ってくる殿方も現れると聞いて戦々恐々としていたわたしは少納言に助けられて、なんとか無事に過ごせてた。
夜はなるべく一緒に就寝し、もし変な気配があったらわたしはすかさず御簾の奥に隠れる。
あとは少納言が体良く追い払ってくれたりするんだけど……。
うう。ダメだ。このままじゃ少納言の貞操の危機、だ。
ここに通って来る殿方の目的が瑠璃の少将と似ているという瑠璃姫であるのなら、もしお手つきになったとしても少納言は泣き寝入りだ。
それじゃぁあまりにも少納言に悪い。
そりゃ、玉の輿に乗れる可能性があるのなら反対はしないけど、そうでないならやられ損じゃないか。
それじゃぁほんと申し訳なくって。
流石にもう限界だとおもったわたしは、泣いておもうさまおたあさまに訴えた。
「吉野に行かせてください……」
吉野にはおたあさまの御母様、東陽明門院様がお住まいだ。そこに間借り出来ないか、と、思って。
このままここに居るのでは生きた心地がしない。
将来のことも不安だけれどとりあえずの安寧を、と。そう泣き崩れ。
「お前の事は不憫に思っている。そうだな。しばらく吉野に身を隠すのも一計か」
おもうさまにはおもうさまなりの苦労があるようで、わたしのことで周囲からしつこい要求があるらしいとも聞く。
おたあさまは泣くばかりでらちがあかなかったけれど、おもうさまの一言で、わたしの吉野行きは決定した。
とりあえずこれで、とりかえばやのおはなしのように内侍として宮中に出仕する事もなければ東宮と通じちゃって子ができちゃう事もない。
と、なんとか少し安堵した。
わたし、実はこれが一番怖かった。
心は姫のつもりだけど身体は男の子なんだよね。
もう、何かの間違いでどうかなっちゃったとしたら。
わたしの身体がそんな反応しちゃったら。
もう、そんなこと考えると情けなくて情けなくてしょうがない。
まだ油断は出来ないけど、わたし男の子として生きていくなんて嫌だ。
どうしてもそんな嫌悪感だけが先にある、そんな……。
☆☆☆
季節はもう秋になりかけていた。
綺麗な紅葉がチラホラ見え、もう少ししたら山々はオレンジに染まるだろう。
空気も美味しい。
落ち着いたら東大寺にも参内に行きたいなあとか思いつつ、平城京の街並みを横目に南下する。
あの山を超えたら吉野かな。
徒歩での旅は大変だけれど、頑張らなきゃ。
にしても。
わたしも随分と丈夫になったものだ、と、自分で自分を褒めてあげる。
少しずつではあったけれど運動をし、なんとか人並みの健康を手に入れた。
長かったなぁ。とか、感慨深いなぁ。とか、そんな事を思いつつ歩く。
従者は少納言と虎徹だけ、虎徹は我が家に使える武士で、平氏の出。まだこの時代貴族の方が強いけど、そのうちこういう武士が羽振りを効かせるようになるのかなぁと考えると、ほんと不思議だ。
あともう少しで吉野の原が見えてきますよという虎徹の案内に答えつつ、そろそろ足がもたなくなったわたしは、休憩をしましょうと提案した。
木陰に腰掛け、水筒の水を飲む。
干し飯をつまみ、背伸びをして。
ちょっとうとうとしたところで少納言におこされた。
「瑠璃姫さま、あちらに綺麗な湖が見えます。ちょっとそちらに行ってみませんか?」
そだね。うん。そろそろ気分転換してもいいよね。冷たい水に足を着けると楽になるかもだし。
「そうね。そちらに寄り道しましょう」
うん。にいさまはもう元服して宮廷に出仕してる。五位の少将、殿上人だ。
すごいなっと思いつつ、わたしだったらバレるのが怖くてとてもじゃないけどお気楽にお貴族様してられないと思うから、にいさまの心臓は鋼でできてるんじゃないだろか? と、感心する。
しかしまあ、成人になると通ってくる殿方も現れると聞いて戦々恐々としていたわたしは少納言に助けられて、なんとか無事に過ごせてた。
夜はなるべく一緒に就寝し、もし変な気配があったらわたしはすかさず御簾の奥に隠れる。
あとは少納言が体良く追い払ってくれたりするんだけど……。
うう。ダメだ。このままじゃ少納言の貞操の危機、だ。
ここに通って来る殿方の目的が瑠璃の少将と似ているという瑠璃姫であるのなら、もしお手つきになったとしても少納言は泣き寝入りだ。
それじゃぁあまりにも少納言に悪い。
そりゃ、玉の輿に乗れる可能性があるのなら反対はしないけど、そうでないならやられ損じゃないか。
それじゃぁほんと申し訳なくって。
流石にもう限界だとおもったわたしは、泣いておもうさまおたあさまに訴えた。
「吉野に行かせてください……」
吉野にはおたあさまの御母様、東陽明門院様がお住まいだ。そこに間借り出来ないか、と、思って。
このままここに居るのでは生きた心地がしない。
将来のことも不安だけれどとりあえずの安寧を、と。そう泣き崩れ。
「お前の事は不憫に思っている。そうだな。しばらく吉野に身を隠すのも一計か」
おもうさまにはおもうさまなりの苦労があるようで、わたしのことで周囲からしつこい要求があるらしいとも聞く。
おたあさまは泣くばかりでらちがあかなかったけれど、おもうさまの一言で、わたしの吉野行きは決定した。
とりあえずこれで、とりかえばやのおはなしのように内侍として宮中に出仕する事もなければ東宮と通じちゃって子ができちゃう事もない。
と、なんとか少し安堵した。
わたし、実はこれが一番怖かった。
心は姫のつもりだけど身体は男の子なんだよね。
もう、何かの間違いでどうかなっちゃったとしたら。
わたしの身体がそんな反応しちゃったら。
もう、そんなこと考えると情けなくて情けなくてしょうがない。
まだ油断は出来ないけど、わたし男の子として生きていくなんて嫌だ。
どうしてもそんな嫌悪感だけが先にある、そんな……。
☆☆☆
季節はもう秋になりかけていた。
綺麗な紅葉がチラホラ見え、もう少ししたら山々はオレンジに染まるだろう。
空気も美味しい。
落ち着いたら東大寺にも参内に行きたいなあとか思いつつ、平城京の街並みを横目に南下する。
あの山を超えたら吉野かな。
徒歩での旅は大変だけれど、頑張らなきゃ。
にしても。
わたしも随分と丈夫になったものだ、と、自分で自分を褒めてあげる。
少しずつではあったけれど運動をし、なんとか人並みの健康を手に入れた。
長かったなぁ。とか、感慨深いなぁ。とか、そんな事を思いつつ歩く。
従者は少納言と虎徹だけ、虎徹は我が家に使える武士で、平氏の出。まだこの時代貴族の方が強いけど、そのうちこういう武士が羽振りを効かせるようになるのかなぁと考えると、ほんと不思議だ。
あともう少しで吉野の原が見えてきますよという虎徹の案内に答えつつ、そろそろ足がもたなくなったわたしは、休憩をしましょうと提案した。
木陰に腰掛け、水筒の水を飲む。
干し飯をつまみ、背伸びをして。
ちょっとうとうとしたところで少納言におこされた。
「瑠璃姫さま、あちらに綺麗な湖が見えます。ちょっとそちらに行ってみませんか?」
そだね。うん。そろそろ気分転換してもいいよね。冷たい水に足を着けると楽になるかもだし。
「そうね。そちらに寄り道しましょう」
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