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転生皇女。

不安。

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「ラインハルト兄様は騎士を目指してるそうだよ。私も機会があれば是非手合わせをお願いしたいなぁ」

「いいぜ。ティベルは俺によく似てるからきっと筋が良さそうだ」

 この二人は本当によく似てる。本当の兄弟と言っても知らない人ならたぶん皆信じるだろう。

 でも。

 ……なんで貴方はわたしが転生者だと? それよりも、わたしと同じ能力があるのですか?

「そうだティベル。午後は森に出てみないか? 裏山の森なら警護の皆も安心だろう?」

 ……同じかどうかは知らないが、俺はお前の心が読める。漏れ聞こえてくるんだよ声が。

「護衛班に確認してみます。まああそこなら結界も有りますし出てくる魔物もいい練習になる程度ですからね。私も何度か護衛騎士と共に鍛錬に赴いたことがあります」

「あら、お兄様達だけずるいですわ。わたくしも連れて行ってくださいませ」

「マリアンヌはお父様の許可が無いとダメだ」

「では許可を取りましょう。ねえ、サーラも見てみたいでしょう? お兄様達が魔物を退治するところ」

 ……聞こえる、の、ですか。わたしの見える、とはちょっと違うのですね。
 ……その様だな。まあお前、さっき自分で前世がハイティーンだって言ってたぞ。
 ……ああ、それで。って、じゃぁもしかして貴方も?
 ……まあそう言う事だ。社会人だったけどな。しがないサラリーマンさ。
 ……ああ、日本人だったのですね。
 ……同郷だな。なかよくしようぜ。

 わたしはおにいさまおねえさまの言葉に頷くことしか出来ず、その裏でラインハルト様とお話ししてた。

 ☆

 お昼はユリウスさまもご一緒に七人で頂き、ねえさまはちゃっかり森への同行の許可を取った。

 おとうさまは割とその辺は放任で、好きにさせてくれる。

 裏の森なら護衛騎士さまさえ居ればそれほど危険が無いとわかっているのもあるのだろう。

 おとうさまもユリウスおじさまも若い頃はそこで鍛錬したのだと、笑って答えていた。

 当然の様にわたしも森行きのメンバーに入っていた。本当はそんなの行きたくないけど今更断る根性もあるわけもなく。

「さあサーラ様お着替えしましょう」

 髪は纏めお団子に。皮のワンピースの上から防御魔法の掛かった軽鎧みたいな子供用の胴当をつけてスネから下は丈夫な皮の編み上げブーツ。

 もこもこで動きにくい。

「動きにくいかもしれませんが我慢してくださいね。お怪我でもすると大変ですから」

 ……わたしもついていければいいのだけど……。心配だわ……。

 そうアスターニャの心が漏れ伝わる。



 心配かけてごめんね。アスターニャ。


 ☆☆☆☆☆


 魔法があると言ってもなんでもできる訳でもない。

 死んでしまった人は生き返らないし、大怪我が一瞬で治る事も、まずない。

 どこかにそんなチート能力を持った人が居ないとは限らないけれどそれでも今この身近には無いことになっている。

 わたしが知らないだけかもしれないけれど。

 だから人の命は大切だと教えられるし無謀な戦いも忌避される。

 うん。だから人はなるべく安全に気をつけて、それでも魔物に備えて鍛錬する。この世界にとって魔物と戦う事は生きる事そのものでもあるのだ。

 皇帝の息子、皇太子であったとしてもそれは例外では無く。

 ティベリウスおにいさまは六歳の頃からこうして森で鍛錬していたのだ。ここは、そのための森だから。

「サーラは初めてだったかな。この森は」

「はい。おにいさま。わたくし、少し怖いです……」

 わたしは嫌な予感がして、このままここにいる事が怖かった。

「そんなに怖がらなくても大丈夫。ここにはわたくしたちもいるし護衛騎士様達も居るのですもの。楽しみましょう。ね」

 と、マリアねえさまも。

「サーラは俺が守ってやるさ」

 ラインハルト様もそういう。

 うん。ほんと、ありがとう……。

 でも、何か、わからないけど、ダメだ。不安が消えない。



 裏山といっても城の後方に広がるその一帯は国の公園に指定されている場所で、その森は完全に管理されたものだ。

 本来であれば魔物など繁殖のしようもない状態であるはずで。

 そうであるにもかかわらず魔物が跋扈しているのはそれすら人による管理の賜物であるということだろう。

 そうである、から。

 ここはレベルも安定しているわけ、で、初心者であれば初心者エリア、慣れてくれば中級、そして、腕に覚えがあれば上級のエリアにチャレンジできる。自然の森であれば一つ間違えば全滅することもありえる魔物との戦いが、ここではレクリエーションの様に体験できる場所であるのだと。

 そういった場所だった。

 そう。

 ここ、で、危険な事が起こると言う事は、

 それは、ここのシステムが機能していない、と、言う事だ、と。



 ああ。でも。

 不安はどんどん増してゆき、わたしの頭の中の警報はガンガンと鳴り響いていた。
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