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アリシア。

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 魔法が使えない。チカラが使えない。それがこんなにも悲しいなんて。

 役に立たない自分には価値がない。そう感じてしまうから。



 魔法を使うっていうのは内なるマナを変換してチカラにし、それを行使するっていう意味だ。

 その、マナを変換したチカラの事を、あたしたちは魔力、マギアって呼んでいる。

 そう。今のあたしは大聖女さま譲りの魔法の知識はキオクとして充分過ぎるほど持っているし、魂《レイス》の中にはあふれんばかりの大量のマナもあるのにもかかわらず、それを魔力に変換する為の装置、ゲートが開いて居ない状態なのだ。

 だから全て宝の持ち腐れ。

 魔力がゼロになってしまったあたしはなんの役にも立たないよ……。

 魔王バルカが復活したかもしれないって言うのに。それをなんとかする事も、今のあたしには出来ない、のだ。

 それが悲しくて……。





「何!? 封印されて居た魔王の遺体が消失しただと?」

「お食事中に申し訳ありません陛下。大聖女メッサリーナ様からそう報告がありました。グランウッドの地下を覆っていた結界も消失してしまっていると……」

「そうか——」

 はっと気がつき涙を拭うと、正面の王様は深刻そうなお顔で隣の侍従さんと話してた。

 ああ。あたしのせいだ……。

 ——もう。レティーナのせいじゃないって何度言ったら聞いてくれるの。

 だって、だって。

 あたしがもっとしっかりしていれば。

 あたしがちゃんと自己主張して聖都の結界を張り続けていたら。

 もしかしたらこんなことにはならなかったのかもしれないんだもの。

 ——バルカの復活は時間の問題だったのよ。

 あたしはどうすればよかった? サンドラ様は、大聖女様はあたしをどうしようと思ってたの?

 ——うーん……。正直に言うわね? 魔王の器は魔王そのものをその身に受け入れるためにあるの。あなたの中にバルカごと魔王を納めるつもりだったんじゃないかって、わたしはそう考えてた。それが昔のサンドラがわたしにした事だから。

 え?

 ——サンドラは、それが世界を救う唯一の方法だって確信してたのね。そうしてあたしはバルカを自身のレイスに取り込み真の魔王となったの。

 それが、魔王アリシア?

 ——そうよ。それがわたし。魔王アリシア。


 じゃぁ。

 今度はあたしの番、なんだよね。それがあたしの役割、なんだ……。

 ——まって。レティーナ。サンドラがいつも絶対正しいわけじゃないの! だいたいその時だってサンドラはほんとは自分が犠牲になるつもりだったんだもの。

 はう?

 どういう、こと?

 ——あの時は、サンドラはあたしをも封印しその力を自身に取り込み、そうして自分がこの世界の摂理、理り、円環そのものになるつもりだった。自分をも犠牲にして世界を救うつもりだったの。

 だった、の?

 ——結果的にはそうならなかった。わたしの中にいたカエサル、初代の魔王の理性であるレヴィアがわたしの真っ赤になった感情の塊を切り取って、そうして自分がはじけて大気に溶け、円環となったから……。

 アンニュイな表情をするレヴィアさん。ううん、アリシアさん。

 ——だいたい、レティーナ、あんたはバカよ。自分に価値がないだなんて、だから役割を全うしなくちゃだなんて、そんなこと考える必要なんてこれっぽっちもないの! 大人びて見えてたのに中身はぜんぜん子供なんだから。

 はう!

 ——今度自分のこと価値がないなんていったら、わたし、怒るからね!

 ああ、ごめんねアリシア……。
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