聖女追放。

友坂 悠

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ワイルドキャッツ。

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 キャンプを襲う魔物魔物魔物。
 わらわらとどこから湧いてきたのかわからないほどのそれを遠距離から薙ぎ払うマキナ。
 たいていがホーンラビットやエビルフロッグのような小型の魔物だけれどもうすでに馬車に取り憑いているデビルリザードが厄介だ。
 残された二人にもこれではもうどうしようもなく固く扉を閉じて籠城している。
 うん、命の火がまだ感じられる。どうやら無事かな。
 ちょっと安心して。

 第二班はまだ戻ってきてはいない。
 アッシュは手に持ったたいまつに火をつけ振り回す。
 こういう小型の魔物はとにかく火が苦手なものが多い。だからなのだけれどあまり効果が見えない。
 弓をひくデューイ。
 ああ、でもこの大量にいる魔物に対しては焼け石に水か。

 マキナが振り回すグラムスレイヤーの光に焼き払われる魔物たち。確実に数を減らしているのはそれだけだ。

 うん。
 しょうがないか。
 大きい魔物が数匹とかなら対処のしようもあるけれどこうわらわらと現れる小型の魔物は人の手には余る。マキナばっかりに任せておくのも大変だしこのままじゃ馬車が危ない。

 あたしは右手から風の刃を飛ばして馬車に張り付いたデビルリザードの排除に向かった。
 大量の風の刃を飛ばし、それをうまくコントロールしてその小さな個体を掬い上げるように切断する。
 見た目には竜巻が舞ったようにしか見えなかったかもだけど。
 そうしてあらかた馬車の周囲を掃除し終わったところで他の皆を見ると、それでもなんとか皆周りの魔物を掃討し終わりかけていた。

「これでなんとか」
 アッシュがそう声を漏らした時だった。

 森の中から第二波とでも言うべき魔物の群れが飛び出してきた。

 ワイルドキャッツ。

 猫型の野獣。

 通常猫型の魔物は群れを作らないものだけどこれだけは違う。

 野犬のように群れ遅いくる猫型の野獣はその個々のスペックも高くかなりの脅威となる。
 それが見たところだけでも数十匹はいるだろうか。一斉に飛びかかってくるのに皆対処が遅れた。

「デューイ! 危ない!」
 顔を庇った右腕の肉がえぐられ、血だらけになるデューイをあたしは真那の手を伸ばし引き寄せた。
 ああ、まずいな。
 意識を失いかけている彼をそのまま治療しつつあたしのレイスの中に避難させる。
 真那の手でそのまんまゲートからレイスの中に引き寄せて。

 うん。外にいるより多分まし。
 アッシュが呆然とこちらを見ているのに、「ぼやっとしないの! アッシュ。とにかく自分の身を守る!」とそう撃を飛ばしつつマキナのそばに駆け寄るあたし。
 マキナにもう一つのグラムスレイヤーの使い方を教えなきゃ。そう思って急いだ。

 襲いくる敵を切り刻むだけではどうしても一手遅れる。
 こういった敵にはやっぱりこちらも飛び道具が有効なのは間違いないし。

「マキナ!」
 あたしは飛びかかってくるワイルドキャッツたちを掻い潜りはたき倒しマキナの背中に張り付くように立って。
「剣の先に集めたマナを敵にぶつけるつもりで投げるように放ってみて!」そう叫んだ。
 剣の先に集まったマナはそれなりには伸びるし少しくらいの遠距離には届くけど、でもそれまでだ。
 それを槍のように投げることができたら。
「わかった!」
 そう答えるマキナ。
 あたしのこの一言で全てを理解してくれたのだろう。
 それか、あたしがさっき放った風の刃も参考になったのだろうか。

 マキナはグラムスレイヤーに込めた光をそのまま振り下ろすように放った。
 光の槍が剣の先から放たれ、ワイルドキャッツを数匹をまとめて突き刺し破裂する。
「うん。その調子!」
 あたしも負けじと風の刃を飛ばす。

 あたしが飛ばす風の刃、マキナが放つ光の槍が周囲の魔物たちをあらかた殲滅したところで。
 空が急に曇り大粒の雨が落ちてきた。

 皆を疲労感が襲う。
 ぐったりした顔のアッシュ。
 かなり血を流してるけれど、それでもなんとか五体満足なのでよかった。
 マキナは流石に怪我はあまりしてないけれどかなり疲れた表情で雨に打たれるに任せている。

「終わったのか」
 そうマキナがぼそっとつぶやいたところで。
 あたしも彼の頭を撫でて。
「うん。よくがんばったね」
 そう囁いた。


 あたしの中にいた、収納していたデューイをよっこらっと外に出して。
 周囲にもヒールを飛ばしてアッシュの怪我もそのまま治療する。
 雨が強く降る中このままじゃ怪我は治しても風邪ひいちゃったら困るかなと気絶したままのデューイを抱っこしたまま馬車に乗り込もうとしたあたし。
(っていうかこれって結構シュールな情景? 細身の女性のあたしが仮にも大人の男性をお姫様抱っこしてるなんて)
 そんなふうに思いながら馬車に乗り込もうとしたまさにその時だった。

「許さない! 人間! 許さない!!」

 そう唸るような声が聞こえて。

 山のような大きさの黒い塊がそこに現れたのだった。
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