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ゆったりとお湯に浸かって。

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 ゆったりと広々とした湯に浸かって。

 一応髪は纏めて。浴槽の縁に首の後ろをあてて、寝そべるようにゆったり浸かる。

 ふにゅう。これは気持ちがいいよね。

 お家ではこんなにゆっくりとはお風呂に入れない。いつも誰かにお世話されるのが当たり前みたいな感じで、身体を洗われたりマッサージされたりと忙しい。

 浴槽だってこんなに広くはないしね。

(マリアンヌのとこもお風呂も充分広いんだけどね?)

 そうなの?

(そうなの!)

 と、記憶の奥から茉莉花のおうちのお風呂事情が降ってくる。

 あうあう。流石にね? これはお風呂だと思わなかったよ。

 身体を洗うだけの桶かと。

(日本のアパートのお風呂なんてこんなんだよ? 一戸建てのおうちだってそこまで大きくないよ湯船)

 あは。うん。そうだよね。

 あたしの心の中が茉莉花の記憶で溢れる。

 うん。ここのお風呂、スーパー銭湯? 温泉旅館のお風呂? そんな感じかな?

 ぶくぶく空気の泡が湧き出るようなのは無いけど、広くて気持ちがいいのは一緒。


 そんな感じでまったりしてたら隣にアリサが来た。

 しれっと隣に来てお湯に浸かる。肩まで浸かったところでぼそっと言った。

「僕のこの身体は、呪いみたいなものなんだよね」

 と。

 あんまりにも小声だったので、一瞬聞き間違いかと思ってアリサの顔を凝視したあたし。

「呪い?」

 そう思わず返して。

 アリサはそのまま顔までざぶんとお湯に浸かり、ぷわーっと声を出して浮き上がった。

「なんていうんだろうね? 王子は二人も要らないってさ」

 え?

「僕がもし男の子として育ってたら、きっと生きていられなかったに違いないって。そうずっとお母様に言われ続けてた」

「どうして!」

「兄様の周りには、そういう大人が居るんだよって」

 なにそれ!

「僕が女の子だから助かったんだって」

 アリサの顔が悔しそうに歪む。

 泣き出しそうな、そんなふうに。

 はう。

 あたしは両手を広げてアリサ、ううん、アーサーに抱きついて。

 そのままアーサーのほおにあたしのほおを擦り付けて。

「ごめんねアーサー」

「あう、どうしたのマリカ。どうしてあなたが謝るの!」

 あたしが急に抱きついたことでびっくりしているアーサー。でも、その瞳からは涙が溢れてきていた。

「悔しかったんだね。悲しかったんだね。ごめんね気付いてあげられなくて……」

 あたしはアーサーの金色のふさふさの頭を撫でて。

「大丈夫。アーサーはアーサーだよ。あたし、アーサーの事大好きだから、ね……」

 そう、あたしも泣きながら、そう話してた。



「あー。アリサだけずるい!」

 そうクラウディアがざぶんとあたしたちの隣に入ってくるまで、あたしは泣いているアーサーの頭を撫で続けてた。
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