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妖精さん
しおりを挟むここは代々続く小さな古本屋だ。小さく古びた店舗で知るひとぞ知るこの古本屋……開いてるのかもよくわからず通りすぎるひとが多いこの店では時々おかしなことが起こる。
今日はそのうちのひとつをお話しよう。
扉についた小さなベル、本棚にみっちりと詰められた古い本、店主のいるカウンター。
お客は時々売りに来るひとがいるだけで売れることは滅多にない。扱う本は初版本や限定版に限らず雑誌までジャンルを問わず置いてある。
店主の趣味で成り立っているような店だ。暇なため掃除だけはきちんとされているのが物悲しい……
え?そんなので生活できるのかって?
なぜか大丈夫……それが今日話すおかしな出来事だから。
客の少ないこの古本屋では月に1度ぐらいの頻度で本が買われていくのだ。店主が数ヶ月は余裕で暮らせるくらいの価格でね。
買う人は様々……でも10日くらいするとまた、この店に売りに来るのだ。安くてもいいから買ってくれってね……店主は自分がひと月くらい暮らせるお金を引いた額で買い取るんだ。
その後、その本は数週間は店に並ばず……ある日ポツンとカウンターに置かれる。それが購入できる合図だ。しかし、この古本屋を見つけられてさらに店が開いている上売っている確率はかなり低い……
それでも熱心に探すひとは多い。なぜならその本は幸運を呼び寄せるものとしてある界隈で有名なので。
何故か古本屋にたどり着けない日が多いらしい。それも噂に拍車をかけている。
ただしある程度、幸運を享受した後も持ち続けると今度は災いが降りかかるという曰く付きの本だが。
今日も先日買われていった本が帰ってきた……
「今回は早かったの。なぁ、妖精さんや……悪さばかりしたんでなかろうな?」
『ふふっ。その前に幸運もたくさん振りまいたわよ(わたしの扱いが雑だったからいたずらも倍増したけどね)』
「そうかい」
『太郎、感謝してよね!こうやって暮らせるのは私のおかげよ』
「そりぁ、そうだが……気に入った主人がいれば帰ってこんでええぞ。年金もあるでの」
『そうね。そのうち……ね』
だって、気に入った主人は太郎あなただもの……あなたが死ぬまで生活に困らないようにしてあげる。ボロボロだった私をきれいにして大切にしてくれたあなたを放っておくことなんてできないじゃない。
時々、いたずらもするけど楽しく暮らせるならかまわないでしょう?
『ま、そう思っているのが私だけじゃないのは癪だけどね』
「なんか言ったかの?最近耳が遠くてなぁ」
『くすくす……なんでもないわっ』
今日のおかしな出来事は古本屋の存続の秘密……
『うわぁー、ずるーい!僕も僕もー』
『うるさいわね!あなたはまた今度よ!』
『えぇー!』
チリーン、チリーン!チリーン、チリーン!
扉についたベルがひとりでに揺れ鳴り響く……他のおかしな出来事はまたいずれ。
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