古本屋のおかしな出来事

瑞多美音

文字の大きさ
上 下
1 / 4

妖精さん

しおりを挟む


 ここは代々続く小さな古本屋だ。小さく古びた店舗で知るひとぞ知るこの古本屋……開いてるのかもよくわからず通りすぎるひとが多いこの店では時々おかしなことが起こる。
 今日はそのうちのひとつをお話しよう。

 扉についた小さなベル、本棚にみっちりと詰められた古い本、店主のいるカウンター。
 お客は時々売りに来るひとがいるだけで売れることは滅多にない。扱う本は初版本や限定版に限らず雑誌までジャンルを問わず置いてある。
 店主の趣味で成り立っているような店だ。暇なため掃除だけはきちんとされているのが物悲しい……

 え?そんなので生活できるのかって?
 なぜか大丈夫……それが今日話すおかしな出来事だから。


 客の少ないこの古本屋では月に1度ぐらいの頻度で本が買われていくのだ。店主が数ヶ月は余裕で暮らせるくらいの価格でね。
 買う人は様々……でも10日くらいするとまた、この店に売りに来るのだ。安くてもいいから買ってくれってね……店主は自分がひと月くらい暮らせるお金を引いた額で買い取るんだ。
 その後、その本は数週間は店に並ばず……ある日ポツンとカウンターに置かれる。それが購入できる合図だ。しかし、この古本屋を見つけられてさらに店が開いている上売っている確率はかなり低い……

 それでも熱心に探すひとは多い。なぜならその本は幸運を呼び寄せるものとしてある界隈で有名なので。
 何故か古本屋にたどり着けない日が多いらしい。それも噂に拍車をかけている。

 ただしある程度、幸運を享受した後も持ち続けると今度は災いが降りかかるという曰く付きの本だが。
 

 今日も先日買われていった本が帰ってきた……

  「今回は早かったの。なぁ、妖精さんや……悪さばかりしたんでなかろうな?」
 『ふふっ。その前に幸運もたくさん振りまいたわよ(わたしの扱いが雑だったからいたずらも倍増したけどね)』
 「そうかい」
 『太郎、感謝してよね!こうやって暮らせるのは私のおかげよ』
 「そりぁ、そうだが……気に入った主人がいれば帰ってこんでええぞ。年金もあるでの」
 『そうね。そのうち……ね』

 だって、気に入った主人は太郎あなただもの……あなたが死ぬまで生活に困らないようにしてあげる。ボロボロだった私をきれいにして大切にしてくれたあなたを放っておくことなんてできないじゃない。
 時々、いたずらもするけど楽しく暮らせるならかまわないでしょう?
 
 『ま、そう思っているのが私だけじゃないのは癪だけどね』
 「なんか言ったかの?最近耳が遠くてなぁ」
 『くすくす……なんでもないわっ』


 今日のおかしな出来事は古本屋の存続の秘密……

 『うわぁー、ずるーい!僕も僕もー』
 『うるさいわね!あなたはまた今度よ!』
 『えぇー!』

 チリーン、チリーン!チリーン、チリーン!
 
 扉についたベルがひとりでに揺れ鳴り響く……他のおかしな出来事はまたいずれ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...