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第2章

26 死にかけ1班のくそおやじ

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 樹液やポーション草を採取したり、ロランさんと交流しつつ過ごすこと数日……ついにこの日がやってきた。
 朝起きて雨が降っていなければその日の朝の自由時間に他の班へ行けるとなっていたので、最近は毎日鐘のなる前には目が覚めてしまった。
 遠足前の子どもか!って思うけど、なんだかドキドキして目が覚めちゃうんだもん。

 今日の天気は……晴れ!雨は降ってない!

 「メリッサ、今日行ってみようか」
 「う、うん!」
 「じゃ、準備しな」
 「わかった!」


 みんなにてつだってもらったおすそ分けをバケツや草バッグに詰め込み……準備完了だ。

 「じゃ、行ってくるよ」
 「き、気を付けて」
 「何かあったら、すぐに戻ってこい!報復は任せろ!」
 「小さなことでも構わないからね」

 ん?報復……物騒だなぁ。

 「あんたたち……はぁ。行こう、メリッサ」
 「うん……いってきまーす」


 おなじ死にかけグループだが……部屋自体は近くないらしい。
 半壊した建物のまだ使える場所にいるため、離れているのだとか。

 たぶん、【第三地区】は過去の教会?神殿?……とにかく精霊を祀っていた建物がある地区だと思う。ひとまず教会と呼んでおこう……
 ここはそこで働くひとたちの住みかだったようで、コの字のような形をしているのだ。
 教会の裏庭に当たる部分がお墓で、聖堂らしき跡はほぼ更地なのでコの字といっても鉤括弧に近いかな?
 同じ建物だけど、建物の角にあたる部屋付近に1班、2班が暮らしているらしい。
 そこがいちばんお墓へ近いんだとか……
 3班は人数が増えすぎて、後から増やされたので少し離れているみたい。

 イメージとしてはこんな感じかな……

【第三地区】
         墓墓
  □□□□①□ 墓墓
       ② 墓墓
       □ 墓墓
       □ 
       □
  井戸   □
 ト     □
     花 □     塔
    花草草□    樹
     □③□
     
   ・
   ・
   ・
   ・
   ↓
【旧広場地区】
    ・
   ・
   ・
   ・
   ・
   ↓
【第二地区】



 ①は死にかけ1班の部屋があるところで、②が死にかけ2班の場所。
 そして、③がわたしたちの部屋の場所である。
 草は『メリッサ作雑草畑』花はホトケノザもどきの花畑だ。
 トは共同トイレである。
 塔は精霊さまの鐘のある塔で、そばの樹は樹液がとれる樹となっている。


 ◇ ◇ ◇
 

 おばばさまに合わせのんびりペースで向かう。おばばさまは足が悪いから長時間の散策は厳しいらしい。
 ほかの死にかけ班へ行くのもゆっくりなら大丈夫とのこと……大変そうだけどね。一応、そこら辺の枝を杖がわりにゆっくりと向かっている。

 今日はわたしの格好は腰簑だけだ。わらじも脱いできた……今日渡す予定のもの以外を身につけていて「そのサンダルくれ」とかいわれたら困るからね。
 おばばさまも同様だが、裸足で歩かせるのは気がひけたので部屋の近くまで行ってからわらじを脱ぐ予定だ。

 まずは1班の部屋へ……おぉ!この部屋のほうが天井の穴が小さいねぇ!
 でも、なんか空気は淀んでる……水とか毎日ちゃんと汲んでる?トイレの処理サボってない?って感じの臭いが……

 「邪魔するよ」
 「なんだ、おめぇ……」
 「あ、3班のひとですねっ」
 「……ちっ」

 なんか、あのおじさんひとりでぼろ布団に寝転がって偉そう……まさに頑固ジジイって雰囲気だ。おばばさまが言ってたひねくれたひとってこのひとかな?
 他にいるひとたちもなんだかびくびくして、おじさんのほうを見ている……グウェンさんみたいにツンデレっていうわけでもなさそう。

 「え、ええっと……」
 「話があってきたんだか、聞く気はあるかい?」
  「ねぇよ!そんなもん!さっさと帰れ!」
 「す、すいません。すいません!うちは結構ですからっ」

 なんか、押し売りを断られた……まだ商品(食用可能な雑草や腰簑)の紹介も出来てないんですけど!

 なんか、こちらを敵対視されてるみたい。話を聞いてくれないとは思わなかった……はぁ。

 仕方ないので、明らかに顔色が悪いのにボロ布団すらなく、入り口付近に寝かされていた子どもに

 「これ、あったかいから」
 「……り、がと」
 「草なんていらねぇよ!さっさと帰れって言ってんだろ!おままごとに付き合ってる暇なんてねぇんだよ!」

 え、暇ないの?寝転がってるのに?他のひとは魔石握ってるけど?この子すら、そばに魔石置いてあるんだけど?おじさんのとこにはないね……おばばさまと同じくらい魔力量があるみたいだけど?

 あれ?……朝の自由時間なのに、なんで魔石がここにあるの?くすねたにしては量が多そうだし、部屋の奥には魔石の入った木箱が見える……まさか、昨日のノルマ達成出来てないんじゃ……え、まじで?

 「役立たずのガキをうちに押しつけようったってそうはいかねぇからな!子どもなんざうんざりだ」
 「黙ってればベラベラと……いい加減にしな」
 「うっせー!さっさと帰れ!」

 役立たずのガキ……ってわたしのことか?

 「うっせー!くそおやじ!おままごとにのあいてはあんたじゃない!この子だ!こどものおままごとにくちだすな!」
 「なっ!」

 おっと、思わず切れてしまったわ!ま、いっか!
 一瞬、逆上してくるかと思ったのに頭が追い付いてないらしい。

 「ふふっ!メリッサ、よく言ったね!おままごとの道具を奪うような恥知らずなやつはこの部屋にはいないはずさ」
 「だよねー!あ、この草もあげるね!まずいけどたべられるから!」
 「……う、ん」
 「じゃ、またきまーす!」

 この子、ほっといたらまずそうだし……わたしより幼いんじゃないかな。
 ん?くそおやじは心底どうでもいいよ?

 「来んなって言ってんだろ!」
 「そうさね。今度はグウェンと来ようか」

 グウェンさん?ボディーガードかな?

 「そうだねぇ……グウェンさんやさしいから子どもがひどい目にあってたらおこっちゃうかもねぇ」
 「……っ」
 「すいません!すいません!」
 
 これ以上出来ることはないので、早々に退散だ。
 でもとりあえず釘はさせたかな?全然、話も出来なかったし……向こうの印象は最悪だろうな。

 「おばばさま。ごめんなさい……やっちゃったよ」
 「いや、いいんだ。あそこはあいつが仕切ってるんだよ。でも、もうひとりの若いのが動き回ってなんとかしてるってのが正しいかな」

 あの、気弱そうなひとか……ひたすらペコペコしてたなぁ。
 あのひとがノルマの受け渡しやらやってるのかぁ。見張りに怒鳴られてさっきみたいに「すいません!すいません!」って謝るのが目に浮かぶわ……

 ひとりでは水汲みやトイレの処理までは手が回らないのかな……

 「そっか。あのこを見てたら、どなるだけのおじさんにはらがたったの」
 「そうかい」

 なにか事情があるのかもとか全く思い付かなかった……目の前で子どもが苦しんでるのに!としか考えられなかったわ……反省。

 「あのおじさんになぐられるかとおもった」
 「ああ。あいつは口だけさ。もし、暴力を振るったらウチのグウェンとマチルダが黙ってない。報復を恐れてなにも出来ない……だから、メリッサを止めなかったんだ」

 ……ん?グウェンさんはともかくマチルダさんも?報復ってまじのやつだったの?

 「そうか……メリッサは知らないか。昔、マチルダはあいつにちょっかいかけられてボコボコにしたことがあるのさ」
 「えー」
 「そのあとマチルダは体調を崩してかなり寝込んだけどね……よほど頭にきたんだろうね」


 マチルダさん、意外と格闘派……?それとも火事場の馬鹿力?

 おばばさま曰く……わたしがくるずっと前のマチルダさんは調子のいいときは出来ることをと言って、水汲みなども担当していたそうだ。
 そこに、共同トイレにやってきたおじさんにちょっかいをかけられ……マチルダさんが避けようとした際に持っていたバケツがおじさんの股間にクリーンヒット。

 うずくまったおじさんに罵声を浴びせられキレたマチルダさんはそのまま、バケツでぶっ叩こうと思うも……冷静にバケツが壊れたら困ると考えた結果、バケツの水がかかって水浸しとなった手拭き代わりにもっていたボロ布でバチバチにボコったらしい。
 あれだよ……水に濡れたタオルとかで叩かれると結構痛いやつだよ。
 その現場をフランカお姉ちゃんが発見して、自分じゃどうにもできないと急いでグウェンさんを呼びに戻り……グウェンさんが駆けつけたんだけど、止めるどころか囃し立てていたらしい……なにしてんのさ。おじさんは隙をみて逃げ帰ったらしい。
 幸い見張りには見つからなかったって……よかったね。
 
 マチルダさん……おこらせないよう気をつけよう。

 「それから、うちの班のことは目の敵さ。ノルマを安定して達成してるのも鼻につくんだと。魔石の仕分けの話も聞く耳を持たなかったそうだよ。部屋にいたやつの半分は言いなりだし、残りは耄碌したかおかしくなったやつだからあいつのやりたい放題なのさ」

 自業自得とはいえ、ボコられたら目の敵にもするか……

 「そっか……あのこ、草たべてくれるかな」
 「どうだろうね……」
 
 また、会うときまで無事に過ごせているといいな……
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