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第1章

6 トイレって重要だよね?

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 「お疲れさま。そこに置いておくれ」
 「ありがとうね」
 「「はい!」」

 ここから、おばばさまが魔石を仕分けてみんなに振り分ける作業が行われるとのこと……
 前にいた部屋ではこんなことしてなくて、木箱から適当につかんだ魔石を渡されていたのですこし驚いた。

 「まえのとこではこんな風にわけてなかったのに……」
 「ああ、以前は私らも適当に分けてやっていたんだけどね……それだとノルマが達成できないことも多くてね」
 「お、おばば様がい、色々と考えてくれたの」
 「まぁ、マチルダとハワードが来てからはこのやり方がいちばんよかったのさ」
 「へぇ……」

 木箱の中の魔石の大きさは……わたしの握りこぶしくらいある大きなものから、親指の爪くらいまでの小さなものまで大小様々だ。

 おばばさまが大きな魔石になるほど魔力を込める時間が長くかかると気づいたそうで、それ以降この部屋では大きな魔石はハワードの担当になっているらしい。
 そう聞けば……たしかに渡された魔石のサイズが大きさによってできあがる時間はまちまちで、たまに大きいものにあたると時間がかかってせかされた記憶があるなぁ……頑張ってたのにサボっているように見えた理不尽なやつ。もっと早く気づきたかった!
 そしたら小さい魔石ばっかり担当して、めっちゃ仕事できるやつムーブできたのにっ。

 「ノルマは基本的に魔石の量なんだ。見張りたちは数さえあっていれば魔石の大きさなんて無頓着なのさ」
 「えぇ……サイズべちゅにしてほしい」
 「ふふ、そんな仕分けは面倒だっていうわよ」
 「そ、そうですね。ど、どうもノルマは器で何杯分っては、はかってるみたいです」

 器ではかってるのか……なぜか、節分の時に豆が入ってる枡を思い浮かんだ。あれも、決まったサイズがあるんだっけ?お米とかの計り売りしてたんだよね?

 ってことは……たまには小さな魔石が器にいっぱい入ってラッキーな日もあるのかな?あ、結局総数が増えるから意味ないか……

 「それも……人によって器のすくいかたが違うのさ……山盛りにする奴や器ぴったりにする奴って具合にね」
 「たぶん、本来のノルマは器ぴったり何杯ってはかるのだと思うわ……ごほっ、でも、死にかけには嫌がらせで山盛りにする奴も多いのよ」
  
 なんてことしてくれてんのだっ!そんなことされたらノルマ達成できなくなるじゃないか!

 そうか、引き渡しの時にグループを名乗るからできる嫌がらせでもあるな……はぁ、むかつく。
 あれ?でもさ……それって、魔石ひとつふたつくすねてもばれないんじゃないの?
 だって、ノルマのぴったり器○杯分が確実にあれば明らかに量が減っていない限り、確かめようがなくない?見張りによってすくい方が違うんだからチェックも甘かったりして……
 まあ、魔石の使い道がないからそんな危険は犯しませんけどね……

 ちなみに魔石とは鉱山から堀り出された石で、出来上がった魔石は魔道具には欠かせない動力としてとても重宝されているんだとか……時折ものすごく大きな魔石が採掘でき、その時は部屋に持ち帰るのではなく呼び出され数人がかりで魔力を込めることもあるらしい。
 まぁ、わたしたちには現実味のないことだから、貴重さもよくわからないし、感覚としてはただの石(ただしノルマ有)と変わらないかな。

 毎日、こんなにたくさんの魔石を掘り出して鉱脈が枯渇したりしないのか不思議だけど……今掘っている場所すら鉱山の入り口から少し入った程度だと聞いたので心配はいらないのかもしれない……

 「おや、今日は運がいいね。きっとお前さんの分の勘定を忘れたのさ……」
 「それって、わたしがいきのこると思ってなかったんじゃ……」
 「さ、これをハワードに持たせておやり」
 「は、はい」

 話をそらされてしまった……まぁ、ノルマは少ない方がいいに決まってるし、このままノルマ増やすの忘れてくれればいいな。

 ハワードには定期的に魔石を握らせればいいらしく、フランカお姉ちゃんがさっそくこぶし大の魔石をハワードの手に持たせている。

 「ハワード、こ、これお願いね」
 「……」

 返事はないけど、手にはしっかりと魔石は握っているみたい。
 ハワードに大きな魔石を任せているのは小さな魔石だと交換頻度が早まるため、効率を考えた結果だそう。

 ハワードはされるがままで魔石を任されても特に反応はないし、魔石が出来上がっても自主的に交換するわけじゃないから……
 ハワードに小さな魔石を任せた場合、誰かが交換しない限り、ハワードはずっとできあがった魔石を握ってることになるのだ……そう考えると効率が重要になるか。


 「メ、メリッサちゃん。た、体調は平気?」
 「へいきです!」

 ふたりの様子をボーッと見ていたせいか心配されてしまった。
 前の部屋でもボーッとしてることは多かったけど、心配されることなんてなくて新鮮な気分だ。

 「で、では私たちも次の仕事にい、行きましょう」
 「はい」

 その後はトイレ処理(壺の中身を穴に捨てにいく)と水汲み(何往復もして水瓶をいっぱいにする)が待っていた……うん、どれも重労働だ。
 でも、水汲みやトイレ処理をやる余裕がない死にかけグループもあり……かなり悲惨な状況に陥ることもあるらしい。
 おばばさまの仕分け方もフランカお姉ちゃんが伝えたけれど、それを参考にやってみたかどうかはわからないようだ。
 この部屋も最近ようやく安定してノルマ達成できるようになったんだって。
   
 トイレ事情としては……死にかけグループは部屋の隅に壺が置いてある。それがトイレなのだ。

 前の部屋では外に共同トイレがあったのでかなり衝撃的……
 ただ、共同トイレも小説や漫画でよくあるスライムが処理してくれるパターンじゃない、ただの穴と囲いのみでにおいがキツくて落ちたら泣きたくなるやつである……
 ちなみにトイレットペーパーなんてものは存在しない。拭かないという選択をとるか、そこら辺の葉っぱを使うかだ。
 だんだんとトイレの近くにちょうどいい葉っぱが少なくなっていき取り合いになるので、わたしは水汲みのときにトイレ用の葉っぱを用意していたよ。

 この部屋のトイレが壺というのが死にかけグループの扱いの悪さだと考えると個人的に精神的ダメージが大きい。
 わたしは幼児……わたしはちびっこだ!幼児はおまる(壺)使うから大丈夫っ!って暗示をかけて壺でするしかないかなーって考えていたんだけど……なんと!死にかけグループにも井戸に近いところに共同トイレがあるんだってっ!
 水汲みの時にフランカお姉ちゃんが教えてくれたの。
 
 なぜ、部屋にも壺があるかといえば……死にかけグループはそこまで行ける元気のあるひとが少ないかららしい……
 共同トイレは使っちゃいけないわけじゃないので、わたしはなるべく……いや、全力でそっちへ行くようにしたいと思う。

 ハワードもすくっと立って、ひとりで共同トイレへ行ってきちんと帰ってくるらしい……しかも、持っていた魔石は地面においてから立つんだって。そう聞くと少しは自我がありそうだよね……まぁ、帰ってきても魔石を握りなおしたりはしないみたいだけどね……

 壺の中身は共同トイレに捨ててもいいし、決まった場所の穴に埋めてもいいらしいが……「つ、壺は重たいし転んで割ったり、な、中身を被ったら大変だから……わ、私がやるね」と言われてしまった。確かに進んでやりたい作業ではないけど、甘えてしまっていいものか……複雑な気分だ。そうだ、せめてトイレ処理の後の手洗いだけはしっかりするようにすすめておこう……
 
 水汲みは蔦を編んだロープを井戸へ投げ入れ、水の入った重たい木のバケツから部屋から持っていく木のバケツに移し替えるんだけど……わたしの力では木のバケツの半分くらいまでの量しか重たくて運べない。
 だから、必然的に何往復もすることになるんだよね。
 フランカお姉ちゃんと協力することで往復回数が少なくてすむ感じかな……トイレ処理を任せてしまった分こちらを頑張らなくちゃ。役に立てているかは微妙なところだけど……足手まといではないと信じたい。

 本当は水瓶ごと持っていければ手間もないのだが、重たいし割れたりしたら一大事だから仕方ない。でも、グウェンさんが手の空いているときは、井戸から汲み上げさえすれば水がたっぷりはいったバケツを運んでくれるからもう少し楽なんだって……

 それらがひと段落すると……わたしとフランカお姉ちゃんもみんなに混ざって黙々と魔石のノルマ達成を目指すのだ。
 わたしに任されたのはハワードに渡される魔石の半分くらいの大きさの魔石だった。うん、これくらいの大きさなら、そこまで時間がかからずに済みそうかなぁ。
 ノルマを達成できないと翌日は食事抜きなどの罰があるから、みんな真剣だ……よし、がんばろ。

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