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困った。【手嶋×相田】
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先日、僕に付きまとう吹奏楽部2年生、相田心美に僕への想いを断ち切るようにガツンと言った。
あの日以来相田は、僕に対して以前のような生意気な態度を取らなくなった。
これで平和な教員生活を送れる。
めでたしめでたし。
そう言いたいところだが、あの日以来僕の中には少し引っ掛かりが生まれていた。
相田がよそよそしい態度を取る度にその引っ掛かりは僕の心のどこかを傷つけてきた。
僕はこの引っ掛かりの正体に心当たりがある。
だけどそれを認めることは僕にはできない。
今日の吹奏楽部はいつも以上に活気に溢れている。
それもそのはず、20日ほど学校に来ていなかった部長の赤城が久しぶりに復帰したのだ。
コンクール予選も迫っており、部員も僕も焦っていたが帰って来てくれて本当に良かった。
今日は少し個人練習をさせてから合奏だ。
コンクールに向けてそろそろ課題曲の完成度を高めていきたい。
今年僕らが挑戦する課題曲はマーチだ。
構成はシンプルだがその分全員のリズムが合わないといけない。
難易度は中の上といったところだ。
「クラリネットにピッチが合ってないのがいるな。ちょっとチューニングし直してくれ。」
「打楽器と低音のズレが大きいから練習しといてくれ。リズム隊が崩れると全体が崩れるからな。」
「ここのトランペット、もっとパーンって音出して。今ちょっとへなへな過ぎる。」
顧問兼指揮者として指示を出すのが合奏中の僕の仕事だ。
約40人いる部員に気を配りながらやるのだから、1度の合奏だけでもどっと疲れる。
だが実際に演奏している部員達が1番大変なのだから、僕が弱音を吐くわけにはいかない。
歯を食いしばってやりきるだけだ。
いつもなら合奏中でも話しかけてくる相田が今日は一切話しかけて来ない。
クラリネットは指揮者と1番距離が近いため目が合いやすいのだが、目すら合わない。
妙だ。今日はなんだかいろいろおかしくなってる。
1時間程で合奏が終わった。
今日もかなり改善点が見つかった。
ここからは部員達一人一人が今日の課題をいかにクリアしていくかが大事だ。
僕にできるのは課題解決の手助けと次の合奏での更なる問題解決だ。
部活が終わると音楽準備室に赤城が入ってきた。
「手島先生、少しお話があります。」
赤城が僕に話とは珍しい。
真面目な赤城のことだ、以前の相田のような僕が変に困り果てることではないだろう。
「どうした?」
「先生、相田さんと何かありましたか?」
これは困り果てるフラグじゃないか?
まああったにはあったが、何かと問われると非常にまずい。
「...どうしてそう思う。」
「合奏中に相田さんが一言も声を出さなかったり、先生があからさまに相田さんの方を見なかったり、相田さんが少し先生を避けてるように見えたり、いろいろ理由はあります。確信ではないですが。」
「へー、そうか。」
そんなにいつもと違ったか。
部員は女子が多いから色恋沙汰は大好物だろうが、僕としては知られては困る。
教員が生徒に恋をするなんて言語道断。
問答無用で社会的抹殺は確実だ。
「でも今度はどっちかと言うと先生が相田さんのことを意識しているように見えますよ。」
それは心外だ。
僕は意識しないように気をつけていたんだ。
あれ?気をつけている時点で意識している...?
なんだかゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
「どうしてだ。」
「意識的に見ないように関わらないようにしているのが傍から見てもわかります。何があったかも、相田さんの性格やこれまでの言動、先生の立ち振る舞いから何となく想像はついています。」
「そうか...。赤城には敵わないな。」
「先生、言いたいことはいろいろありますが、今はコンクール前の大事な時期です。顧問である手嶋先生と相田さんの間に不和が生じると、それは徐々に演奏に支障をきたします。現に今日だって相田さんだけ終始ピッチが合っていませんでした。恐らく個人的なことでしょうから私からああしろこうしろとは言いませんが、なんとかしてもらわないと困ります。」
「わかった。心配かけてすまない。考えておくよ。」
「はい。それでは失礼します。」
「ああ、気をつけて帰れよ。」
「はい。」
赤城は音楽準備室を出ていく直前に立ち止まりこちらを振り向いた。
「先生、自分の想いは無理に抑え込まない方がいいのかもしれませんよ。」
「え。」
「失礼します。」
赤城が出ていってから僕の脳内はパニック状態になっている。
自分が相田をどう思っているか、薄々勘づいてはいた。
しかし教員人生を棒に振る可能性が大いにあることを考えると正面から向き合うことはできない。
だから全力で気づかないフリをしていた。
だが赤城に無理矢理向き合わされた。
気付かされてしまった。
比喩じゃなく頭を抱えた。
もう明日からまともな顔で相田と会う自信が無い。
それにやはり人生を無駄にすることは避けたい。
困った。
本当に困り果てた。
「どうしろってんだよ...。」
あの日以来相田は、僕に対して以前のような生意気な態度を取らなくなった。
これで平和な教員生活を送れる。
めでたしめでたし。
そう言いたいところだが、あの日以来僕の中には少し引っ掛かりが生まれていた。
相田がよそよそしい態度を取る度にその引っ掛かりは僕の心のどこかを傷つけてきた。
僕はこの引っ掛かりの正体に心当たりがある。
だけどそれを認めることは僕にはできない。
今日の吹奏楽部はいつも以上に活気に溢れている。
それもそのはず、20日ほど学校に来ていなかった部長の赤城が久しぶりに復帰したのだ。
コンクール予選も迫っており、部員も僕も焦っていたが帰って来てくれて本当に良かった。
今日は少し個人練習をさせてから合奏だ。
コンクールに向けてそろそろ課題曲の完成度を高めていきたい。
今年僕らが挑戦する課題曲はマーチだ。
構成はシンプルだがその分全員のリズムが合わないといけない。
難易度は中の上といったところだ。
「クラリネットにピッチが合ってないのがいるな。ちょっとチューニングし直してくれ。」
「打楽器と低音のズレが大きいから練習しといてくれ。リズム隊が崩れると全体が崩れるからな。」
「ここのトランペット、もっとパーンって音出して。今ちょっとへなへな過ぎる。」
顧問兼指揮者として指示を出すのが合奏中の僕の仕事だ。
約40人いる部員に気を配りながらやるのだから、1度の合奏だけでもどっと疲れる。
だが実際に演奏している部員達が1番大変なのだから、僕が弱音を吐くわけにはいかない。
歯を食いしばってやりきるだけだ。
いつもなら合奏中でも話しかけてくる相田が今日は一切話しかけて来ない。
クラリネットは指揮者と1番距離が近いため目が合いやすいのだが、目すら合わない。
妙だ。今日はなんだかいろいろおかしくなってる。
1時間程で合奏が終わった。
今日もかなり改善点が見つかった。
ここからは部員達一人一人が今日の課題をいかにクリアしていくかが大事だ。
僕にできるのは課題解決の手助けと次の合奏での更なる問題解決だ。
部活が終わると音楽準備室に赤城が入ってきた。
「手島先生、少しお話があります。」
赤城が僕に話とは珍しい。
真面目な赤城のことだ、以前の相田のような僕が変に困り果てることではないだろう。
「どうした?」
「先生、相田さんと何かありましたか?」
これは困り果てるフラグじゃないか?
まああったにはあったが、何かと問われると非常にまずい。
「...どうしてそう思う。」
「合奏中に相田さんが一言も声を出さなかったり、先生があからさまに相田さんの方を見なかったり、相田さんが少し先生を避けてるように見えたり、いろいろ理由はあります。確信ではないですが。」
「へー、そうか。」
そんなにいつもと違ったか。
部員は女子が多いから色恋沙汰は大好物だろうが、僕としては知られては困る。
教員が生徒に恋をするなんて言語道断。
問答無用で社会的抹殺は確実だ。
「でも今度はどっちかと言うと先生が相田さんのことを意識しているように見えますよ。」
それは心外だ。
僕は意識しないように気をつけていたんだ。
あれ?気をつけている時点で意識している...?
なんだかゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
「どうしてだ。」
「意識的に見ないように関わらないようにしているのが傍から見てもわかります。何があったかも、相田さんの性格やこれまでの言動、先生の立ち振る舞いから何となく想像はついています。」
「そうか...。赤城には敵わないな。」
「先生、言いたいことはいろいろありますが、今はコンクール前の大事な時期です。顧問である手嶋先生と相田さんの間に不和が生じると、それは徐々に演奏に支障をきたします。現に今日だって相田さんだけ終始ピッチが合っていませんでした。恐らく個人的なことでしょうから私からああしろこうしろとは言いませんが、なんとかしてもらわないと困ります。」
「わかった。心配かけてすまない。考えておくよ。」
「はい。それでは失礼します。」
「ああ、気をつけて帰れよ。」
「はい。」
赤城は音楽準備室を出ていく直前に立ち止まりこちらを振り向いた。
「先生、自分の想いは無理に抑え込まない方がいいのかもしれませんよ。」
「え。」
「失礼します。」
赤城が出ていってから僕の脳内はパニック状態になっている。
自分が相田をどう思っているか、薄々勘づいてはいた。
しかし教員人生を棒に振る可能性が大いにあることを考えると正面から向き合うことはできない。
だから全力で気づかないフリをしていた。
だが赤城に無理矢理向き合わされた。
気付かされてしまった。
比喩じゃなく頭を抱えた。
もう明日からまともな顔で相田と会う自信が無い。
それにやはり人生を無駄にすることは避けたい。
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本当に困り果てた。
「どうしろってんだよ...。」
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