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虎になる。【二宮×米田】
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同じクラスの糸田君と馬木さんがスタバで喧嘩したらしい。
その割には仲良さげだから仲直りしたんだろう。
クラスに仲のいい人がいない、恋なんて別次元の話としか思えない私には関係のない話だ。
でも素直に人に想いを伝えられるのは良いなと思う。
私はどうしても自分の内面は極力隠そうとしてしまう。
いけないこととは思っていても、それが性格になってしまっている。
小説の主人公になってしまえば言えるのに、どうして現実は小説みたいにできないんだろう。
今日も例のごとく、放課後は図書室に行く。
もちろん今日も受付には彼がいる。
「あ、米田先輩。いらっしゃい。」
「こんにちは、二宮君。」
「今、山月記読んでるんですよ。昔の小説って難しいですよね。短い話なのに時々何言ってるのかわからなくなります。」
「そうだね。今は使わない表現とか言葉が結構あるもんね。」
「そうなんですよ。もっと読みたい本があるのに、国語の授業で読まなきゃいけないんで仕方なく読んでます。」
「山月記は文学作品として凄く面白いから私もオススメだよ。確かに初心者には少し難しいだろうけど。」
「先輩のオススメ...。頑張って読みます!」
「うん。じゃあ私はこれで。」
「ごゆっくりー。」
いつもどうり窓際の隅の席を確保すると、早速本棚を物色していく。
今日の気分はミステリーかな。
ミステリー作家は東野圭吾とか湊かなえが好き。
原点回帰で江戸川乱歩なんていいかも。
いろいろ探し歩いて、結局東野圭吾にした。
王道は正義だ。
間違いない。
「先輩。もう下校時間ですよ。」
二宮君に声をかけられて窓を見ると、外は暗くなっていた。
「ああ、ごめん。急いで準備する。」
読書に集中していると時間を忘れてしまう。
その結果、下校時間になってから二宮君に呼びかけられるのはいつものことだ。
いつものように二宮君が図書室の鍵をかけ、いつものように鍵を返し、そしていつものように一緒に下校する。
今日は雨は降ってないけど、じめじめとした湿度が肌にまとわりついてなんだか嫌な感じ。
気温も高いし、早く帰ってクーラーの効いた部屋に籠りたい。
「そういえば二宮君、山月記読めた?」
「はい、おかげさまで。もっと現実的な話かと思ったら結構ファンタジーというか、現実味のない話でしたね。」
「そうだね。元々は中国の逸話だし、完全オリジナルじゃないけど。」
「あ、そうだ。そういえば今、先輩がおすすめしてくれた図書館戦争を読んでるんですよ。世界観が独特だし、ページ数多くて大変ですけど。」
「そうなんだ。確かに文章はわかりやすいけど、あの内容をあの分量はちょっと初心者向けじゃなかったかも。」
「でも面白いんで、時間かけて読んでみます。」
「うん。また感想聞かせてね。」
「もちろんです!」
もう少しで家に着く頃、二宮君が気になることを言い出した。
「山月記の李徴って、辛くて追い詰められて虎になるじゃないですか。」
「そうだね。」
「でも実際、どんなに辛くても虎になんてなれない。」
「そう、だね。」
「例えば自分の想いが相手に伝わってなくてそれを実感した時、虎にもなれない人はどうすればいいんでしょう。」
「何それ。哲学?」
「ある意味そうかもです。まあ山月記を読んだ上での純粋な疑問ですよ。」
「私はそんなふうに感じたことないからわからないな。」
「そうなんですね。先輩ならいろんなこと考えて読んでると思ってました。」
「意外とそんなことないよ。人によるだろうけど、少なくとも私は本の世界が楽しいから読んでるだけで、そんな小難しいことはほとんど考えない。」
「ちょっと意外です。」
「がっかりした?」
「いいえ。そんなことないですよ。むしろ先輩の知らない部分を知れて嬉しいです。」
よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるな。
照れる。
私の家に着いた。
私を恥ずかしくさせた二宮君には明日とんでもなく怖いホラー小説を読ませる刑に処す。
「じゃあね。今日もありがとう。」
「はい。また明日。」
玄関を開けようとすると二宮君が声をかけてきた。
「先輩。俺、虎になんてなりませんから。虎じゃなくて人としてちゃんと想い伝えますから。」
それだけ言うと二宮君は足早に走って行った。
私が家に入る直前に謎の言葉を残すのが二宮君のマイブームなのだろうか。
「変なの。」
その割には仲良さげだから仲直りしたんだろう。
クラスに仲のいい人がいない、恋なんて別次元の話としか思えない私には関係のない話だ。
でも素直に人に想いを伝えられるのは良いなと思う。
私はどうしても自分の内面は極力隠そうとしてしまう。
いけないこととは思っていても、それが性格になってしまっている。
小説の主人公になってしまえば言えるのに、どうして現実は小説みたいにできないんだろう。
今日も例のごとく、放課後は図書室に行く。
もちろん今日も受付には彼がいる。
「あ、米田先輩。いらっしゃい。」
「こんにちは、二宮君。」
「今、山月記読んでるんですよ。昔の小説って難しいですよね。短い話なのに時々何言ってるのかわからなくなります。」
「そうだね。今は使わない表現とか言葉が結構あるもんね。」
「そうなんですよ。もっと読みたい本があるのに、国語の授業で読まなきゃいけないんで仕方なく読んでます。」
「山月記は文学作品として凄く面白いから私もオススメだよ。確かに初心者には少し難しいだろうけど。」
「先輩のオススメ...。頑張って読みます!」
「うん。じゃあ私はこれで。」
「ごゆっくりー。」
いつもどうり窓際の隅の席を確保すると、早速本棚を物色していく。
今日の気分はミステリーかな。
ミステリー作家は東野圭吾とか湊かなえが好き。
原点回帰で江戸川乱歩なんていいかも。
いろいろ探し歩いて、結局東野圭吾にした。
王道は正義だ。
間違いない。
「先輩。もう下校時間ですよ。」
二宮君に声をかけられて窓を見ると、外は暗くなっていた。
「ああ、ごめん。急いで準備する。」
読書に集中していると時間を忘れてしまう。
その結果、下校時間になってから二宮君に呼びかけられるのはいつものことだ。
いつものように二宮君が図書室の鍵をかけ、いつものように鍵を返し、そしていつものように一緒に下校する。
今日は雨は降ってないけど、じめじめとした湿度が肌にまとわりついてなんだか嫌な感じ。
気温も高いし、早く帰ってクーラーの効いた部屋に籠りたい。
「そういえば二宮君、山月記読めた?」
「はい、おかげさまで。もっと現実的な話かと思ったら結構ファンタジーというか、現実味のない話でしたね。」
「そうだね。元々は中国の逸話だし、完全オリジナルじゃないけど。」
「あ、そうだ。そういえば今、先輩がおすすめしてくれた図書館戦争を読んでるんですよ。世界観が独特だし、ページ数多くて大変ですけど。」
「そうなんだ。確かに文章はわかりやすいけど、あの内容をあの分量はちょっと初心者向けじゃなかったかも。」
「でも面白いんで、時間かけて読んでみます。」
「うん。また感想聞かせてね。」
「もちろんです!」
もう少しで家に着く頃、二宮君が気になることを言い出した。
「山月記の李徴って、辛くて追い詰められて虎になるじゃないですか。」
「そうだね。」
「でも実際、どんなに辛くても虎になんてなれない。」
「そう、だね。」
「例えば自分の想いが相手に伝わってなくてそれを実感した時、虎にもなれない人はどうすればいいんでしょう。」
「何それ。哲学?」
「ある意味そうかもです。まあ山月記を読んだ上での純粋な疑問ですよ。」
「私はそんなふうに感じたことないからわからないな。」
「そうなんですね。先輩ならいろんなこと考えて読んでると思ってました。」
「意外とそんなことないよ。人によるだろうけど、少なくとも私は本の世界が楽しいから読んでるだけで、そんな小難しいことはほとんど考えない。」
「ちょっと意外です。」
「がっかりした?」
「いいえ。そんなことないですよ。むしろ先輩の知らない部分を知れて嬉しいです。」
よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるな。
照れる。
私の家に着いた。
私を恥ずかしくさせた二宮君には明日とんでもなく怖いホラー小説を読ませる刑に処す。
「じゃあね。今日もありがとう。」
「はい。また明日。」
玄関を開けようとすると二宮君が声をかけてきた。
「先輩。俺、虎になんてなりませんから。虎じゃなくて人としてちゃんと想い伝えますから。」
それだけ言うと二宮君は足早に走って行った。
私が家に入る直前に謎の言葉を残すのが二宮君のマイブームなのだろうか。
「変なの。」
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