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第10話 秀久の過去 その1
しおりを挟む――28年前
秀久は当時16歳、悠夜と同じ高校生だった。
しかし、悠夜とは違う所がある。それは虐められていたのだ。
「おーい!鴉御兄弟のダメな方!お前ん家金持ってんだろ?兄貴の方に頼めねぇから、お前が金持って来いよ」
「な、何で僕がそんな事を……」
「あぁ?出来るよな……?」
秀久には2つ年上の兄がいた。
それはそれはとても頭が良くて、スポーツ万能。社交性もあり、絵に描いた様な人間だ。
そんな兄とは対照的に、秀久は勉強は出来るが運動神経は無く友達も居ない。
そのせいか学校では比較される事も多く、こうして虐められるようになってしまった。
「もう……嫌だなぁ……」
この時秀久はもう死にたいと思っていた。学校で虐められて、家ではイザコザが絶えない。そんな生活に終止符を打ちたいと考えていた。
しかし、秀久はその勇気もなくいつも通り不良にお金を届ける為、同級生が楽しそうに遊んでいる所を横目に家へと急いだ。
普段はこのまま家へと向かうはずだったが、秀久は何故か今日は一本違う道を使った。
この判断が秀久をある女性と引き合わせる。
道は変われど急いで帰る事に変わりはなかった為、走っていると思わず足が止まる。
「……かわいい」
そこには秀久と同じぐらいの年齢の女性が立っており、彼女は道行く人に花を売っていた。
その身なりはお世辞にも良いものとは言えずなかなか花を買って貰えそうにない。
見かねた秀久は思わず駆け寄り、花売りの彼女に話しかけた。
「あ、あの……」
「はい?」
「そ、そそ、その花全部ください!」
「え、全部ですか!?」
彼女は秀久の迫力と言葉に驚き少し戸惑ってしまった。
「本当に良いんですか?」
「はい!」
「ありがとうございます……助かります」
その時の彼女は少しホッとしたような表情で、秀久に優しく微笑む。
しかし秀久は財布を確認するとお金がない事に気がつき、慌てて家へと帰った。
家へと走ってる最中、秀久の頭の中は彼女の事で頭がいっぱいだ。喜んで微笑んでくれていたあの顔に一目惚れした。
家へ着くと、親の財布からお金をくすね再び家を出る。
普段から不良にカツアゲをされていたので、お金を抜くのも容易かった。
近くまで走ってくると彼女の姿が見える。彼女は1人ポツンと座って待っていたが秀久の姿が見えると立ち上がり手を振った。
この姿にまたもや秀久は心を打たれ二度も恋に落ちた。
「お待たせしました!」
「そんなに急がなくても良かったのに……」
「そ、そんな!走りたかっただけですから!これで足りますか?」
すると、秀久は大量の札束をポケットから出して彼女に渡そうとする。
彼女は大慌てでそれを仕舞うように促した。
「ど、どうしてそんな大金を」
「いくらか分からなかったので、とりあえずこれだけと思って……」
「うちの花はそんなに高くないですよ」
「そ、そうですか……」
秀久は札束の中から1枚だけ彼女に渡して、沢山残っていた花を受け取る。
彼女は大事そうにお金を受け取ると、秀久にお礼を言った。
「ありがとうございます……これで何日かはみんなの面倒が見れます」
「みんな……?」
「ええ、もともと私は孤児院にいて、小さい頃にある家に引き取られたんです。その家の主人は心優しくて、生活を切り崩してでも孤児院の子供たちを何人も引き取ってるの。だから私も少しは手助けにって思って……」
「そうなんだ……」
秀久の家は大財閥であるが、彼女は貧しい暮らしをしている。今までなら絶対に出会う事のなかった彼女に、秀久は好きとは別の興味が湧いてきた。
彼女も彼女で札束を持ってきた謎の青年に興味を持っていた。
「あなた、お金持ちなの?」
「え、ま、まあね」
「やっぱり!私、あんなお金の束初めて見たもん!」
彼女はそう言って無邪気に笑う。さっきよりも素に近い彼女自身の笑顔だった。
その彼女の笑顔に秀久はさらに心をときめかせ、また会えないだろうかと思うようになった。
これを逃したら最後、もう二度と会えないかもしれない。その気持ちから秀久は勇気を振り絞って聞いた。
「次!次っていつ会えますか!?」
「明後日、またここに花を売りに来ます」
「絶対に行きます!そしてまた花を買います!」
「無理だけはしないでくださいね?」
次もまた会えると思えた秀久は学校で虐められている事や、馬が合わない父親との関係、その全てを忘れられるぐらい浮かれた。
家に帰った秀久は買ってきた花を部屋に飾り、彼女の事ばかり考えるようになっていった。
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